この物語とは何の関係もない古い予言、それとも関係があるのだろうか?
これがこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただけたら嬉しいです。
メロニラ・フォン・ギオルヤネリヒの領地へ向かう道中。
ケンと勇者ライトノベル、そしてパーティの一行は、南東部の穏やかな農村地帯を進んでいた。
空は高く、雲は薄い。
風に揺れる草原の匂いは、どこか懐かしさを感じさせる。
だが、その平穏の中で――
「もっと高く! もっと高くいけるって!」
子供たちのはしゃぐ声が、道端から響いてきた。
ケンは足を止める。
視線の先。
そこでは、十人ほどの子供たちが奇妙な遊びに興じていた。
一人が地面にしゃがみ、その上にもう一人。
さらにその上に、また一人。
まるで塔のように、次々と積み上がっていく。
「落ちるなよー!」
「お前が一番下なんだから頑張れよ!」
笑い声。
歓声。
そして――
「うわっ! 無理だって!」
バランスを崩し、塔は崩壊する。
全員が転がりながら笑っていた。
ケンは眉をひそめる。
「……なんだ、あれは」
横に立つライトノベルへ視線を向ける。
「妙な遊びだな」
ライトノベルは一瞬だけ目を細め、子供たちの方を見る。
そして、静かに答えた。
「“天樹遊戯”だ」
「天樹……?」
「この地方に古くから伝わる遊びだ。……いや、正確には、伝承の模倣だな」
ケンは再び子供たちを見る。
今度はくじ引きのようなことをしている。
「負けたー! じゃあ俺が一番下だな!」
「よし! じゃあ次はもっと高くするぞ!」
敗者が土台となり、勝者がその上に乗る。
ケンの目がわずかに細まる。
「……妙な構造だな」
ライトノベルは小さく頷いた。
「意味はある」
そして、ゆっくりと口を開く。
「古い伝承だ。この世界――ファンタが完全に腐敗しきった時、“天の樹”が芽吹くとされている」
風が吹く。
草が揺れる音だけが、一瞬場を満たした。
「腐敗……」
ケンは小さく呟く。
「この世界が、か?」
「そうだ」
ライトノベルの声は、淡々としていた。
「その伝承によれば、この世界が“価値なきもの”で満たされ尽くした時――」
一瞬、言葉を区切る。
「その全ては“肥やし”となる」
ケンは何も言わない。
ただ、静かに聞いている。
「そして、その肥やしを糧にして、大地の奥底――この世界の中心に眠る“種”が発芽する」
「……種?」
「そうだ。天樹の種」
ライトノベルは遠くの地平を見た。
「その樹は、天を貫き、星をも越えるとされている」
ケンの脳裏に、一瞬だけイメージが浮かぶ。
巨大な樹。
空を裂き、世界を突き抜ける何か。
「……馬鹿げてるな」
思わず口に出る。
だがライトノベルは否定しない。
「伝承はそういうものだ」
短く答える。
ケンは腕を組む。
「で、その遊びは?」
「見ての通りだ」
ライトノベルは子供たちを顎で示す。
「一番下が“肥やし”だ」
ケンの目がわずかに動く。
「上に乗る者は?」
「その上に積み上がるもの。……そして最上部が、“天へ至る存在”」
沈黙。
子供たちの笑い声だけが響く。
「つまり――」
ケンが低く言う。
「誰かの上に立って、積み上がっていく構造、か」
「そうだ」
ライトノベルは一切の感情を込めずに答えた。
ケンは視線を落とす。
思い当たる節が、多すぎた。
貴族。
搾取。
恐怖。
価値の選別。
そして――
“役に立たないものは捨てられる”という、この世界の構造。
ふと、子供の一人がこちらに気づく。
「あ! 旅の人だ!」
「見ててくれよ! 今度はもっと高くするから!」
無邪気な声。
ケンは小さく手を振る。
子供たちは再び塔を作り始める。
一番下に座る少年。
その上に乗る仲間たち。
笑いながら。
何も知らずに。
その光景を見ながら、ケンは静かに呟いた。
「……もし本当に、その樹があるとしたら」
ライトノベルは何も言わない。
「この世界は、とっくに肥やしになってるんじゃないのか」
風が吹く。
誰も答えない。
ただ、遠くで――
子供たちの塔が、再び崩れた。
笑い声が広がる。
まるで、それが当然であるかのように。
このエピソードを楽しんでいただけたなら幸いです。次のエピソードも近いうちにアップロードします。




