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米と塩で天下を獲る ~滅亡寸前の戦国領地を立て直したら、なぜか天下人と呼ばれていました~  作者: 釣鐘銅鑼


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第十一話 初陣の幕開け

黒峰城の軍議は慌ただしく進んでいた。


朝倉家。


東方二十万石を誇る大勢力。


その軍勢三千が国境へ集結している。


誰が見ても戦の前兆だった。


「報告を」


黒峰宗景が言う。


軍議の間には重臣たちが並び、壁には周辺地図が掛けられていた。


「敵は三千二百」


「先鋒は朝倉景親」


「本軍は朝倉義康が率いております」


宗景は頷く。


予想通りだった。


「本気ですな」


家老が呟く。


「当然だ」


宗景は地図を見つめる。


黒峰家と朝倉家は長年対立している。


互いに領土を狙い続けてきた。


いつ戦になっても不思議ではなかった。


そして今。


相良との同盟を察知した朝倉家が先に動いた。


「若様」


岩倉が小声で囁く。


「帰りましょう」


「帰れる空気か?」


「無理ですね」


二人は同時にため息をついた。


悠真は軍議の隅に座っている。


完全に部外者のはずだった。


だが宗景は帰してくれない。


「勉強だ」


その一言である。


ブラック企業時代も理不尽だったが、戦国大名もなかなか理不尽だった。


「相良殿」


嫌な予感。


宗景がこちらを見ている。


「何でしょう」


「どう見る」


軍議の全員がこちらを向いた。


勘弁してほしい。


自分は軍師ではない。


歴史オタクだっただけだ。


だが宗景の目は本気だった。


悠真は地図を見る。


国境。


山岳地帯。


川。


街道。


そして兵力差。


しばらく考える。


「兵糧は?」


全員が固まった。


「兵糧?」


家老が聞き返す。


「朝倉軍の兵糧です」


宗景の目が細くなる。


面白そうだった。


「続けろ」


「三千の軍勢なら大量の食料が必要です」


悠真は地図を指差す。


「この街道一本で運んでいるなら」


「補給線が長い」


静寂。


軍議の空気が変わった。


「なるほど」


宗景が笑う。


「敵軍ではなく兵糧を狙うか」


悠真は頷く。


正面から戦えば被害が出る。


だが補給を断てば話は別だ。


歴史上でも何度も行われた。


「面白い」


宗景は笑った。


義隆も驚いた顔をしている。


「父上」


「うむ」


宗景は立ち上がった。


「まず補給線を探る」


重臣たちが一斉に動き始める。


軍議がまとまった。


悠真は少し安堵した。


役目は終わった。


そう思った。


「相良殿」


終わっていなかった。


「はい」


「同行しろ」


やっぱり。


◇◇◇


翌日。


黒峰軍は出陣した。


総勢二千五百。


城門が開き、兵たちが次々と進む。


槍。


弓。


騎馬。


まさに戦国時代だった。


悠真は馬上でそれを眺める。


「凄いな……」


思わず呟く。


映像では見たことがある。


ゲームでもある。


だが実物は別物だった。


兵たちの熱気。


金属の音。


土煙。


すべてが圧倒的だった。


「怖いか」


隣で宗景が笑う。


「めちゃくちゃ怖いです」


正直だった。


宗景は豪快に笑う。


「それでいい」


「はい?」


「怖さを知らぬ者は死ぬ」


戦国大名らしい言葉だった。


◇◇◇


二日後。


黒峰軍は前線へ到着した。


その夜。


斥候が戻る。


「敵補給隊を発見!」


軍議が開かれる。


朝倉軍本隊から半日ほど離れた場所。


食糧を運ぶ荷駄隊。


護衛は百ほど。


宗景は地図を見る。


「どう思う」


また振られた。


悠真は苦笑する。


だが答えは決まっていた。


「叩くべきです」


「理由は」


「戦う前に敵を飢えさせられる」


宗景は頷いた。


完全に同意見だった。


「よし」


立ち上がる。


「義隆」


「はっ」


「五百を率いろ」


義隆の目が輝く。


戦の匂いだ。


「夜襲だ」


周囲の武将たちが笑う。


士気は高い。


一方で。


悠真だけは思った。


――本当に始まるんだな。


戦が。


命のやり取りが。


歴史好きだった頃は、戦国武将を格好いいと思っていた。


だが今は違う。


目の前には本物の兵士がいる。


死ねば終わり。


やり直しはない。


その現実が重くのしかかる。


「若様」


岩倉が声をかける。


「顔色が悪いですよ」


「そうか?」


「ええ」


悠真は苦笑した。


怖い。


当然だった。


だが。


「逃げられないな」


「はい」


岩倉も笑う。


戦国乱世。


相良悠真の初陣が始まろうとしていた。


そしてその夜。


黒峰軍五百は静かに闇へ消えた。


朝倉軍の兵糧を焼くために。


後に『赤月の夜襲』と呼ばれる戦いの幕が、静かに上がろうとしていた。

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