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ゲーム開始_3 

 あらら、ご機嫌斜めみたい。部屋に入ってきた時からスマホの画面から目を離しもしない。

「ご飯食べてきたの?」

「…………」

 返事がないなら良いや、と冷めてしまったストロベリーティーを飲む。険しい顔で画面を睨んでいるけど、どうしたんだろう。ただ機嫌が悪いっていうのとも違う。ゲームで低スコアだったとか、組んだ相手が下手だったとか、そういうのでもないみたい。心配事かな?

 なんとなく気になって時々横目で確認していると、声に出さないまま達也の唇が動く。

 偶然見てしまったそれが『ヒナ』って動いたように思えちゃってドキっとする。

 きっと気のせい。考えすぎ。気にしすぎ。もしそうだったとして――私がソレを知ってるってこと、知られちゃいけない。

「お風呂湧かす?」

「シャワーで良い」

 初めて反応があったことにちょっと感激した。でもシャワーなら私がやることはないなあ。お昼はどうするの、と聞けば食べるとだけ返ってきた。

 なんにも言わなかったんだから、作ったものに文句は言わないでよね。口に出せないけど心の中で言い返す。今から材料買いに行くのも面倒だし、予定通りカレーにする。

「お昼、カレーなんだけど」

「……ああ」

「スクランブルエッグ、乗せる?」

「チーズも」

「わかった」

 達也はスマホを持ったままお風呂に行った。またか、と鼻から強く息を吐く。

 お昼は、あと半端に残ってるお野菜でスープでも作ったら上出来でしょ。どうせ七央とのゲームが気になって変な時間に食べるんだろうし、これでいい。

 冷凍庫から出した保存容器をレンジにかけ、昨日ここに同じようなポーズで立っていた人を思い出して、複雑な気持ちで左瞼に触れた。

 シャワーを浴びてきた達也はそのままソファに寝そべる。その表情が明るくなってる。

 ……なにがあったかなんて、詮索しない。したら、きっとロクなことにならないから。

「七央から、いつでも良いよって連絡来てるよ。寝るなら適当な時間に起こすけど」

「ああ。そうだな。じゃあ五時頃起こして」

「あれ、お昼は」

「今食う」

 なんてタイミング。ちょうご飯も炊けたところだよ。先回りして用意する癖があって良かった。これでまだ炊きあがるまでに時間かかってたら雷落とされてた。

 ちょっと待ってね、と言って鍋で温めなおしていたカレーを盛って、スクランブルエッグの上にとろけるチーズを乗せる。スープと一緒に並べれば、うん、今日は珍しく何も言われなかった。卵の上にマヨネーズをかけていく達也はどこか気もそぞろで、いつもよりかなり多めにマヨの山ができている。カレーの味、消されない? それ。

 まあ良いか。気にしない。へたに言って機嫌そこねたくないもん。

 彼の視線はスマホの画面。私はぼんやりとそんな彼を眺めながら、ちょっと早めのお昼を済ませる。今日は一段と視線が合わない。笑ってしまうほどに、私ってば彼にとってなんなのだろうって気になってくる。

「じゃ、ちゃんと起こせよ」

「わかった」

 これじゃ私、家事の出来るスマートスピーカーみたい。

 達也を起こさないように、静かに洗い物と溜まっていた洗濯を終わらせる。七央には五時ごろからでも大丈夫かって連絡済み。

 今日はお休みだけど買い出しに行く気力はない。冷蔵庫の中はかなりピンチなんだけど、七央が持ってきてくれた乾物でどうにかしのげないかどうか検討する。ボーっとしていると洗濯終了のメロディが流れた。洗濯物をベランダに干したら、本格的にやることがなくなる。

 あれ。五時からゲームってことは、夕飯は何時だろう。一時間やそこらで落ちるはずもないし、変な時間にまた作れって言われるのも嫌だな。私も一緒にゲームやるんだから、外食かコンビニかデリバリーで許されないかしら。

 ご飯はその時に考えよう。思考を放棄しながらリビングのテーブルに身体を預ければ、そのままうっかりまどろんでしまった。


 ふっ、と目を覚ますと外が暗い。やってしまったかと思って時計を見れば、まだ三時半だった。じゃあなんでこんなに暗いの? って思って外を見たら雨が降り出している。慌てて洗濯物を取りこむ。なんとか濡れなかったみたい。

 洗濯物をたたんでクローゼットにしまって、達也を起こすまではあと一時間。やっぱり夜ご飯の用意しておこうかな、といつもの癖で立ち上がる。しかし。

 私は冷蔵庫を開けたまま、腕を組んでうなる。冷蔵庫の中にめぼしい食材は全くない。雨が降ってきたらもう本格的に出掛けるのは面倒になってしまった。さっき行っておけば良かった、なんて思っても後悔先に立たず。ごはんものは作ってしまったし、麺は嫌だって言われるだろうし。どうしよう。本当に……

 ――やめた。

 先回りして用意したって、褒められはしない。褒められたいわけではないけれど、嫌な顔をされたいわけでもない。遅いと怒鳴られようが、食べられないまま凍らされる料理を作るよりも良いだろう。気付いたら、冷凍できる料理ばかり作っている自分にもうんざりしてしまう。

 作らない、と決めたものの、きっと怒るんだろうなあと思うと気が重くなってくる。胃が痛い……机にもたれかかりながら時間が過ぎるのを待った。

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