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第34話:何はさておき身だしなみ

 

 ブブブ、というバイブ音で恒一は目が覚めた。 

 すっかり眠ってしまっていた。

 

 目をこすりながら音の発信源を探ると、脱がせた拓海の上着からだった。

 ポケットを探ると、震えるスマホがすぐに見つかった。

 

(どうしよう……起こすのは可哀想だしな……)

 

 迷っていると、スマホは沈黙した。

 ホッとしたのも束の間、すぐに「ピリリリリリ……!」と大音量の呼び出し音が鳴り出した。

 

「うわっ」

 

 別の場所だ、と目で探すと、テーブルの上に置かれた龍二のスマホからだった。

 

「んあーーー……」

 

 その音に反応したのか、龍二がのっそりと体を起こした。

 目は全く開いていないので、慌ててスマホを龍二に手渡した。

 

「んー? ああ、サンキュウ。……はい。山田です……」

『ちょっと! リュウちゃん!! 拓海はどうしたの!?』

 

 隣にいるだけで内容までわかってしまうような大声が聞こえてきた。

 女性、おそらく年配の。

 

「ああ、社長……あんま大声やめて、俺、寝起きで……」

 

 むにゃむにゃとはっきりしない口調で、龍二が返事をしている。

 

『寝起きで、じゃないわよ!ちゃんと説明しなさい!拓海は生きてるの!?』

「生きてるっす。寝てるっす」

 

 雑な説明だが、電話の相手はそれだけで納得したようだ。

 

『そう、ならいいわ。今日の説明会は欠席なのね?』

「そうっす。メールした通りっす。起きないっす」

『せっかく、エシレ・マルシェ・オ・ブールのオムレット買ってきてもらったのに! 起きたら家に届けさせるわ!』

「いっとくっす」

『それから、あの子のヘアカットなんだけど担当変えたから!』

「うっす」

 

 しばらく一方的な会話が続き、龍二は相槌を打ち続けたあと、唐突に通話は切れた。

 

『あ、そろそろ出るわ』

 

 プチッ、

 

「…………」

 

 龍二はスマホをもったまましばらく固まっていたが、ボリボリと頭をかいて大きく欠伸をした。

 

「ふわああああ~~~……、すっかり目が覚めちまったぜ……」

 

 のそのそとベッドから降りて、冷蔵庫から水を取り出して飲む。

 

「まだ、早朝じゃねーか。社長、元気だな……」

 

 そのまま、龍二はのそのそと服を着替える。

 

 首をコキコキ動かして、拓海を覗き込む。

 

「よく寝てんなぁ。いいご身分だぜ、全く」

 

 龍二が鼻をピンッと指で弾くと、「うう……」と呻いて、拓海は反対側に寝返りを打った。

 

「どうする? 起こすか? ほっとくと、あと半日は寝るぞ」

「え」

 

 問いかけられて恒一は困惑する。

 早く起きて欲しいけど、疲れは取って欲しい。

 

「心配しなくても、霊力はもう戻ってる。容量キャパが小さい分、戻るのも早ええんだとさ」

「あ、でも、いや……」

 

 スパンッ!

 龍二がいきなり拓海の頭を叩いた。

 

「ああっ!? ちょ、なに!」

 

 躊躇している間に、即、手が出る龍二に驚愕する。

  

「……う、うう……いってぇ~」

 

 おろおろしていると、拓海が頭を振ってゆっくりと体を起こした。

 

「……ってえなあ~~っ!!! もっとまともな起こし方しやがれっ!! こんの、クソ、」

 

 ガバッと顔を上げた拓海の顔は、怒りの形相だった。

 

「あっ、ご、ごめんっ!」

 

 つい反射的に誤ってしまう。

 が、拓海の目が恒一を捉えた瞬間、固まった。

 

「リュウジ……って、ええ……?」

 

 周囲をキョロキョロ見渡す。

 

「ええ……?」

 

 もう一度、弱々しい声を出したあと、拓海は沈黙した。

 

 

 

 

「で、こいつが、お前の探してた『鈴木コウイチ』で間違いないんだな」

「ハイ……たぶん」

「…………」

 

 なぜか、拓海がベッドの上に正座させられている。

 

「多分?」

「いや、はいっ! 間違いないですっ!」

 

(同僚じゃなかったのかな?)

