表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/71

憂い事排除依頼_1

 それは願ったり叶ったりというもの。一つでも心配事が減るのなら大歓迎だ。小さな期待に心臓がトクトクと鳴りだす。

「もしかして、二人はお祓いとか出来るんですか?」

「そんなの出来ないわよ」

 呆気ないくらいにあっさりと返されるからガッカリしてしまう。だったら、なにをどうしてくれようというのだろう。マリーの言動の翻訳を求めてザックを見ると、彼は近くにやってきて周囲の様子を探る。誰もいないことを確認してから――すい、と宙を撫でた。

 そこに、先日と同じように小さな手斧が現れる。実体化した斧を空中で受け止めたザックは、トントンとそれを手の平で弾ませた。

「まあ、俺たち『こういうもん』だからね。どっちかっていうと、カナよりもあっちに近い存在だし。物理的に、というか、正しくは物理じゃないんだけど、力技でどうにか出来なくもないよ。知ってるでしょ?」

 うん、と頷けばサックはなぜか嬉しそうに笑う。

「あ、マリーは実体がないと手が出せないから、今回は彼一人に任せることになると思うけどぉ」

 改めて、人間じゃないと本人の口から聞かされてしまった。確かにそれは七央も言っていたことではあるけど、ほら、二次元だとそういう異能とか超能力っていうの? そういうのを持っているヒトだっているじゃない。だから、人間ではないというのが七央の勘違いという可能性もゼロではなかったのに。

 なのに、ザック本人から、私――つまりは人間よりも幽霊に近い存在だって言われてしまった。

 でも。

 あまりにも外見が人間にしか見えないからなのか、私に対して友好的な態度だからなのか。バケモノの一種なのだと言われても、それで彼らを怖いと思ったりはしなかった。

 この気持ちには、先日彼が実際に私を助けてくれていたことも関係しているのだろう。彼らは、というよりも少なくともザックは、私に害をなそうとしているようには思えない。守る、と言ってくれたのに多少なりともときめかなかったと言ったら嘘になる。

 とりあえず、人間でないという話が事実にしろホラにしろ、斧を持っているところを誰かに見られたら大騒ぎになる。それこそ警察沙汰だ。早く斧をしまうようにリクエストすれば「ああ、ごめんね」と彼はそれを手から離す。地面に落ちる直前、サラサラと砂が崩れるように斧は形をなくした。

「本当に、あのオバケ退治してくれるんですか?」

「姫が望むなら、何でもやるよ。必要なら命じて。俺は君のナイトだからさ」

 ザックはそう言って、ウィンクを投げてきた。

「姫って呼ばないでください」

 慌てて視線を逸らす。トクン、とまた胸が鳴る。ザックの笑う気配がした。


 でもそれら全部に気が付かないふりをして、意識を家の中にいるのであろうオバケに切り替える。

 私には見えないけど、彼らの発言を信じるのであればアレはまだ家の中にいるということになる。しかも建物の外からでもわかるレベルで。

 何が見えているのか、気になるけど聞きたくない。

 多分このままだと今夜は一人きりだ。オバケがいる部屋に一人きりだ。

 ――ちょっとムリ。

 いる、とわかっているところになんていられない。

 彼らの言葉が本当なのであれば、放置してして状況が悪くなったりすればどうせどこかにお祓いをしに行かなければいけなくなる。それをしなければいけないのは全部私だ。これで、続けて恐い思いをした私が挙動不審にでもなれば、きっと遊びに来た達也は不愉快な思いをする。それで、ご機嫌斜めになった彼のお世話は面倒だ。

 となると、失敗でも成功でも、やってくれるというのなら試してみない手はない。私がまたオバケを見たって青くなってたら、この間の様子を見るに達也は不機嫌になるどころじゃすまないし、だったら可能な限り早くケリをつけたい。痛いのはやっぱり嫌だ。

「除霊料金とかは――」

「そんなのいらないよ。カナが笑ってくれればいい」

 ザックはそう言ってくるが、そういうわけにもいかない。マリーを見れば、腕を組んで華やかな笑顔を浮かべているだけだ。

「マリー? お金」

「いらないわよぉ。だって、ザックがやりたいんでしょう? だったら、やらせてあげればいいじゃない」

「……そういうものですか」

「だって、ザックはカナの役に立ちたいんでしょ?」

「可能な限りね」

 どうやら、彼らにお金を取るつもりはないらしい。

「じゃあ、オバケ退治してくれたら、せめて夜ごはん食べていきませんか」

「マジ?! カナの手作り?」

「あらぁ、良かったわねえ。好きな子の手料理だって」

 ぱあっとザックの表情が明るくなる。からかうようにマリーは言うけど、文脈的に「好きな子」っていうのは間違いなく私のことだ。彼女の表情からは本心でどう思っているのかわからない。少なくとも嫌味で言っているようには見えない。

 ――好きな子、とか。他の人の口から改めて言われるとちょっと気恥ずかしいな。

 こうやってからかうってことは、本当に恋人みたいな関係ではないように思えてきた。ってことは、もしかしてザックは本気で私を……?


 ううん、違う。頭を冷やそう。

 好きってちょっと言われたくらいで調子に乗っちゃ駄目よ伽奈。

 今は、オバケ退治の依頼人と請負人。成功報酬が夜ご飯なだけ。

 ザックが嬉しそうな顔をしてくれたのにもちょっとキュンとしちゃった、なんて気のせいだからね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