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肝試しなんて冗談じゃない_4

「んだよ。誘ってやったのにそれか」

 誘ってくれなんて言ってない、と反論しかけたのであろう七央の口を慌ててふさぐ。何をするんだ、と目で訴えられても、こっちの方が「なにを言ってくれたんだ」って気持ちでいっぱいだ。置いていかれたら、ここから歩いて帰らなきゃいけないのわかってるのかな、この子。

「あーあ、つっまんねぇの。次、二階行こうぜ。あっちが本命だし」

「ねえタツヤ、いいの? レオくんとケンカしちゃって」

「ケンカなんてしてない。ただ、楽しんでるかどうか確認しただけ」

 こちらをチラチラと見てくる達也以外の三人に、なんとなく頭を下げる。私が謝る必要なんてこれっぽっちもないんだけど、この空気感は最悪だ。本当に、七央ってば……七央ってば!!

 誘ってきたくせにあんな風に言われて、女の子の前で良い格好したい達也の引き立て役みたいに扱われたら機嫌よくないのはわかるけど。でもやっぱり言い過ぎだと思う。

「七央、あとで謝りなよ」

「なんで」

「言い過ぎでしょ、どう考えても」

「オレ、ヘタレ扱いされてんだけど」

 むかつく。と七央はむくれてみせた。

 その表情が小さい時そのまんまで、思わず笑いがもれる。そういう顔をしてると、やっぱり年下の、いつも私の後ろをくっついて歩いてた七央だ。こぼれてしまった笑いに気付かれたのか、先に階段を上っていたヒナが振り返る。私を見て、それから達也の腕を引っ張った。

「ねえ、あの人どうしてレオくんと仲良くしてるの?」

「伽奈? 七央くんは元々伽奈の幼馴染なんだよ」

「へえ……」

 ちらっと私を見るその目が冷たくなる。なによ、その顔。反発しそうになる心を抑え込む。

「仲、良さそうですね」

 ヒナは突然話しかけてくる。にこにこと可愛らしい笑顔で私と七央を見比べてる。

「なんかぁ、二人いい雰囲気~」

 ぞわっと胸の辺りがざわめく。

 ――なにが言いたいの、この人。

 不快感を顔に出さないように耐える。達也の腕に自分のそれを絡ませて、見せつけるように愛らしい笑みを浮かべる。

「なんかー、付き合ってるみたい。ね、タツヤ。そう思わない?」

 それを、あなたが言うか。こわばった笑いを返すしかない私とヒナを不思議そうに見比べた七央は、いつも通りの感情の乗り切っていない声で答えた。

「カナ姉は、達也さんと付き合ってるんで。相手オレじゃないッスよ」

 ――うん、七央くん。一度黙ろうか。

 他の人から見えない場所で七央の腕をつつく。

 明らかな挑発の台詞になっているの、気付いてる? 気付いてないよね。だって昨日のこと知らないもんね。それに、私と達也が本当は別れてるって知らないもんね。この周囲の態度を見るに、誰も「別れてるんだろ」って突っ込んでこないあたり、達也も周囲に別れたって言っていないのかもしれない。

 でもさ、変に刺激するの止めようよ。相手怒らせるだけじゃないの。その怒りの矛先は、きっと私だ。七央の言葉に、明らかにヒナは機嫌を損ねたようだった。

 可愛らしい顔が嫌悪に歪む。見事につくろっていた笑顔がはがれていく。感情を掻き乱されたらしい彼女の足元で、なにかが蠢くのを視界の隅に捉える。


 それだけでは動くはずのないものが、ぞるっと。


 目が離せなくなった私の視線の先で、ヒナの影が、生き物のようにうぞうぞとと輪郭を伸縮させていく。それはどこまでも大きく膨らんでいく。

 目の前で起こっていることが信じられなくて、自分の目がじわりと見開かれていくのを感じた。


 彼女の影に、階段の周辺にいたものたちが呑み込まれていく。そこかしこにうずくまっていた、佇んでいた、浮かんでいた、多分、幽霊と呼ばれるたぐいのものが。黒い影に引き込まれ、抵抗するように手を伸ばし、拒絶の悲鳴を上げて、水に沈んでいくかのように指先を伸ばしてつぷんと沈んでいく。

 その影は階段を覆い尽くすまでに大きく大きく膨張して、私たちの足元まで伸びてくる。思わず一歩後退れば、七央が庇うように私の前に腕を出した。

 その行動を見たヒナの目が少しだけ丸くなる。

 次の瞬間、ピタリと動きを止めたそれは――ひときわ濃く残ったヒナの影に引き込まれるように、一瞬で大きさを元に戻した。

 ワザとらしく不愉快そうに目を細めて、フン、と鼻で息を吐き、彼女はまた達也にしがみつく。あんなにも階段全体を黒く塗りつぶしていたのに、悲鳴が響いていたのに、それに気付いたのは七央と私だけのようだった。

「カナ姉。ちょっとマズいかも」

「ん、うん……なんか、察した」

 ヒナの影が周りにいた幽霊を、飲み込んだ。あれは、もしかして昨日ザックにグチャグチャにやられた彼女の生霊っていうアレだろうか。

 もしそうだとしたら。

 周りのオバケを飲み込んで、アレはどうなるの? しばらくは私の所には来ないって言ってたけど、この距離では来るも来ないもあったもんじゃないだろう。ザックは私の所に来させないとか言ってたけど、これ、絶対無理よね。襲われたらどうなってしまうんだろう。

 それに、ヒナの身体には異変はないの? なんであの子の心配をしなければいけないのかは腹立たしいけど、そんなことも気になってしまう。訳知りらしい七央に色々聞いてみたい。でもみんなの耳があるこの場では無理だ。それに、皆の前ではあのコスプレみたいなのもできないよね。

「七央さあ、この前のピストルみたいなの今持ってるの?」

「……一応。でも、オレだけじゃ全然威力ないよ。ただの初期装備。ほぼ攻撃力無しのノースキル武器」

 なんかゲームみたいな言い方してるけど、それってどういう意味? 思わず顔を見るけど、七央はヒナの影を睨んだままだった。

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