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第41話:恒一の決心。職業霊媒師への道

 

「うああ……むっちゃ疲れたー」

 

 荷物を取るために、部屋に戻ってきた途端、力が抜けた。

 

「なんか、いろいろありすぎて……何に驚いていいのか、わかんなくなった……」

 

 考えると、手に持った封筒が重みを増した気がする。

 

「まあ……」

 

 拓海が、少し苦い顔をした。

 

「正直、悪い話じゃないとは思う。師匠は一癖も二癖もある人だけど、嘘はつかないし。……ちょっと話そうぜ」

「うん。知ってることは教えて」

 

 拓海は備え付けのコーヒーを淹れて、テーブルに持ってくると話し始めた。

 

「入社するかは別にして、ここで最低限の講習だけは受けておいた方がいい。ほとんど義務に近いんだけど、霊力を持った人間がどうやって生きていけばいいのかを教えてくれる。怪異からの身の守り方とか、霊力の制御方法とか。……それ以外にも、専門の講習も種類はたくさんある。主なヤツはリストになって、さっきの書類にあるんじゃないか?」

 

 恒一が封筒の中を探すと、数枚にまとめられた講習リストが入っていた。

 

「へえ、個人でも受けられるんだ……」

「基本講習はいつでも受けられるけど、専門的なのは、担当者の調整が必要だから、事前予約がいる」

「へえ……」

 

 軽く目を通すが、基本講習と言われるもの以外は、何をするのかさっぱりな項目が並んでいる。

 

「おすすめは、呪符作成講座かな。呪符が書けたら、ノーリスクで結構な稼ぎになるぜ。龍二も受けたけど、能力がなかったみたいで悔しがってたな」

 

 ひひ、と笑う拓海に、「なるほど」と頷いた。

 

「さて、じゃあ霊媒師の話だ」

 

 拓海が財布から、カードを取り出して、机に置いた。

 さきほどやったみたいに意識して見ると、文字が視えてきた。


『霊障管理士認定証・天儀・七位階』

  

 当然ながら、(仮)の文字がない。その下には拓海の本名が書かれている。

 さらにその下に、小さく縁結八、剣持七の文字。

 

 比較しようと、恒一はもらった自分のカードも横に並べた。

 

「霊障管理士、って言うのは資格なんだ。これの結果で認定される」

 

 拓海はさっき自分が使ったばかりの試験紙を見せた。そこには、光佑とも恒一とも違う模様が浮かび上がっていた。色は恒一より濃い。

 

「資格があるだけで知れることがたくさんある。俺は恒一の情報が欲しくて試験を受けたんだけど。そうじゃなかったとしても、受けることになったと思う。まあ、一番のきっかけは師匠と出会ったことだけど」

 

 拓海はコーヒーを一口飲んで、更に話を続ける。

 

「俺、元々霊力持ちだったらしいんだけど、あの村に長期間いたからか、戻ってからはかなり強くなってて。そこかしこで怪異や霊を見るようになって……怪異側に目を付けられたりもしてさ。もし、師匠と出会ってなかったら、どうしただろうって思うぐらい」

 

 恒一の脳裏に、霧守村にいた先客が浮かぶ。

 怖くて泣いたりしたんだろうか。

 

「霊力持ちの人間はすごく少ない。試験をパス出来るヤツは更に少ない。ただ、実際に怪異に立ち向かうかどうかは、本人次第。別の道を行くことだってできる。……ただ、現実問題、何の保護もなし普通の生活を送るのは難しい。対処法は教えてもらえるけど、それだけじゃ解決できないこともある。霊媒師同士ですら、助け合わないといけない場面なんて、いくらでもあるし」

「じゃあ、拓海が霊媒師になったのは、悪いことじゃなかったんだな」

 

 拓海は頷く。

 

「もちろん、一番の理由は旅人の情報が欲しかったからだけど。修練してなかったら、今頃は結構苦労してたと思う」

「難しいな……」

 

 霊媒師として働くなら、危険はあるだろう。

 だけど、違う道を選んだからといって、霊力がなくなる訳じゃない。相手が霊媒師かどうかなんて、怪異には関係のない話だ。

 

「師匠の会社に入社しても、怪異と戦う部署ばかりじゃない。怪異や霊の種類や強さを見極める斥候役もいるし、封印専門もいる。怪異を解析したり、呪符を書く部署もあるし、当然、施設管理や事務職だってある。……独立して、霊媒師として自分の店を持つヤツもいるし、俺みたいに別の業種で働いて、呼び出されてバイト扱いのもいる」

 

「でも、霊媒師って危ないんだろ?」

 

 拓海のことが心配になって、思わず聞いてしまう。

 つい、口調がきつくなってしまった。

 

「あーいや、昨日のアレは、俺がヘマやったというか……」

 

 拓海は気まずそうにコーヒーを口に運んだ。

 

