どうにも心配性な彼ら。_3
――え? アンディ?
「カナさん。ちょっと失礼します」
アンディはテーブルに手をついて、私の方へ少し目を伏せて顔を寄せてきている。
「っ?! や、なにっ? ちょっと近……」
いやまさかこんなところで?!
彼の行動の意図がつかめずに背中をソファにべったりとつけて限界まで逃げる。
「いきなりなにしてんスか」
七央がアンディの視線をさえぎるように手を挟もうとする。しかし目の前に出された手を丁寧な仕草で下ろさせた彼は、もう少し前に体を倒すよう言いながら私の髪を首の後ろに流し、傾けるように押して促した。その間もアンディは怖いくらいに真剣な表情を浮かべていた。
――キス、とかじゃなかった!
勘違いが恥ずかしくて黙っていると「ナオさん、でしたっけ」アンディは低い声を出して、見ろ、とでもいうように私の首筋を指さした。いぶかしげな表情を浮かべた七央は首を伸ばしてそこを覗き、ひゅっと小さく息を呑んだ。
「……なに、これ」
「なんのこと?」
「カナさん。もう一度聞きます。本当にカレシさんから暴力はふるわれてないんですか?」
二人の顔が恐くなる。私は意味が解らずに彼らを交互に見た。七央が自分の首筋を指先でトントン叩く。
「傷。そこ、擦れたみたいな傷があるよ」
「あ」
慌てて彼らの視線から首を隠す。痛々しそうな表情を浮かべたアンディは
「もしかして、私のせいですか」
ゆるゆると席に腰を下ろすと、ため息をついて顔をおおった。
「そのキズはペンダントでできたもの、ですよね。チェーンで擦れた跡です」
「どういうこと?」
突然落ち込んだアンディに七央が聞く。
「昨日、私のペンダントをカナさんにお守りとして貸したんです。今日はつけていないみたいですし、それにそのキズ……ああ、ごめんなさい。あまりにも考えなしでしたね。自分の彼女が男からアクセサリーを、借りたのだとはいえ、受け取ってつけていたら不快に思われるのは当たり前です」
なにやら呟いたアンディは泣きそうな顔になる。そんな顔をされると私も涙が浮かびそうになってしまうじゃないの。悪いのは私で、アンディじゃない。私が失敗しなければ良かった話だ。達也に見つからなければこんなことにはなっていなかった。
どういうこと? と聞いてくる七央と、それから目に見えて落ち込んでいるアンディにもことの経緯を説明する。話しているうちにランチが運ばれてくる。途中どうしてもオカルト的な話になってしまうので、店員や周りの席の人に聞かれたくなくて声が小さくなった。達也みたいに「下らない」「気のせい」と言われるかと思いきや、レオはともかく、アンディまでもが私の話を笑わずに真剣に聞いてくれたのだった。
ご飯を食べつつひとしきり話したところで、七央が軽く鼻を鳴らした。
「カナ姉がオバケを見たって言うから、アンディさんがお守りを貸してくれたんだ」
「うん」
「で、それを達也さんが下らないって言って引き千切って捨てた……って……サイテーだな、アイツ」
舌打ち混じりに言ってコーラをすする。明らかに怒っている様子だ。すっかりアイツ扱いになっちゃってるし、七央の中で達也の好感度はダダ下がりだ。まあ元から高かったとは言い難かったんだけど。
「ごめんなさい、私が……あぁ……私のせいでカナさんがケガを」
完全に落ち込んでしまったアンディは、うつむいたままランチには一切手を付けていない。
「違うの、私がいけないの。だからアンディは」
「カナ姉は悪くない」「カナさんはわるくありません」
同時に強く否定される。ビックリして黙った私に、彼らは言う。
「どう考えたって、間違ってるのは達也さんでしょ。オカルトとか嫌いでもなんでもいいんだけど、あの人の考えなんてどーでもいいんだけど、それが人のものを壊して良いってことにはならない」
「そうですカナさん。あなたがするべきことは暴力をうけたことに対する訴えだと思います」
「訴えって、そんなオーバーな」
「ケガさせられているではないですか。そんな、女性に手をあげるだなんてこと、ゆるせません」
「オレも、警察に訴えて良いと思う」
これくらいの小さな傷で何を言っているんだろう。騒ぐような話じゃ全くないのに二人とも大袈裟すぎる。そう思いながらあいまいな笑みを浮かべると、七央がまた怖い顔になった。
「カナ姉さ、感覚麻痺してるよ。言ったよね、合わないって。あの人と付き合ってから、カナ姉いつもアイツのことばっかり言ってさ。なんかさ、それも好きだから話してるって感じしない」
「七央、なに言って」
「いつだって達也さんに怒られないか、機嫌を損ねないか、どうすれば平穏無事に過ごせるか、そんなことばっかり考えてるの。ねえ、気が付いてる? しっかりしてよ。目を覚まして。その状況、フツーじゃないからね」
「だから、なに言ってるのよ、七央。そんなことない……でしょ?」
またこの子は、と苦笑いを浮かべていた私の手が握られた。




