第12話「早瀬の里・第一次防衛」
里へと続く獣道を、三手に分かれて進む敵兵。
その先陣は十挺の火縄銃を構え、慎重に山道を踏みしめる。
「崖に寄りすぎるな――慎重に進め」
激流の天川が足元の谷を流れ、秋の色を深めていた。
そのとき、牙を剥いたのは、土陰が仕掛けた罠だった。
グラリ――。突如、獣道の一部が崩れ落ちた。
「崩落だ――ッ! 下がれ、下がれっ!」
穴に落ちた兵がもがくうち、底に敷かれた革袋が破れ、
突如として悪臭が立ち込める。
「く、くせぇっ……これはっ……!」
袋の中身は、糞尿と栃の実、山葡萄の汁。
木影が調合した、動物を誘う異臭の元。
落ちた兵たちは、汚泥の中で七転八倒する。
「隊列、立て直せ――!」
副将が怒鳴り、兵たちをまとめ上げようとした、
その刹那――グワアァァァァーーーッ!
山際の雑木林が割れ、熊のごとき猪が数頭、
臭いに誘われて突進する。
罠に落ちた兵へ喰いつき、骨を折り、内臓を裂く。
「うわああっ!」
戦場は瞬く間に地獄絵図と化した。
それでも副将は冷静だった。
「槍隊、前へ! 奴らを仕留めろ――!」
穴に潜ろうとする猪へ、槍隊が一斉に突きを見舞う。
咆哮と断末魔――。
一瞬、静寂が訪れる。
……だが次の瞬間、ザザザ……ザァァ……ゴゴゴゴゴッ……!
猪が現れた雑木林が崩れ、土砂が獣道を飲み込む。
崖下へと土砂が押し流れ、隊列の一部――十数名が巻き込まれた。
それでも兵たちは、前へ進む。
「このまま突っ切れ、正面の伏せ屋を潰せ!」
目指すのは、里の東にある土陰の小屋。
薪が積まれ、湿った板壁に囲まれた、何の変哲もない小屋。
「囲め! 火をつけろ!」
背後から回り込んだ兵たちが松明を投げ入れる。
――ドンッ!!!
大音響とともに、小屋が爆発した。
屋根が吹き飛び、板壁が破裂し、
鉛の菱が雨のように降り注ぐ。
「うぎゃあっ!」
倒れる兵。飛び散る血。立ち昇る煙。
これは、壮元和尚の教えによるもの。
猫の糞から硝石を抽出し、湿った板の下に爆薬を仕込む。
鉛の菱は金影の作。
人の肉を裂き、鎧を穿つ、死の弾丸。
兵の一団は後方に退いた。
「敵は……、いったい何人いるんだ……」
副将が泥まみれの顔で呻く。
その遥か後方、峰を覆う本隊の中――
主将が呟いた。
「忍びども、今に見ておれ……戦は、これからだ――」
こうして先陣は一時撤退。戦場は膠着。
七影の守る里は、まずは見事に守りきられた。
(つづき)




