憂い事排除依頼_2
ふぅ、と深呼吸をして心を落ち着かせる。
いくらオバケ退治と言っても、七央以外の男性を家に上げたのがバレたら達也に怒られるかしら。別れてはいるのだけど、相変わらず彼は私を管理下に置いていると思っているようから。
くれぐれも家の中を汚さないでね、なにも動かさないでね、と約束をして彼らを家に招くことにした。
エレベーターで三階まで上がる。こんな派手な二人組と一緒にいるのを見られたら、あとでマンションの住人に「あれは誰?」と聞かれてしまうかもしれない。こそこそと人目を逃れるようにして家の前まで辿り着き、手早く鍵を開けて家の中に入る。でも後ろに続く気配はない。
振り返ってみればまだ二人は外にいる。早く、と手招けば「ちゃんとお呼ばれしないと入れないわ」とマリーは肩をすくめた。そんな形式ばったこと言わなくても良いのに、なんてご丁寧なことだろうか。思っていたよりも、きちんとしている人たちなのかもしれない。
「どうぞ入って」
「ありがと」
その一言でにんまりと笑んだマリーが足を踏み入れる。続いて入ってきたザックの横に手を伸ばしてドアを閉めて鍵をかけた。
リビングに案内すると、部屋を見回したマリーは一点で動きを止める。それからまるで猫のようになにもない場所をじっと見つめているではないか。それは、この前七央が凝視していたのと同じ所のようだった。
――あの時、七央にもなにか見えてたのかな。
でも、彼にはなにも出来なかったんだろう。そりゃ、武器が銃だけじゃ家の中でぶちかますわけにはいかないもんね。今になって納得する。
「なにかいますか?」
「うん。でも……可愛くなぁい……」
嫌なものを見た、とマリーは顔を横に向ける。断りもなくソファに腰かけて、ザックを見もせずになげやりに手を振る。同じところを見ていたザックは、なんとも不愉快そうな顔になっていた。
「早くやっちゃいましょ。ほらザックぅ」
「姫さあ」
今見ていた場所を指さして「見える?」と彼は確認してくる。改めて目を凝らして見るが、なにもない。どれだけ見ても白い天井しかない。この前は確かにお風呂場でハッキリと顔を見たんだけど、それとは違うものがいるのかしら。それはそれで、とっても嫌だ。
首を横に振ると、ザックはけわしい顔になって腕を組む。ソファの背もたれに身体を預けて首だけで振り返り無表情にザックを眺めていたマリーは、ふいにパチパチと瞬きすると内から滲み出るような笑みをこぼして私の服をつまんだ。
「ねーぇ、カーナァ? オバケ、ちゃんと見えるようになるなら見たい? ザックが確実にヤったかどうか、自分の目で確認したくない?」
ねえ、となにやら楽し気な色を浮かべた目で見上げてくる。その顔はまるでチェシャ猫のようだ。
浮かんでいる表情があまりに意味深で気になる。なにか、言葉以上の意味があるような……でも彼女の言うように「ちゃんとやった」と口だけで言われても、霊感などない私には確認のしようがないのは確かだ。詐欺られてもわからない。
自分の目で見られるのであれば、それは安心材料にもなる。私はオバケ騒ぎの渦中から一刻も早く抜け出したい。オカルト的な現象だけでも精神的にゴリゴリ削られていくのに、更に元カレのご機嫌うかがいまでしないといけないというのはストレスっぷりが半端じゃない。
ザックがあの実態があったっぽいバケモノだけではなくて、いわゆる幽霊相手でも戦えるというのなら、この部屋にいるナニカの退治もお願いしたい。
「怖いけど、見たいです」
「そう……ねぇ聞いてる? カナは自分の目で見たいんだって。良かったわね」
などと言って、またしてもニマニマとしているマリーの様子に一抹の不安を覚える。ザックが何やら嬉しそうな困ったような複雑な顔をしているからなおさらだ。
――もしかして、答えを間違った?
「確認ってどうすれば出来るんですか?」
例えばアニメとかマンガだと、見える人の近くにいると見えるようになるとか、手を繋いでると見えるとかそういう設定は見たことがある。実際にもそういうことで見えるようになるのかしら。
彼の顔を見れば、なぜか照れたように視線を逸らされる。それから「ええと」と口ごもったザックに、近くに来るように言われた。隣に立って、彼らが指摘していた場所を見る。でもまだ何も見えてこない。隣にいるだけじゃダメみたいだ。やっぱり、肌は触れ合ってないといけないの?
ザックを見上げると
「こっち見ないでくれよ」
「見ないわよぉ」
なにやらマリーに釘を刺した彼は、真剣な顔で私を見る。
これは、王道なところで手?
自分の手を見る。彼氏以外の男の人と手を繋ぐとか、それってかなり恥ずかしい。私はこれからどうすればいいんだろう、と考えていると、ザックの手が私の頬を包んだ。




