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第39話:雇用契約書。囲い込まれてる気がします……

 

「恒一、これ」

 

 拓海が慌てて差し出してきた紙を受け取り、指先の感覚をそのまま紙に伝える。

 集中しすぎるとダメなようで、霊力が揺れて分散してしまう。

 できるだけ平静でいるように、ただ意識だけを指先に向けた。

 

「あ……」

 

 しばらくすると、うっすらと文字が浮かび上がってきた。

 光佑の紙に浮かんだものとは形も色も全然違う。青色が滲んだ、薄墨で書いたような、比較するとシンプルな模様だ。

 

「おお、最初にしては上出来やん」

 

 しばらく待ったが、それ以上、色は変わらなかった。

 興味深そうに見ている光佑に紙を渡す。

 

「ほんほん、霊能力そのものはそうでもないな……でも、感応系が凄いな」

 

 恒一には紙に浮かび上がった文字も色も意味がわからない。

 

「で、どんな結果なんですか?」

「んー、攻撃力はほとんどあれへんな。術の方はまあまあ、ただ、マジで感応系が凄いで。ちょっとした怪異なら、使役できるんちゃうか?」

「暴風みたいに?」

「あれは、オトモダチやろ。あれ、使役されたら、敵わんわ……」

 

 光佑が思い出したようにブルッと体を震わす。

 

「使役って、あの巫女さんみたいにですか?」

「あー、須々木くんは上位互換やな。巫女さんは無尽蔵に怪異を呼び寄せて大変やったらしいで? 自分の意志と無関係に好かれるのは難儀やったやろうなぁ」

「それは確かに……」

「それに、須々木くんのはアレや。怪異だけやなくて、人間にも効果ありやろ」

「? そうなんですか?」

 

 光佑の言葉に首を傾げる。確かに友達は多いけど、使役ってことはないし。何と言っても……

 

(モテませんしね……)

 

 微妙な顔をしていると、光佑がわざとらしくため息をつく。

 

「やっぱり無自覚か。タチ悪いなぁ。拓海、須々木くんにメッチャ好かれてるやん」

「んん?」

 

 どういうこと?と思って拓海を見るが、彼もわかってなさそうだ。

 光佑はスウッと目を細めて、恒一を見つめる。

 

「……霊力を感応系に全振りしたか? 生育環境が影響しとるんかな。……器用なもんや。……繊細な霊気が、周囲を網目みたいに走っとる……」

 

 全身を撫でられるような視線に、体がすくむ。

 

「……まあ、微弱やから、馬鹿弟子には見えへんか」

「それって……」

 

(俺の気持ちが見えてるってこと?)

 

 光佑は視線を外すと、ニヤニヤと笑う。

 

「ここまで微細な調整しとるのに無自覚とは、末恐ろしいわ。俺、廃村で初めて会うた時、ちょっとビビったんやで。しゅるしゅる全方向から探りよるし」

「えっ、えっ??」

 

(確かに警戒はしてたけど、そんなことしてたのか、俺っ!)

 

「それが拓海には……まあ、ええわ。馬鹿弟子も修行したら見えるかもやし」

 

 ニヤニヤ笑いをキープしたまま、光佑は一枚のカードを取り出した。

 そこには『特殊技能免許丙種』と書かれている。一目見ただけでは、何の免許なのかわからない。

 

「ここ、手に持って、注意して見てみ」

 

 言われるままに手にすると、文字が浮かび上がってきた。

 

『霊障管理士(仮)認定証・天儀・十位階』

 

「えっ、なんで?」

「霊力があるヤツには見えるように作ってあるんや」

 

 光佑が自慢そうに胸を張る。

 

「簡単な呪符の応用やねんけど、これが結構便利なんや。相手が霊的存在が見えるかどうかもわかるしな」

「へーー……」

 

 素直に感心する。

 

