肝試しなんて冗談じゃない_2
これで七央が帰っちゃったら、肝試しでは寂しく一人で歩くことになるんだろう。でも無関係の七央は無理しなくて良いと思うんだ。わざわざ不愉快な思いをする必要なんてない。
だから、イヤだったら帰ってもいいよ、という視線を送るのに、七央は気づいてくれない。
「じゃあ行こうぜ」
達也の声でぞろぞろと移動が始まる。帰るの帰らないのと私たちの話は結局平行線で、七央は離脱のタイミングを逃す。本当に良いの? と目でたずねれば、小さく肩をすくめられた。
ここからどうやって移動するのかと思えば、近くの駐車場にバンが停めてあった。七人乗りだから全員乗れる、と言われて後部座席に押し込まれる。相変わらず達也の隣はふわふわ女子がキープしている。モヤモヤしないと言ったら嘘になるけど、七央の隣を初対面の人にするのも彼にとってストレスになるだろうし、これしか組み合わせがないというのも理解できる。だけど、モヤモヤはする。
妙に顔の距離も近くて、二人はかなりイイ雰囲気――ああもう。余計なことは考えないようにしよう。もう彼とは付き合っていないんだから、こうやってやきもきするだけ無駄だ。
私は窓の外に視線を移した。
車だとあっという間に目的地に着く。十五分くらい走ったところで真っ暗な四角い塊が町の外れに現れた。遠目でも、そういう場所だとわかっているせいか怖気立つほどの嫌な気配を感じるような気がする。肝試しなんて悪趣味だと苦々しく奥歯を噛みしめる。
「ここだよ、ここ」
「わぁ、雰囲気あるねえ!」
何が楽しいのか、はしゃいだ声を上げる男二人と女の子一人。フワフワ女子は「怖いよ~」だなんて言ってもう一人の女の子にくっついてる。
車を降りてからも妙に静かな七央が気になって様子を確認すると、じっと上を見ていた。何を見ているのかと視線を上げた私は「ヒッ」と小さく息をのんだ。
建物の二階、カーテンも腐り落ちた割れた窓の奥。
そこに、ゆらりと立っている白い影があった。
――なに、アレ。
目が離せずにいると、チカッとなにか光が差して、すっとその影が奥に引っ込んだ。その動きに、忘れていた呼吸を取り戻す。
――なーんだ。他にも肝試しに来てる人がいるんだ。もう、あんなところにボーっと立ってるからオバケかと思ったよ。
ホッと胸をなでおろす。第一、私はオバケなんて見えないんだからアレが人間じゃないワケがない。場の空気に飲まれてしまっていた自分に苦笑いをこぼす。七央はといえば、まだ二階を睨んでいる。視線を追えば、私が見ていたのとは違う窓を見ているようだった。
「なにか見えるの?」
「うん? ……うーん……」
微妙な顔で首を捻る。でもね、コレ、見えないって言わないあたりがもう不安でしかない。ものすごく入りたくない。脳内で警報が鳴っている。
それなのに。
「行こうぜ!」
やっぱり妙に張り切ってる達也が先導する。嫌だなあと思いながら、全員がスマホをライト代わりにして暗い建物の中に足を踏み入れた。
一歩入っただけでゾワリと肌が粟立つ。踏み荒らされて汚れた床。持ち込まれたのであろう飲み物や食べ物のゴミが目につく。開け放たれたドア。覗けばすでにめちゃくちゃに荒らされた後。床に紙が散らばり、椅子が引っ繰り返されている。廃院になってもいろいろと物は残されていたのか、倒れた棚や割れたガラスが床に散乱している。これは転んだりしたら大怪我するだろう。注意しなきゃいけない。
――まさか危ない薬品とかは残ってないよね……
いや、仮に残っていたのだとしても、もう廃院になってから長い。今危険なものがあるなんてことは、ない、と思いたい。
スマホの灯りでは、足元までちゃんと照らせなかった。誰一人懐中電灯を持ってきていないだなんて、あまりに軽い調子で企画されたんだな、と呆れが増す。隣を歩く七央の態度が変わらないのが唯一の安心材料だ。
「なにもいない?」
「大丈夫っぽい」
囁くと、同じくらいのボリュームの声が返ってくる。私と七央が最後尾、前には男女それぞれ組になってべったりと腕を組んで歩く四人。
「……カナ姉さ、やっぱ別れなよ」
アレ、と七央があごをしゃくるのは、達也と彼に豊かな胸を押し付けるように歩いている女の子だ。
「いや……怖いだけかもしれないし、達也が私と歩いたとして、七央がああやってくっつかれても困るでしょ?」
「カナ姉、現実見なって。自分でも苦しい言い訳だと思わない?」
まあズバズバと気付きたくないところを指摘してくれるものだ。ぎゅっと口を結んだ私の耳に、前を歩く彼らの声が聞こえてきた。
「あ! あそこっ! 黒い影なかった?!」
「きゃぁっ!! ウソッ!」
達也の指摘に、フワフワ女子が怯えてその腕にしがみつく。でも七央を見ると首を横に振るから、本当はなにもいないらしい。つまり、あれは達也の狂言だってことになる。
「なんにもないじゃねえかよぉ! 脅かすなよタツヤ」
「あはは! 見間違えたかな~」
「って、そうやってくっつかれたかっただけでしょ!」
あはははは、となにが面白いのだか皆で大きな声を上げて笑う。白ける私と七央は、顔を見合わせて首を振った。




