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ナリイズルモノ_4

「くっそ、本ッ当余計なことしかしねぇ」

 七央のターゲットが蜘蛛に移る。

 縛、と言って放たれた弾丸が網状に広がって蜘蛛の身体に絡みついた。ドスン、と重そうな音を立てて屋上に落ちた蜘蛛が身体を起こそうとする。その姿は、上半身は人間の女、腰から下が蜘蛛。まさに、蜘蛛女というにふさわしかった。

 蜘蛛女が私を見つけて、シャァァアァア! と大きな咆哮をあげた。即座に七央がそれの視界から隠すように私の前に立つ。でも一瞬の間に、それの顔を見てしまった。


 それは憎々しげに私を睨んだ、あの時のヒナの顔だった。


「なによ、あれ」

 ブルッと震えて、目の前の背中に話しかける。

「知らない」

「知らないってそんな」

「なんか、妖怪とかそういうのなんじゃ?」

 七央に聞いてもロクな答えが返ってこない。達也は、少しだけ蜘蛛女から離れた場所に気を失ったままのヒナを運んで、必死に声をかけ続けている。

「あれ、敵? ヒナさんはどうなったの?」

「日向さんの魂の半分で生まれたのがあの絡新婦ですねェ」

 ひょい、と私の前に顔が出てくる。

 男は焦点の微妙に合っていない目で、私の顔を覗き込む。さして面白くもなさそうに、ゆらりと蜘蛛女――絡新婦を指さした。

「彼女の妬ましいとか恨めしいとか、そういう負の感情に種を蒔きましてね。才能あったんでしょうねェ、人を呪う才能が。私が思ったよりもずっと早く周囲の負を飲み込んで成長して、今日ここで……見ませんでしたか? そこら辺の浮遊霊をアレが喰うのを。はいはい、その顔はご覧になりましたね。ああやっていろんなのを吸収して、最後あれも男に捨てられて自死した女の霊ですねェ、ダメ押しに飲ませたら、ちゃんと絡新婦として生まれたんですよォ。まあわたしの誤算としましては、ああいう男絡みの情念なら共感するかと思いきや、反発して余計な瘤になってますけど……まあいいでしょう。そんなのはちっぽけな問題なので。」

 ほぼ息継ぎもなく言い切って、ニタリと笑みを作る。

「魂の半分、てなんですか」

「そいつと話す必要ない」

 離れて、と言う七央に楽しそうな顔を見せた倉橋は「こちらのお嬢さんは、七央さんの恋人ですか?」などと聞いてくる。

「違う」

 だから興味を持つな、手を出すな、と七央は言うが、こういう時それは逆効果だ。

「へぇ……へぇ? 本当に違うんですかァ? まあいいですけどねェ、恋人でなくとも、少なくとも七央さんの『大切な人』ってことでしょう?」

 ぐりん、と瞳を回転させて、裂けるほどに唇を左右に引き上げる。

「これからも、またお会いすることがあるでしょう。わたし、こういう者です」

 差し出された名刺を、つい受け取ってしまう。

「宜しくお願いしますねェ。小南伽奈、さん?」

「っテメェ!!」

「え? なんで名前……私言ってな……」

「フハッ! それはそうと、そろそろ動いてもらいましょうか」

 パチンと指を鳴らされ、足元に行儀良く座っていた青年が犬のように駆けて絡新婦に向かった。七央が舌打ち混じりに青年を追いかける。でも、足の速さが違いすぎて勝負になっていない。

「ヒナさんは無事なんですか」

「日向さんですかァ? どうしてそんなのに興味があるんです。あの人、貴方の恋人の浮気相手でしょう? 恨みこそすれど心配などする意味が解りません。どうなってもいいじゃないですかァ。むしろ、いなくなった方が都合がいいのでは?」

 倉橋は無表情に見てくる。占ったというのは本当なのか、少なくともヒナから相談をされたのは本当なのだろう。結構ぶっちゃけた話をしたのか、倉橋は、少なくともヒナの立場から見た私たちの関係を正しく理解していた。

 確かに、彼女の認識の中では、私が達也の彼女でヒナは……なのだけど。

「どうかなっちゃうかもしれないって思いながら見捨てるのは、気分悪いので」

「……わたしには理解出来ませんが。それにしても、なにを手こずってるんでしょうねェ」

 眉間にしわを寄せた倉橋は、蜘蛛に近付こうとする青年を威嚇射撃で邪魔している七央を眺め、続いてヒナを抱き締めている達也に視線を移す。それから目を細めるとふらふらと歩き出した。

 絡新婦は七央の捕縛で動けなくなっているようだし、先程から自分で手を出そうとしない倉橋だって、危険な場所には行かないだろう。そう判断して、彼らの様子が気になっていた私も後をついていった。


 ヒナは達也の腕の中で気を失っている。声を掛け続けている達也は明らかにうろたえ、見たこともないほどに青い顔をしていた。

「達也。ヒナさんは……」

「怪我は、ないみたいだけど。意識が」

 背中から見上げるほどに大きな蜘蛛を生んだにもかかわらず、達也が支えている彼女の背面に傷などはない。洋服すら破けていなかった。身体も倒れる前に達也が抱き留めていたからほぼ無傷だ。滑り込んだ時に出来た彼の擦り傷の方が痛々しかった。

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