第14話「第三次防衛戦――火竜、天川を翔る」
寺の裏手、岩場に仕掛けた罠がうなりを上げて弾け、
背後から迫る敵を、辛うじて押し返した。
だが、谷の上空には火の手が上がっていた。
敵本体が峰伝いに迫り、
ついに寺に火が放たれたのだ。
轟音とともに屋根が崩れ落ち、
壮元和尚の祈りの場が、灰の中に消えた。
その火は間もなく、
山を越えて“太陽の道”の村にも及んだ。
「もはや……」
日影は短く言っただけで、真名井を先に立たせた。
二人は天川の川上をめざした。
険しい岩場を抜けた先、渓流の水音が静かに響く。
その奥、大岩の壁面に立てかけられた、
長大な竹の筏があった。
その陰には、丸太をくり抜いて作られた、
一艘の艇が潜んでいる。
木影と金影が幾日もかけて造った、“火竜”である。
長さ六間半、直径二尺。
舳先は鉈で削られ、鉛筆のように尖っている。
人ひとりが身を屈めてようやく収まる内径。
まさに忍びのための逃れ舟であった。
「日影……これに、我ひとりで乗るのか?」
真名井が問うた。
声は月光に溶けるように、淡かった。
時は丑三つ時。
空には雲ひとつなく、欠けやらぬ満月が、
川面を煌々と照らしている。
夜露を帯びた苔の岩々が、銀に光っていた。
「まずは川を下り、伊勢の海へ。
……和子は、大湊を覚えておられよう」
「だが、我ひとりで――」
「川下にて、我らが待つ。
必ず、道を切り拓いて参る」
言うが早いか、日影は火竜の口に外板をはめた。
竹筏の陰に、黒き影が沈む。
隠されていた綱を岩陰から一段引くと、
竹筏がぐらりと揺れる。
さらにもう一段、綱を引いた瞬間、
筏は崖下へと傾き、
火竜を抱いたまま川面へと滑り落ちた。
「行け……」
その声に呼応するように、火竜が筏から離れた。
水面にひときわ高く跳ね、やがて深く潜っていく。
渓谷に水音が響いた。
火の手を背に、天川の水脈へと沈んでゆく
――それが、真名井を載せた、
潜水艇”火竜”だった。
(つづく)
いよいよ明日、最終話です。
たくさんの方の応援があり、ここまで辿り着きました。
本作完了次第、第2部「真名井、海へ」を構想します。
今後とも、よろしくお願いいたします。
船木




