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そして気づいた私のこと_2

「なに? なんで見せられないんだよ」

「これ、借りものだから」

「はあ? ペンダントを? 借りた? 何のために?」

 想像以上に機嫌が悪い。どうせゲームで負けたとかそんなくだらない理由だろうけど、下手なことを言ったら怒られる。わかっているのに上手い言い訳が思いつかない。

「お守り……に……」

「お守りがなんで必要なんだよ。馬鹿じゃねぇの?」

 バカ正直に言えばやっぱり怒った。 

「一昨日から言ってるヤツか? お化け? 幽霊? そんなの気のせいに決まってんだろ、お前しか見てねえんだから」

「でも、今朝だってお風呂で……」

「風呂ぉ? 入ったけどいつも通りだったぞ。オバケなんているわけないじゃん。なに? お前そっち系のイタいやつだったのかよ」

 くだらない霊感ごっこやめてくんない? と鼻で笑った達也の手がペンダントに掛かる。

「止めて!」

「うるせえな。お守りなんてバカらしいんだよ。なんだよ。そんなに大事なのか? もしかして男からのプレゼントか? ああ? もう男できたのかよ」

 がなるような声が怖い。言葉が痛い。喉が絞まって声が出ない。

「そうじゃなくて、借りてるもの、だから」

「そんなの知らねえ。くだらないもんつけてんじゃねえよ」

 外せよ、と彼はチェーンを指先に引っかけた。あまり乱暴にされると壊れてしまうかもしれない。あくまでも借り物なんだから、大事に扱わなきゃいけないのに。

「わかった。外すから、手を放して――」

 やめてくれるよう、達也の手に触れようとする。

「っんだよ! 逆らってんじゃねえよ!」

 ちょっとした言い方や行動が気に入らなかったのだろう。達也はメダルの部分をつかむと乱暴にひっぱった。 

 ブチッとチェーンが切れる。私から離されたペンダントが達也の手に握られる。

 引きちぎったペンダントを、彼は窓を開けて外に投げた。

「あっ!!」

「なんだよ、文句でもあるのか」

「……ない、です」 

 違う。大嘘だ。問題しかない。

 なんてことをしてくれたの。どうしよう。あれ、アンディから借りたものだったのに。彼の大切なものなのに。なくしたらいけないものだったのに。

 アンディが、私の身を気遣って貸してくれたものだったのに。

 グルグルと頭の中に「どうしよう」ばかりが浮かんで何も考えられない。

 今すぐに探しに行きたい。でも、こんな夜中に一人で家から出たら怒られる。明日――きっと泊っていくだろう達也が出掛けたらすぐに探しに行って……探しているところを達也に見つかったらまた怒られるから、慎重に動かなければ。

 ペンダント、見つからなかったらどうしよう。

 アンディにはなんて言えばいい?

 無言で下を向いていると、イラだったように舌打ちをした達也の声が降ってくる。

「風呂、くんどいてやったから入ってこいよ」

「あ、うん。ありがとう」

 多分、自分が入るためにお風呂の用意をしたのだろう。今の言葉は、何もやらずに寝ていたわけではないというアピールだ。ごめんね、と言いながら、血の気の引いた顔で皿洗いをする。

 とりあえず大爆発せずには済んだみたいだから、これ以上彼の癇に障ることをしてはいけない。怒ったり泣いたりして下手に刺激するより、何もなかったような顔をしているのが得策だ。感情を押し殺して、手早く洗い物を済ませ風呂場に向かった。


 のろのろと服を脱ぎながら鏡を見る。完全に表情が死んでいる。こんな顔じゃダメ、と軽く頬を叩いて口角を無理やり上げた。

 ――大丈夫。私はまだ笑えてる。

 身体を洗えばシャワーとボディソープが首元にしみる。さっきチェーンが引っ張られた時に擦れたのだろうか。首の後ろ、自分では見えない場所だ。

「ホント、どうしよう、ペンダント。探さなきゃ……」

 頭からシャワーを浴びてシャンプーを洗い流す。うつむけば気分も重くなる。早く顔を上げなければ。

 あーあ、人に優しくされたからって、嬉しくなって調子に乗るんじゃなかった。さっきのザックの件も含めて、ちょっとでも舞い上がった私にはバチが当たったのだろう。まさに泣きっ面に蜂。じわりと涙が滲みそうになる。その時、ポタ、と背中に天井から水滴が落ちてきた。

 「ひゃあ!」

 驚いて悲鳴を上げてしまう。ああビックリした。おかげで涙も引っ込んだ。

 泣いてる場合じゃない。そうだ、まずは行動しないとね。朝、達也が出掛けたらネックレスを探しに行こう。

 湯船につかれば、一気に疲れが出てしまったのか全身から力が抜ける。ふう、とため息をついて目をつぶりバスタブの縁に頭を乗せた。しばらく目を閉じたままでぼーっとしていると、今度は額に水滴が落ちてくる。

 達也ってば換気扇回してなかったな? カビ生えちゃうじゃない。そう思いながら目を開けた私は。

 悲鳴も上げられずに顔を引きつらせた。


 顔。

 顔が。

 女性の。

 大きな顔。

 天井一面に。

 顔が浮かんで。

 憎々しげに歪む。

 巨大な女性の顔が。

 私を見下ろしていた。


『……コミナミ……カナ』

 それは私の名を呼んだ。

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