「無理そうだったら逃げろ。――これが怪異に対する時の鉄則なんだ。でも、昨日は自分じゃ処理できない量の怪異が出てきて。即、撤退すべきだった。……それを、雑魚だったから読み違えて……いや、その前の幻覚が原因か。……気付いたら、霊力使い切ってた。……情けねぇ」

「普段から、あんなに危ないのか?」

 

 責めるつもりはないのに、心配でつい強い口調になってしまう。

 

「いや、滅多にない。今回は本当にイレギュラーだった。たまたま師匠が留守の時に、強い怪異が出て、ほとんどがそっちに行ってて手薄だったんだ。その怪異の煽りで逃げた雑魚が街に出てきて、その時、すぐに動けたのが俺と龍二だっただけで」

「でも、もし光佑さんが来なかったら……」

 

 つい睨んでしまうと、拓海が慌てて弁解する。

 

「大丈夫! そういう時のためにタッグで動いてんだし! 俺がぶっ倒れたら龍二が引きずってでも逃げる。逆もそう!」

「その、見極めってさ、俺にできると思う?」

 

 恒一の言葉に、拓海がうっと詰まる。

 

「……出来る、と思う。少なくとも、俺よりはずっと向いてる、と思う。……てか、怪異だけじゃなくて、人間の気配にも敏感だろ。」

「俺が一緒に現場に行くってのは?」

「あーうん……それは、……」

 

 拓海は言葉を濁すが、断る理由が見つからない。

 誰と出動するかを自分で決められない、社員とバイトが一緒に行動できない、とか、適当な理由は思いつくが、実際の運用はザルだ。なにせ、社長本人があの自由っぷりだ。

 

「……とにかく、そこは修練次第だ。能力のないヤツを連れていく訳にはいかないし、あとは師匠が許すかどうかも……」

「わかった」

 

 恒一は封筒から、雇用契約書を取り出した。

 

「ペン、持ってる?」

「ええ? なんで急に!?」

 

 拓海が悲鳴のような声を上げた。

 恒一はソファから立ち上がると、壁際のデスクに置かれたメモトレイからペンを取った。

 

「いろいろ考えてたけど、今のが最後の後押しになった。俺、就職するよ」

「え? どこが? 何が?」

 

 さらさらと記名する恒一を見ながら、拓海はおろおろとする。

 

「条件とかはさっき確認して、十分すぎる好条件なのはわかってたから。むしろそこが怪しいと思ってたんだ。だから、高待遇の理由がわかって、安心した」

「そうなのか……」

「だって、このままじゃ俺、就職浪人だぜ?」

 

 笑ってみせると、拓海はがっくりと肩を落とした。

 

「俺の会社に就職って手もあるけど……」

「美容サロンだろ? 無理だよ!?」

 このド平凡顔で、美容なんてものに全く縁のない男が、サロン経営会社に勤務? しかも縁故で? ないない。

 それなら同じ縁故でも、霊力が理由な分だけ、光佑の会社の方が自分の中で納得できる。


「で、これって、どこに送付すればいいのかな? 受付に聞いたらわかる?」

「受付でも大丈夫だと思う。渡したら、すぐに師匠……社長に連絡行くと思うし」

「光佑さんって、社長なの!?」


 ブブブ……

 

 その時、拓海のスマホが振動した。

 

「あ、やべっ」

 

 画面には、拓海の母の名前が表示されていた。

 

 龍二が休みにしてくれたとはいえ、本来なら仕事があった日だ。職場に連絡の一本は入れておくべきだった。

 そう思って、通話スイッチを押すと、母の声が聞こえてきた。

 

「もしもし」 

『ちょっとー、拓海! どこにいるのよ? オムレット持ってきたのに、いないんだもん!』

「んん?」

 

(龍二、報連相ほうれんそうはしっかりしろと、いつも言ってるだろ!)

 

「ごめん。昨日は徹夜だったから、バイト先で寝てたんだ」

『んもう、せっかく家に戻ったのに。いいわ、帰る前に本店の方に寄りなさい』

「はい。わかりました」

『あ、そうそう。リュウちゃんから聞いたわよ。探してた人、見つかったんですって? 必ず連れてくるのよ。いいわね!』

「え、それはっ」

 

 母は言いたいことだけ言って、ブツンと通話が切れた。

 

「母さん……」

 

 拓海は、はーーっと大きく息をついた。

 

 恒一を探すために、母にはいろいろと協力してもらった。(主に金銭的に)

 いつかは顔合わせをするなら、今日でいいだろうと考えた。(意訳:断るのがとてつもなく面倒くさい)

 

「大丈夫か?」

 

 通話内容が聞こえていたんだろう。

 恒一が心配そうな顔をしている。

 

「悪い。すぐ済むから、ちょっと付き合ってくれる?」

 


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