肝試しなんて冗談じゃない_1
一昔前の不良学生じゃないんだから、深夜のコンビニ前待ち合せとか最悪だ。
夕食は、私から見れば急遽出かけることになったということで、めでたくも外食で済ませられることになった。妙に機嫌の良さそうな達也と憂鬱な私で向かったのはファミレス。彼は相も変わらず視線はスマホ。まあ、慣れているから別に良いんだけど。
それにしてもファミレスかあ……なんだかちょっとがっかりする。たまの外食なんだから、仮にも社会人二人、恋人同士でなかったとしてももうちょっとなにかあるんじゃないかしら。ふつふつと付き合っていた頃には到底言えなかったような不満が溢れてくる。
って、これから肝試し行くんだもんね。肝試し前のフレンチレストランとか聞いたことないし、ムード作ってどうこうなる関係でもないし、逆にこれで良かったのかもしれないと考えを改める。
そのまま時間まで暇を潰していると、約束時刻の十五分ほど前に七央から『着いてるんだけど』という連絡が入った。今回の肝試しメンツに彼の知ってる人……どころか私も知っている人は達也とお互い以外にはいないから、先に合流するのは不可能ではないにしても人見知りの彼には酷というものだろう。
続いて送られてくるのは、コンビニの中で待っている、のメッセージだ。こちらから誘っておいて一人にしておくわけにもいかないから、達也を引っ張ってコンビニに急げば、駐車場にそれっぽい人が三人位いた。達也がそっちに声掛けに行くのを横目にコンビニに入って行けば、目当ての人がペットボトルの棚の前にしゃがみこんでいるのを見つける。
「お待たせ。なにやってるの?」
「うん。この五番のが見つかんないんだよね」
七央は、炭酸飲料のペットボトルのキャップに取り着けられた袋に入った小さなフィギュアを指す。それは私でも知っているような有名なゲームに出てくるキャラのマスコットだった。全部で八種類。五番は人気キャラなのか奥まで探しても見つからないみたい。
「これが欲しいの?」
「いや、別に」
「じゃあなんで見てたのよ」
ゆっくり立ち上がった七央は「暇だったから?」と首を傾げる。聞かれても返事のしようがない。買わないのならいつまでも棚の前を独占しているのは迷惑だろう。外にもう皆がいることを伝えると、七央はガムを一個だけ買ってポケットに突っ込んだ。
コンビニを出れば、駐車場のところで達也がさっきの三人を引きつれて楽しそうに話している。男の人が一人に女の子が二人。人を見た目で判断してはいけないけど……ね。男の人はなんとも言えない取り合わせの服をだらしなく着崩している。女の子は露出高めな子と、ガーリーカジュアルな子。どっちも廃墟という足場が悪いだろう場所に行くにはどうなんだろう、って格好だ。
「こんばんは、お待たせしました」
彼らの方へ歩いていきながら言って、達也に「七央連れてきたよ」と手を振る。
「お、七央くんこっちこっち。待った?」
「いや……別に待ってないッスけど」
「うわ、本物? っていうかテンション低!」
弾んだ男の人の声に、七央は怠そうな視線を向ける。本物もなにも、と口の中で呟いたようだったが、彼らには聞こえなかっただろう。
達也が知り合いにこうやって七央を自慢するのは今に始まったことじゃない。迷惑だから止めてって言っても私の言葉なんて気にする人ではない。オレは見世物じゃない、と不満を隠しもしない七央の態度にもハラハラする。
七央がなにか話すたびにはしゃいでる辺り、あの人もプレイ動画とか配信とか見てるのかな? 声まんまって、そりゃ本人なんだから同じ声に決まってるよね。男女ともにキャッキャと大きな声で話しかけられて、ただでさえ低空飛行な七央のテンションがどんどん下がっていく。
「あの、時間も時間なんでもう少し声を……」
近所迷惑だから静かにしよう、と注意すれば「わぁさすがセンセー」なんてからかうような言い方をされて気分が悪くなる。達也から私の仕事を聞いているのだろうけど、それをからかい文句に使うのって失礼なんじゃないかしら。でも、これから不法侵入しようって人たちにそんなこと言うだけ無駄なのかもしれない。諦めて口を閉ざす。
「カナ姉、帰ろう。この人たちと付き合いたくない」
七央が他の他人に聞こえないように小さく囁いてくる。それには思い切り同意したいけど、達也がそれを許すとは思えなかった。私も七央の近くに立ってヒソヒソ声になる。
「帰るなら七央だけ帰っていいよ」
「……カナ姉が帰らないならオレも帰らない」
「そんな心配しなくても大丈夫だって」
……大丈夫かどうかは、わからないけど。
今の段階で、達也の横には小柄で華奢な可愛らしい感じのふわふわした女の子が立っている。それから、活発そうな女の子は七央に話しかけてきていた男の子と組になっているようだ。気付いていたけど、さっきから私に視線が来ることなんてほとんどないし、笑ってしまうくらいに存在は無視されている。こちらからは挨拶したのに私には誰一人として返事もなかった。