「霊媒師としてのマナーや。見えへんヤツには、怪異や悪霊の存在をバラさんこと。……もちろん、被害者は別やけど」

「そうですね。まず信じないでしょうし」

「そうやない。信じられた方が厄介なんや。人の噂や興味、恐怖なんかを力にする怪異は結構おるんや。わざわざ敵を強うする必要ないやろ?」

「……都市伝説ですか? 口裂け女とか、トイレの花子さんとか」

 

 思いついた都市伝説を口にすると、光佑は頷く。

 

「見たことはあれへんけど、元々おった怪異が噂で形を持ったんやろうな。そうやないと、名前持ちの怪異が全国で同時出没とか、ちょっとありえへん。噂も馬鹿にできへんやろ?」

「そうですよね。気をつけます」

 

 そこまで言ってから思い出した。

 

「あ、俺、友達に霧守村のこと言ってしまいました!」

「まあ、知らんかったんやし、それはしゃーない。それに、白骨大量発見で噂はもう出とるやろ。だから早く巫女さんの骨を回収したかったんや。あれの力と噂が合わさって、『霧守村』復活やなんて、笑えんわ」

「それは……恐ろしいです」

 

 想像してゾッとした。

 全く同じ村が出来ても嫌だが、もっと酷い噂が実現してしまったら……と考えていたら、光佑が1枚の書類を机の上に置いた。

 

「そのカードは身分証明にもなるから、無くさんように。で、こっち」

 

 そう言って、ペンを手渡された。

 

「ここにサインだけしてや」

 

 見ると、雇用契約書と印刷されている。

 

「え、俺、内定ですか?」

「内定やない。本採用や」

「ちょ、ちょっと待ってください」

 

 さすがに条件もわからない状態でサインはできない。

 

「師匠、強引すぎですって」

 

 途中から様子見に徹していた拓海が口を挟む。

 

「そやけど、どうせ結果は同じやで?」

「どうだか。……恒一、イヤだったらはっきり言えよ」

「イヤも何も……月給は? ボーナスはありますか? 福利厚生は?」

 

 恒一の言葉に、光佑が「そういえば」という顔をした。

 

「就職する時の、基本中の基本じゃないですか……」

「いや、大抵のヤツがそんなもん気にせえへんから……」

「大丈夫なのか? この業界……」

 

 チラッと拓海を見ると、「いや、俺も龍二も出来高だし……」と横を向いた。

 

「んじゃ、これ」

 

 光佑が大判の茶封筒を出してきた。

 中には資料や書類が入っているようだ。

 

「これは帰ってから見てもらおうと思ってたんやけど」

 

 中身を机の上に出し、雇用条件が書かれた書類を探し出した。

 

「これっ」

「マジかっ」

 

 恒一と拓海が同時に驚く。

 想像していたより、月給は3倍も高かった。

 

「うわ、……営業ノルマなし。歩合給あり。危険手当、出張手当」

 

 恒一が目を白黒させながら内容を読んでいく。

 

「交通費、住宅手当全額支給。豪華独身寮あり。社員食堂及び、施設の利用無料」


(なにこれ、こんな条件見たことない……俺、騙されてないか……?)


「社員用メンタルケア施設あり。有給初年度130日。別途特別休暇あり。……これ」

 

 拓海が絶句する。

 

「うちの会社に入社してもらおうと思ったのに……これは、無理」

 

 がっくり肩を落とす拓海に、光佑が上から目線で笑う。

 

「ほほほ〜、そりゃあ、そこらの中小企業の常務、あ、専務だっけ? とは違いますわなぁ。まずは人事権を手中に入れるのが基本やろぉ?」

 

 2人のやり取りを横目に、恒一は注意事項を読み込んでいた。

 

「緊急事態時の召集には応じること……?」

 

 霊媒師のいう緊急事態を考えると怖い。

 それに。

 

「職種書いてない……いきなり本採用って、研修でもしてから、配属が決まるパターン?」

 

(うまい話には気をつけろって、弁護士さんも言ってたし)

 

 光佑と拓海が睨み合っている中、恒一は採用条件を読み続けた。

 

 


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