どうにも心配性な彼ら。_2
もう七央ってば。アンディがちゃんと名乗ってくれたにも関わらずなんにも言おうとしようとしない。
この子本当に喫茶店なんていう接客業でアルバイト出来てるのかしら。お店に迷惑かけてない? もしかしてウェイターじゃなくてキッチン担当で働いてるのかもね。こんな不愛想なのがウェイターなんて出来るはずないもん。
アンディが困ったように私を見てくるので、もう一度七央を肘でつついた。
「七央、彼は私の仕事仲間なの。私のオトモダチ。ほら挨拶は?」
「……よろしくッス」
七央は軽くアンディの手を指先で掴むと、一・二度振ってすぐに離した。そんな、嫌なもの触るみたいな態度しなくてもいいのに。こんなに人付き合いヘタクソだった記憶はないのだけど、おばさんが言うようにあまりにネットの世界に引きこもり過ぎなんじゃないの?
「これからデートですか?」
「どうして七央と同じこと言うの」
といっても、二人の言っている私のデートの相手はそれぞれに違うのだろう。揃っての勘違いに、ふふっ、と声を出して笑ってしまう。
「お似合いのふたりだと思いましたから」
「違うよ。今偶然会っただけだし、本当にただの幼馴染。ね?」
「うん。カナ姉、彼氏さんいるし」
んんっっ!
そうだった。七央には別れたってちゃんと言ってないんだった。むせそうになるのをなんとか堪える。
「その、うわさのカレシさんかと思いました」
アンディの言葉に、塾で噂になってるの? と七央が目で訴えてくるけど、そんなことはないと思う。事務所で惚気話をしていたわけでも、逆に愚痴ってたわけでもない。一体どんな噂があるんだろう、と私も首を傾げてしまう。
「これからお二人でランチですか? それにしては少し早いような……」
話を切り替えるように腕時計を見ながらアンディは言う。私は首を横に振る。
「ううん。交番に行くの」
「交番……Police?」
不思議そうな声を呟いたアンディだったが、すぐにハッとした顔になって真剣な目を向けてきた。
「どうして……っ! もしかしてなにか事件……カレシさんとなにかありましたか?!」
「だから、どうして七央と同じ反応するの?」
焦ったような顔で聞いてくるアンディはあまりに七央と反応が近い。さっきからなんなのそのシンクロ、とおかしくなった私は、本格的に声を上げて笑い出してしまった。こうなるとしばらく笑いが止まらない。往来の場でこんな風に笑っていたら変な人だと思われてしまうだろうから早く収めたいんだけど。でもツボにハマってしまったものはどうしようもない。
「あははっ! もう、やだなあ二人して……ふふっ」
笑っている私を見てアンディは困惑気味に眉を下げる。
「ええと、事件ではないんですね?」
「落とし物の報告に行くらしいッスよ」
「落とし物ですか」
笑いの止まらない私の代わりに七央が答えてくれる。そして、落とし物の話になって今度はザッと血の気が引く。そうだ。笑っている場合ではなかったじゃないか。
「あ! アンディ、私あなたに話さなきゃいけないことがあったの」
笑いを引っ込めて、真面目な顔でアンディを見る。彼はいつもの爽やかな笑顔で見返してきた。
「はい、なんでしょう」
「あの、ええと……っ! ご、ごめんなさいっ!!」
おなかから出した声で謝ると同時に、大きく頭を下げる。
これは彼に会ったらすぐに言わなければいけないことだった。叱責されて当然のことだ。世間話を優先するだなんて失礼にもほどがある。思い出したなら少しでも早く報告しなければいけない。彼のペンダントを無くしてしまったこと、壊してしまったこと。それを、ちゃんと説明しなければ。
大笑いしていた私の急な態度の変化にアンディは明らかに困惑していた――と、後になって七央が教えてくれた。
公道で頭を下げ続けては目立つ。しかし立ち話で済ませるには内容が込み入っているし、時間も時間だった。まずは何があったかを教えてください、と言ったアンディに誘われて駅前のファミレスに入る。まだお昼には少し早いから店内に人は多くない。お昼ご飯は家で食べる、と言った七央はドリンクバーだけ。私とアンディは日替わりランチを頼んだ。
「それで、なにを謝りたいんですか?」
少し落ち着いてから、向かいに座ったアンディがたずねてくる。
「えっと、あのね」
どこから話したら解りやすいかしら。考えながら髪を耳にかける。目を伏せた視界の隅で、アンディが腰を浮かすのが見えた。どうかしたのかと顔を上げれば至近距離で視線が合ってしまって、何度か無言で瞬きを繰り返してしまった。




