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第24話:胡散臭い霊媒師。追い求める手がかり

 

 入院してから2週間が経過した。

 医師にも褒められたが、俺は劇的な回復を見せた。

 痩せてしまった筋肉が戻るのに、まだしばらくはかかりそうだが、それでも日常生活を送る分には問題ないところまで回復した。

 それでも、経過観察という名の軟禁は続いている。

 2ヶ月間も意識不明というのは、それだけリスクのあることらしい。

 

 はやる心を持てあましていた頃、すっかり顔なじみになってしまった福島刑事が、「霊媒師だ」と新顔の人物を連れてきた。

 

「佐原さん、初めまして。私はこういう者です」

 

 30代後半だと思われる茫洋とした印象の男は、名刺を差し出してきた。

 

『心霊(よろず)相談所/所長・夕暮祓史ゆうぐれはらいし』と書かれていた。

 

 裏面には『心霊相談、何でも承ります。生霊・悪霊・祖霊供養、祈祷、呪術、ご相談ください』とある。

 

(胡散臭せぇぇ~~~~!)

 

 喉の調子が戻ってから、自分が村で体験したことを福島に話した。

 それこそ、怪異の話や『迷い人』が亡くなった状況まで。さらに言うなら、コウイチの話まで、こっ恥ずかしいエピソードまで添えてゲロさせられた。警察のテク怖えぇ。

 

(でも、精神科行きよりはマシか)

 

 少しでも信じたからこそ、霊媒師(胡散臭い)を連れてきたんだろう。

 でなきゃ精神鑑定を受けさせられる未来しか見えない。

 

「コホン、……今日、私が伺ったのは、佐原さんが見たという村の話をお聞きしたいと思いまして……」

 

 霊媒師こと夕暮は、緊張した面持ちでこちらを見つめている。

 品定めをされているような気配がして、拓海は緊張してきた。

 

「どうした。ガチガチだな。人見知りか?」

「いや、そういう訳じゃ……」

 

 霊媒師なんて、怪しいとしか思わないのに、体が勝手に反応している。

 あの村で怪異に感じたものとは全く別モノだけど、同じ部分が怯えている。

 

「村の話と言っても、刑事さんに話した以上のことは……」

「直接、お聞きしたいんです。お願いします」

「あの、刑事さん」

 

 夕暮の前のめりな態度と、霊圧(?)に戸惑って、福島刑事に視線を送る。

 

「その、どうして霊媒師サンが、村の話を?」

「ああ、お前さんから聞いた話にちょっと心当たりがあってな。それで問い合わせてみたら、この霊媒師さんが来てくれたんだ」

「心当たり? まさか、鈴木コウイチのことを知ってるんですか?」

 

 夕暮に振り返ると、彼は首を左右に振った。

 

「すみません。その鈴木さんという人は知りません。ただ、どうしても気が急いて……」

 

 ふうっと圧が消えた。

 

「そうですか……」

 

 拓海はホッとしつつも、心当たりというのが旅人のことではないことに、露骨にガッカリした。しかし、夕暮はお構いなしに話し続けた。

 

「その、確認なんですが、佐原さんがいたという村の名前を教えてください」

「はい。……霧守村、と、バス停には書いてありました」

「バス停?」

 

 夕暮が刑事の方を向く。

 

「あー、書いてなかったか?」

「いい加減な調書を送らないでください。……で、佐原さん、あなたが会ったという怪異の名前、教えてください」

「……怪異、ってか。怪異の中にいた巫女の格好したおばさんだけど。やもりすみ、だったと思います」

 

 巫女の名前を言った途端、夕暮の呼吸が一瞬止まった。

 

「ああ……」

 

 夕暮は小さく感嘆してから、ゆっくりと顔を下げた。肩がぶるぶると震えている。

 

「やっと、やっと、見つけた……!!」

 

 感極まった夕暮の声に、拓海と福島はギョッとした。

 

「……先生?」

 

 躊躇いがちの福島の声にも、夕暮の勢いは止まらない。

 バッと顔を上げたかとおもうと、勢い任せに声を張り上げた。

 

「佐原さん! その村の場所は、わかりますかっ!?」

 

(なんだこの人、急に……テンション高けえぞ?)

 

「あ、いえ、それは全然わからないです。ずっと村の中にいただけなんで」

 

 拓海の返答に、夕暮はがっくりと肩を落とす。


「ああ……」

 

 ポキッと折れたような、悲痛な声。


「そうか。………………うん、でも、出れたんやったら、探せば穴はある、ってことや……」

 

 ブツブツ呟く夕暮に、拓海はダメ元でもう一度聞いてみる。

 

「あの、本当に鈴木コウイチって、男性を知りませんか? 大学生なんですけど」

「誰なんですか、それ?」

 

 夕暮がガッカリした表情のまま、顔を上げた。

 

「その、村から一緒に脱出した人で……」

「え、もう一人いるんですか?」

 

 夕暮が睨むが、福島はしれっとした顔で当然のように答える。

 

「あれは、あくまで傷害事件の調書だからな。余計なことを詳しく書いたら、こいつが正気を疑われるだけだろ。まあ、容疑者の罪は重くなるかもしれんが」

「調書は正確に書くものじゃないんですか」

「そこは臨機応変ってヤツだ。特に案件はな」

 

 百戦錬磨の刑事に口で勝てないと思った夕暮は、改めて拓海に向き直った。

 

「で、そのもう一人が、どうしたんですか?」

「一緒に脱出したんですけど、バスに乗っている記憶が最後で。……気付いたら病院のベッドにいたんです」

「ふむ。……あなたは2ヶ月間、昏睡状態だったんですよね。それは確かなんですか?」

 

