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不遇の真ん中令嬢はあと少しで、『お役ご免』を迎えようとしています。

 朝と午後、天気が目まぐるしく変わりやすい季節。今日は珍しく、昼を過ぎても穏やかな陽差しがふり注いでいる。


 それでもそよぐ風は、日増しに冷たさをかもし出す。暖炉にくべられた薪が、煌々と立ちのぼった。

 花も恥じらうシミーズ姿。お尻がほんわりと暖かいけど。こんな立ちふる舞い、絶対、殿下に見せたくないけどね。


 花嫁衣装の縫製前に採寸を。素敵な名目で、母との再会が叶うとは。

 ふってわいた幸運に、私は天に昇る心地だった。


 ――クシュッ……クシュン。


 止まりそうにないくしゃみの後、

「大丈夫なの」

 採寸の手を止めた母から、心配の声が届いた。



「どうぞ、お構いなく」

「そうなの」

 

 母に促されるがまま、私は右に左にくるりと身を翻した。


 ――クシュッ……クシュンシュン。


 あら、いやだわ。風邪ではないと信じたい。

 それとも私を肴にまでして、誰か、噂したいのかしら。

  

 三度のくしゃみでバランスを崩す脇から、

「動いちゃダメ。正しい採寸が出来なくなるわ」

 優しくさとすような声がわき上がった。


 「もう少しの辛抱だから、我慢してね」


 足取りも軽やかに、母はテーブルの方へ赴く。紙をすれるペン音が、余韻を引くように途絶えた。

 

「これで終わり。もう、服を着てもいいわよ」


 母に臆することなく、チュニックワンピースを頭から丸かぶり。私の髪の毛、襟から出ない出ないよ。

 悪戦苦闘の末、見かねた母が近づいて来る。ごめんなさい。お母さま。


「これでいいわ」

「ありがとうございます」

「泣いちゃダメ」

 

 そうつぶやく母は、そそくさと帰り支度に取りかかった。


「紅茶をお出しするのに」

「これから、女官長の部屋に行くのよ」

「ひょっとして、トレーシーのドレスの寸法なの?」


 こちらの何気ない問いかけに、

「アタリよ」

 母は陽気に答えた。


 椅子に置いたトートバッグ的カバンを、母は手際よく口を広げる。

 採寸用の道具類をしまう手が、唐突に止まった。


 何か思うことでもあるのかしら。


 こちらにふり向くと、

「特別に見せてあげるわ」

 デザインブックを携えて私に歩み寄る。

 まんざらでもないとばかり、私達はベッドの上に腰を下ろした。


「素敵だわ」


 私もこんなドレスの似合う、金髪碧眼に生まれたかったかな。

 隣でページをめくる母が手を休めて、

「本当はもっと、抑えた色合いにしたいの」

 しんみりとつぶやいた。


「どうして。こんなに素晴らしいのに」

「公爵夫人は貴女の侍女よ。女官達を束ねる立場であっても、貴女より目立っていけないわ。それ、きちんと理解しているの」


 母のきつい一言で、私はバザーでのなり行きを思い出す。

「思い当たるふしはあるのね。これからは、気をつけるのよ」

「はい。お母さま」

 ため息の後、母は優雅に微笑む。ええ。本当に、気を配らないといけないわよね。


「あと、ケーキの食べ過ぎは注意して。セシルが嘆いていたわよ」

「うっ……」


 別れの挨拶も終えて、私達は前に踏み出す。暖炉の火がはじける音を聞きながら、扉の奥に消える母を見送った。

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