ゲーム開始_2
……なんだか、やっぱりこれじゃダメな気がする。でもなにをどう書いて良いのかわからない。これ以上悩んでも同じ結果な気がしてきたから、えいやっと気合で送信を押す。
見ている前で、すぐに既読がつく。妙にドキドキした。なんて返ってくるだろう。やっぱり、お守り壊しちゃったのって良くないよね。罰当たりだよね。うぅぅ。
『電話でいいですか?』
そんな返事にドキンとする。どうして? なんて一瞬思うけど、もしかしたら日本語でメッセージを打つのが大変なのかもしれない。OKを送るとすぐに着信があった。
「もしもし……あの」
『カナさん? おはようございます』
柔らかい声が聞こえてくる。謝らなきゃ、で頭がいっぱいの私は挨拶すら忘れている。
「あっ、おはようっ!」
『ふふ……』
慌てて返せば含み笑いが聞こえてくる。カァッと頬が熱くなった。
「あの、えっと、ペンダント、あの、見つけてもらった上に、その」
見事しどろもどろになった私に、アンディは『気にしないでください』と優しく言ってくれる。
『私が持っていてもらいたくて渡したんです。チェーンもこちらで直せますから、何も気にする必要はないです』
「でも、せめて修理代とか」
『たいしたことないので、大丈夫ですよ。ただチェーンが切れただけです。パーツが不足しているということもない。それに――壊したのは、カナさんではないですし』
最後、わずかに低くなった声に背中がゾワリとした。でもそのままのわけにはいかない、と何度も食い下がると、そういえば、と思い出したようにアンディは言った。
『昨日は出なかったんですか?』
「なにが?」
『Ghostです』
「あ、うん。なんかね、問題解決? みたいな」
あいまいに答えれば、スマホの向こう側からホッとしたような空気が伝わってくる。
『……良かったです。それなら、もうこれも必要ないですね。ならば、よけいにカナさんが気にすることはないですよ』
「でもそれじゃ私の気がすまないの。なにか! なにかお返しできることはない?」
『そんなことを言っていいんですか?』
なにやらアンディの声にイタズラめいた響きが混ざる。
『それならば、私とデートしてください』
「デッ?!」
『……もちろん冗談ですよ。そんなこと言われても困るでしょう?』
思わず絶句してしまう。すると、そんな私の反応がわかっていたから言わなかったのだとでも言いたげに、ちょっとだけ堅い声色で返された。
デートって名前になってしまうと、構えてしまって一緒に出掛けたりできなくなる。アンディの気持ちも知ってしまったから、半端なことはしたくない。
「今度、ランチおごらせてください。あと修理代も絶対払うので、領収書ください」
『……それであなたの気がすむのなら』
真剣に訴えれば、仕方ないですね、と小さなため息とともにアンディは呟いて。
『それでしたら、私もワガママをいいます。お礼のランチは、ふたりきりでおねがいしますね。マキさんと一緒だとか、ほかの方と一緒だとか、もしそうだったらお礼としてカウントしませんから。何度でもふたりきりでご飯を食べられるまでやり直していただきます』
くすりと笑いながらそんなことを言って来るから、また心臓がトクンと跳ねた。
とりあえず、オバケ騒ぎは解決。気になっていたペンダントの件もほぼ解決。壊れた状態を自分では確認できていなくて、あろうことか本人に見られてしまったのは非常によろしくないけど、見つけられなかった可能性を考えればまだ発見できただけマシと思うことにする。
お礼はランチ一回じゃ到底足りないよね。心配させてしまったことと、ペンダントを貸してくれたのに壊してしまったこと、探してくれたこと……ああ、そうだ。アンディに奢るなら、探してくれた七央にもお礼をしないと。何が良いかな。ネット課金用のプリペイドとか? それはあまりに味気ないかぁ。
そんなことを考えながらぼんやりとネットニュースを眺める。芸能スキャンダルにネットの炎上事件、犯罪に世界的な異常気象に……どれもが対岸の火事のようでただ文字として流れていく。
そういえば今日は達也の帰りが遅い。朝ご飯食べてきてるのかな……あー、お昼なに作ろう。面倒だから簡単にしたい。どうしようかな。私は昨日の夜アマトリチャーナ食べてるしパスタってのもちょっとねぇ。……カレー凍ってたっけ。保存してあったの出すなって言われるかもしれないけど、もう知ったことか、って気になってきた。七央とか、アンディとか……ザックにマリーとか。私、もしかしたら一人きりじゃないのかも、って思ったら心強い。しっかりしなきゃね、私。
達也が浮気してたのも発覚したんだし、もう私に連絡とってこないでって伝えよう。
よし、どっちにしても私だってご飯は食べるんだ。ご飯だけでも炊いておこう。炊飯器にお米を二合、炊飯ボタンを押してソファに戻る。またスマホを手にしたところで玄関の開く音がした。
「いらっしゃい」
わざとらしく言葉を選ぶが、達也は無言だった。




