表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
27/71

どうにも心配性な彼ら。_5

「って言ってもね?」

 これで、本当は別れてるんだって言ったら、だったらなんであの人が私のうちに来てるんだって怒るんでしょう? なんで拒絶しないんだ、って。

 彼の立場になれば、私だって同じようなことを言うかもしれない。きっと言ってる。達也と付き合っていたころの私みたいな子がいても「別れたら?」って言ってるだろう。

 わかってる。どれだけ歪んでるかも知っている。

 でも。自分のことに当てはめてしまえば、そう簡単な問題でもなくなる。

 抵抗すれば文字通り痛い目に合う。反抗したと思われた段階でもう痛いことになるのは想像に難くない。嵐が去るのをじっと待つのが、一番ダメージが少ない。そして、眠っているケダモノには触れないのが一番だ。

 うまく言葉が見つからなくて黙ってしまった私をじっと見ていたアンディは、軽く握った拳を口元に当てる。

「……直談判というのもダメでしょうか」

「アンディ?」

 どこになにを直談判するというのか。七央と揃って発言主であるアンディを見れば、どこまでも真っ直ぐな視線を向けてくる。

「ですから私が、そのタツヤさんに『カナさんを私に譲ってください』と言うんですよ」

「なんスか、その娘さんを私にくださいみたいなの」

「彼の出す条件は全てのみます。ですから」

「アンタ、なに考えてんスか」

 どうやら本気らしい声色に七央が呆れ顔になる。私も同じ気持ちだ。そんなことをして、彼にどんな得があるというのだろう。ただの仕事仲間に対してそこまで親身になれるものだろうか。いつもながらその言葉選びは誤解を招くものだし、全く何を考えているのか解らない。

 発言に対して突っ込んでくる七央に視線を移して、なおも真面目な顔でアンディは言う。

「下手にカナさんを匿おうとしても、そのタイプの人間にみつかってしまったら余計ヒドい目にあわされてしまうかもしれないです。ならば、ちゃんと別れたという事実をつくらなければいけません。彼女に近づかないという書類にサインしてもらって……」

「待って待って、本当に無理」

 なにその仰々しい話。どこのドラマの話なのよ。

 ここは日本よ? ただの恋人同士のいざこざに、ただの別れ話に書類を用意しようだなんて。有り得なさすぎる。離婚でもあるまいし、別れるのに書類が必要になるだなんてそんなの聞いたこともない。それにね、二人は知らないけど、私たち一応別れてるんだよね、これでも。恋人同士ではないのだ。ということは、そんなものは最初から必要ではない。

「なぜですか」

 アンディは真顔で見てくる。美形の無表情というのはなかなかに迫力がある。うろたえると、七央もストローで氷を回しながら横目で私を見た。

「まあちょっと大袈裟な気はするけど、あのテのタイプにはそういうの使った方が良いかもね。達也さんって変なところでゴネそう」

「そっちに同意するの?」

「だって、オレ一秒でも早く別れて欲しいもん」

「簡単に別れろって言わないで。それに、私結婚したいんだって」

「だったら、もっと早く達也さんとは別れなよ」

「次なんて簡単には見つからないの。なによ、オレがカナ姉を貰ってやるとか言わないくせに」

 いつもの調子で言い返せば、またその話? と七央の目が訴えてくる。まだするよ、と口を開くと同時に、バンッとテーブルが叩かれた。七央と揃って首を向ければ、妙に据わった眼をしたアンディがこちらを見ている。

「おふたりは元々恋人同士だったんですか」

「いいえ」

 そんな過去はない。

「なら、付き合う予定はあるんですか」

「……いいえ」

 多分、この先もない。

「カナさんは、ナオさんと結婚したいんですか?」

「……いいえ?」

 その発想はどこからきたの? もしかして、今の「貰ってやる」云々のこと?

 こんなのは幼馴染同士の言葉遊びのようなものだと思っていた。七央だって本気にしてはいないし、このやりとりはもう何回目かもわからない。私たちの間ではもう定番になっているネタのようなものだ。なのに、それに対して怒りを感じたらしい様子のアンディが意外でならない。

「カナさんとナオさんは、もともと恋人だったわけでもなく、この先にそうなる予定もなく、更にお互いに結婚する気もない」

 そうですね、と確認されるので、七央と二人で肯定する。笑っていない目で口元だけ弓形にしたアンディは、指先で机を軽く叩いた。

「結婚相手になりそうな人がいなければそのカレシと別れられないというのなら。カナさん、もうその問題は解決していますよ」

「解決なんてしてないわよ。私、次の相手なんて」

 ああ、いや、告白じみたモノはされてる。しかも彼女持ちの最低男に。

 でもあんなの真に受けるわけにいかないじゃないの。彼女がいるって解っていて、それでも恋に突き進めるほどの非常識ではない。しています、と妙にキッパリと言い切ったアンディは続ける。そして、懇願するように右手を自分の胸元に押し当てた。

「どうして私の言葉は無視するんです? カナさん。どうしてちゃんと聞いてくれないのですか? ご両親のところには、私が一緒にご挨拶にいきます、と言いましたよね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