 

 恒一は2人の様子を少し離れたところから見ていた。

 生きて動いている先客から目が離せない。

 

「んじゃ、11年越しのバイト、これで完了な。……ちっ、この年になってランドとシーの入場券もらって、どーすんだよ」

「いらないなら……」

「もらう」

 

 断言したあと、龍二は拓海の母から電話があったことを思い出した。

 

「ああ、そうだ。さっき、社長から電話があって、今日は休みにしといたから。ゆっくり親交を深めるなり、イチャイチャするなり好きにしろ」

「あ……ハイ」

 

 龍二は拓海に背を向けると、恒一に向かってきた。

 

「これで、あんたが拓海のこいb……知り合いだってわかったから、俺行くわ」

「え?」

「さすがに、正体不明のヤツとダチを一緒にして帰れねーだろ。じゃあな」

 

 言いたいことだけを言うと、龍二はさっさと部屋を出ていった。

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 一気に室内が静かになった。

 

 残されたのは、拓海と恒一。

 それと、

 ――光佑から託された、風呂敷包み。

 

「あ、これ……、龍二さん、置いてったけど、いいのかな?」

「え、これ何、なに……ですか?」

 

 明らかに挙動不審な拓海が、風呂敷に手を伸ばす。

 

「ああ、例の守宮やもりの巫女さんの遺骨。光佑さんから預かって……」

「はあ!?」

 

 拓海は触れようとした手をバッと離す。

 

「あの、オッサン、何を旅人に渡してやがんだっ! あっぶねぇ……」

「あ、いや、渡したのは俺にじゃなくて、龍二さんになんだけど」

「え、そうなんだ」

 

 拓海が顔を上げた瞬間。

 ちょうど近付いていた恒一と至近距離でバチッと目が合った。

 

「あ……」

「え、あっと……」

 

 なんか、非常にきまずい。

 そろそろっと、恒一は後ろに下がって、ソファに腰掛けた。

 

「あ、えと、その、これ、どうしろって?」

「なんか、事務所に保管しろって、言われてたような……」

「そ、そっか、じゃあすぐに持っていかないと……」

 

 拓海が慌てて立ち上がる。その瞬間、何かに気付いたようにハッとする。

 

「やべっ! 俺、制服のままじゃんか!? しかも風呂入ってない! 旅人! 臭くなかった!?」

「え、ええ? 大丈夫だよ? 働いたあとなら、普通だろ」

「臭せーんじゃん!!!」

 

 拓海は頭を抱えて、そのまま風呂場へと直行する。

 

「ちょっと待ってて! とりあえずシャワー浴びるから! 話は、その、あとっ!」

 

 あまりの勢いに呆気に取られていると、バタバタと足音が戻ってきた。

 

「その、すぐ出てくるからっ! 帰らないで待ってて! あと、その風呂敷には触るなよっ!」

 

 再びバタバタと風呂場に消えていった。

 すぐにシャワーの水流の音が聞こえてくる。

 

「はーー……」

 

 ぽすん、とソファに座る。

 

「…………ぷっ」

 

「あはっ、あははははっ」

 

 焦った顔があの頃の先客に被る。

 

「ははっ、あはははっ、ぜんっぜん、変わってない……っ」


 可笑しくて堪らなくて、ソファから足を上げてバタバタする。

 

「くくくくっ、ふはっ、ぷぷぷ……っ! あーなんか、もう、全部どうでもいいやー」

 

 生きてて、しゃべって、ちょっとガラが悪くて。

 

「探してくれてたんだよな。……ありがとう。先客」

 

 11年の重さはわからないけど。

 その重さごと、受け止めたいと思った。

 

 

 

 

 

 

(うおおおお……っ! 何が起こってるんだ……っ!?)

 

 拓海は必死で記憶を手繰り寄せる。

 龍二と霊媒師の仕事で横須賀に来ていた。倒しても倒しても、それ以上に増殖する怪異に苦戦していた。その雑魚怪異は弱い幻覚を見せるタイプで、少数なら全く影響がないのに、今回は数が多すぎた。

 旅人の幻覚を見た。バスも現れた。

 感動の再会を果たして……

 ――そこで記憶が途切れてる。

 

(どういうことだ? あの時はふらふらだったから、あっさりと受け入れたけど、旅人があの頃のまんまの姿っておかしいだろ? まさか、怪異? いやでも、気配は普通の……)

 

 ぐるぐる考えながらも、拓海は丁寧にシャンプーを泡立てる。

 長年、母にうるさく指導されて癖になっているやり方だ。

 

(よし)

 

 いつもよりたっぷり目に泡立てて洗い出す。

 

(本物か幻か、怪異か、幽霊か。落ち着いて視ればわかる。それより、みっともない姿は見せられない)

 

 あまりにも情報が少なくて、拓海は考えるのを止めた。

 とにかく、今は素早く、そして完璧に、全身を洗うことに集中した。

 


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