一体何をしているんだ?
これがこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただけたら嬉しいです。
数か月に及ぶ旅路の果て。
ケン、そして勇者ライトノベルとそのパーティは、ついに目的地へと辿り着いた。
メロニラ・フォン・ギオルヤネリヒの屋敷。
それは“屋敷”という言葉では足りない。
小さな城と呼ぶべき規模だった。
白亜の壁。
高くそびえる塔。
そして異様なほど静まり返った空気。
門前に立つ兵士たちは、一様に奇妙な装備をしていた。
銀とも鉄とも違う、鈍い光を放つ金属の兜。
顔の大半を覆い、その下の表情は一切見えない。
ケンは無意識に眉をひそめた。
(……なんだ、あれは)
違和感。
だが、その正体は掴めない。
ライトノベルが一歩前へ出る。
「勇者ライトノベルだ。メロニラ・フォン・ギオルヤネリヒに面会を求める」
静かな声。
門番たちは一瞬だけ互いを見やる。
そして――何も言わず、門を開いた。
軋む音と共に、重厚な扉がゆっくりと開かれる。
招き入れられるように、一行は中へと足を踏み入れた。
◇
広大な玄関ホールを抜け、案内されたのは屋敷奥の応接間だった。
重厚なカーテン。
差し込む光は弱く、室内は薄暗い。
その中央。
一人の女が、椅子に腰掛けていた。
痩せ細った身体。
病的なまでに白い肌。
呼吸は浅く、不安定。
――あの女。
ケンの脳裏に、以前見た光景が蘇る。
遠くの城の窓辺に立っていた、あの女性。
間違いない。
メロニラ・フォン・ギオルヤネリヒ。
そして彼女もまた、あの奇妙な兜を被っていた。
その下の表情は見えない。
だが、わずかに口元が動く。
「……ようこそ」
かすれた声。
「勇者ライトノベル様。そして……ケン様」
ゆっくりと視線が向けられる。
その視線は、まるで最初からケンを知っているかのようだった。
「長旅、お疲れ様でした」
形式的な歓迎。
だが、そこに温かみはない。
全員が席につく。
静寂。
最初に口を開いたのは、ライトノベルだった。
「本題に入る」
無駄のない声音。
「アクセルに関する件だ」
メロニラは微かに首を傾ける。
「……アクセル?」
「すでに死亡している。だが、彼の所持していた資料から――」
机の上に、書類が置かれる。
「あなたとの資金の繋がりが確認された」
沈黙。
メロニラは動かない。
ただ、静かに言う。
「……何のことでしょう」
とぼける。
完全に。
ライトノベルは一切揺るがない。
「証拠は揃っている。貴族としての地位を利用した資金操作、違法取引、そして犯罪組織との関係」
一拍。
「この件は王国法廷に持ち込む」
宣告。
だがメロニラは、微かに笑った。
「……勇者ライトノベル」
かすれた声。
「それは、あなたの言葉だけではありませんか?」
空気がわずかに変わる。
「証拠があろうと、それをどう解釈するかは別の話」
ゆっくりと続ける。
「あなたの言葉と、私の言葉」
一瞬の間。
「どちらが重いかしら?」
ライトノベルは即答した。
「それで構わない」
迷いはない。
「判断は法廷に委ねる」
立ち上がる。
「行くぞ」
それ以上の会話は無意味だと判断したのだろう。
一行もそれに従う。
ケンも立ち上がる。
そして――
違和感。
背後。
扉が、ゆっくりと閉じる音。
振り返る。
重厚な扉が、完全に閉ざされた。
外へ出たはずの――
ケンのハーレムの少女たちは、すでに廊下の先へ出ている。
だが。
ケン。
ライトノベル。
そしてパーティの面々。
その全員が、まだこの部屋の中にいる。
次の瞬間。
金属音。
周囲にいた護衛たちが、一斉に構えを取る。
魔法陣が展開される。
詠唱。
殺気。
「――!」
ケンは即座に前へ出る。
発動。
忘却。
だが――
「……は?」
何も起きない。
魔力は流れている。
だが、効果が発動しない。
護衛たちの動きは止まらない。
そのまま魔法が放たれる。
爆音。
閃光。
ケンは辛うじて回避する。
「……なんでだ」
理解できない。
その時。
メロニラが、ゆっくりと立ち上がった。
「無駄ですよ」
静かな声。
「その兜」
ケンの視線が、護衛たちへ向く。
あの金属。
「特殊な合金で作られています」
メロニラは続ける。
「あなたの能力――“忘却”」
一瞬の間。
「完全に遮断する」
沈黙。
ケンの思考が止まる。
「……は?」
「あなたのことは、ずっと観察していました」
淡々と。
事実を述べるように。
「その力の性質。範囲。制御。限界」
そして。
「アクセルに助言したのも、私です」
空気が凍る。
「最初から」
短く。
「あなたを殺すために」
ケンの瞳が揺れる。
その時。
ライトノベルが、一歩前に出た。
静かに。
迷いなく。
ケンは彼を見る。
(……頼るしかない)
この状況で。
自分の力は使えない。
ならば。
残るのは――
勇者。
ライトノベル。
彼しかいない。
次の瞬間。
剣が抜かれる。
閃き。
そして――
突き刺さる。
胸に。
ケンの。
「……え?」
理解が追いつかない。
熱。
血。
視界が揺れる。
ライトノベルの剣が、ケンの胸を貫いていた。
「……っ」
言葉が出ない。
ただ、見上げる。
目の前の男を。
仲間を。
「……ライトノベル……?」
声が震える。
「……お前……何やってんだよ……」
答えはない。
ライトノベルの表情は、何も変わらない。
感情がない。
その後ろ。
パーティの仲間たち。
全員が、動かない。
助けようともしない。
ただ――冷たい目で見ている。
その光景。
異常。
完全な異常。
その時。
メロニラが、静かに言った。
「……無駄です」
ケンの意識が揺れる中。
その声だけが、はっきりと届く。
「勇者ライトノベルは、あなたの言葉を聞きません」
一瞬の間。
「そもそも――」
微かに、笑う。
「彼に“意志”など、存在しないのですから」
沈黙。
そして――
「何年も前から」
その言葉が、落ちた。
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