 夕暮が目を向けると、福島は頷く。

 

「ああ、それは病院にも確認を取ってあるから、間違いない」

「ということは、魂だけの状態で、異界に取り込まれていた可能性が高いってことか……」

「そんなことが、あり得るんですか?」

 

 拓海が抱いていた疑問の答えが、目の前に提示された。

 

「怪異絡みだと割とある話だよ。大抵は肉体との繋がりが絶たれて、意識不明が数日続いたあとに亡くなるケースが多い。ラッキーでしたね」

「…………」

 

 死の淵にいたんだと他人に明言されて、背筋が冷える。

 

「じゃ、じゃあ、旅人は、死んでる可能性もあるって、ことですか?」

「旅人?」

 

 夕暮が首を傾げる。

 

「あ、ああ、すみません。村では名前を言うと危険だったんで、仮の名前で呼び合ってたんです。俺が『先客』で、鈴木コウイチが『旅人』って」

「それは賢いですね。霊的な対処法を知らないのに、名前を避けて仮名で呼び合うなんて。感心しました」

 

 夕暮が惜しみない賛辞を送ってくるが、拓海は苦笑しか漏れない。

 

「……これも、死なないためでした。あの世界では、名前を呼ばれて返事をしたら、死にましたから」

「苦労しましたね。でも、その積み重ねが奇跡を呼んだんですよ。あの村から生還できた人間は、記録上、本当に数が少ない」

「……やっぱり、生きて戻った人もいるんですね?! じゃあ、きっと旅人も! どうやって探せばいいですか?!」

 

 一気に勢いづいた拓海に今度は夕暮が呆気に取られる。

 福島はそんな夕暮の肩を軽く叩いて、にやりと笑う。

 

「こいつがその鈴木ってヤツにほの字なんだ」

 

「「ほの字?」」

 

 夕暮と拓海の声が重なった。

 死語だったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、拓海は覚えている限り霧守村で起きたことを夕暮に話した。

 それを聞いた上で、夕暮は多くの質問をしてきた。わかることは答え、専門的なことや不明なことは、状況も含めてわかる範囲のことを説明した。長期間、村にいたことで得た知識が、こんなところで役に立つとは思いもしなかった。

 

「じゃあ、その『鈴木コウイチ』って人の消息がわかったら連絡するよ」

 

 長い長い会話のあと、夕暮は席を立った。

 

「まあ、関係者に当たってみるよ。どこかで引っかかる可能性は高いし、その人もきっとキミを探しているんだろう? だったら、すぐに見つかるんじゃないかな」

「お願いします」

 

 入院中の拓海には、他に探す方法はない。

 夕暮の言葉に希望を託して、頭を下げた。

 

「その代わり、元気になったら、調査を手伝って欲しい。私はどうしても、その村を探さなきゃいけないんだ。……まあ、守宮澄(やもりすみ)を解放したんだったら、結界は消えてるはずだから、すぐに見つかるとは思うんだけど……今のところ、その兆候はないんだよね」

 

 ふう、と嘆息する夕暮の横顔は疲れ切っていた。

 

 

 

 

 

「夕暮さん、どうでした?」

 

 廊下を歩いていると、福島が横に並んで小さく聞いてきた。

 夕暮は胸ポケットから小さな紙片を取り出し、軽く振ってから戻した。

 

「……彼の言ってることは嘘じゃないですね。訓練を受けていないので、認識の齟齬は多少あると思いますが、怪異の影響下にあったのは間違いないでしょう」

「やっぱり、そうですか」

「刑事さんも気付いてたでしょ。あの、おかしな落ち着きぶり。霊能力がなくてもわかったはずだ」

 

 夕暮は立ち止まり、エレベーターの下行きボタンを押した。

 その後ろを看護師が数人、順番待ちに並ぶ。

 

「まあ、違和感は最初からありましたよ。230万ほど強請ゆすられた挙句、意識不明になるほどの暴力を受けた高校生には、とても見えなかった。容疑者の名前を聞いても、怯えも怒りもないなんて、何かあると言ってるようなもんだ」

「随分と長い間、異界にいたようですから、その影響でしょう」

 

 チーン、という音とともに、エレベーターが到着した。

 2人が先に乗り込むと、続いて看護師たちも乗り込んできた。

 

「彼、そこそこ霊能力もありますよ。それで引っ張られたんでしょう。……と、失礼」

 

 夕暮の後ろから伸びてきた指が、2Fと書かれたボタンを押す。

 2階に到着すると、看護師たちは降りていった。

 

「しかし、便利なもんだな」

「“遮音”ですか? いきなり話し出すから焦りましたよ」

「前に見たことがあったんだよ。本当に聞こえないのな。笑いそうになった」

 

 意地の悪い笑いを浮かべる福島に、夕暮が呆れる。

 

「まあ、訓練になるからいいですけど、これだって買ったらそれなりにするんですよ?」

「へえ、試しに1枚売ってくれねぇか?」

「起動に霊力がいるので無理ですね」

 

 エレベーターが一階に着き、2人は出口へと向かう。

 

「じゃあ、また何かわかったら連絡ください」

「ああ」

 福島は裏の駐車場へ、夕暮は駅の方向へと歩き始めた。

 

「結局、決定的な手がかりやなかった……村も、守宮澄も見つからへん……」

 

 夕暮は一度だけ足を止め、病院を振り返る。

 その姿は精悍な顔をした20歳ぐらいの青年に見えた。

 


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