敵意ある視線の主は。
料理の並んだテーブルの周囲で、各々が談笑を始める。
殿下と一緒の挨拶回り。出だしは順調だったのよ。
それなのに……。
きっかけは、予告もなしに現われた騎士団の副団長にある。
かれこれ三十分以上かな。壇上の手前で、お取り込み中なの。
「殿方には殿方のおつき合いがございますのよ」
殿下を諦め切れない私の隣に、トレーシーがやって来る。
「先王陛下は?」
「私よりも、種屋と話す方が大事みないですわ」
うん。理系のヲタってそうなのよ。ドンマイだわ。
気を取り直して、女二人の挨拶道中が始まった。
置いてけぼりを食らった者同士だから分かるけど、普段以上の『顔面塩対応』はよくないわ。
「妃殿下。あちらへ参りましょう」
彼女の没仕事モード突入に、私は一言も発せない。仕方ないわ。淑女には淑女のおつき合いがあってよ。
トレーシーの案内により、私はご婦人方の歓談に加わった。
「先だってのお茶会以来にございますわね」
「ロブソン伯夫人も、お元気そうで何よりにございます」
ワゴンを押す給仕役を呼び止めて、私は替えのお茶を所望する。
「お加減がよろしくないと、伺っておりましたが」
あら、地獄耳な方なのね。
「お心配りのほど、ありがたく承ります。おかげさまで、今は持ち直しましたの」
ほがらかに答える私に向けて、ロブソン伯夫人の『オホホホホ』声が響く。それにつられて、取り巻きのお歴々からも似た声がわき起こった。
あれ? ロブソン伯夫人の肩越しに一人だけ、私を睨むご婦人の存在がある。無意識に視線を移せば、トレーシーからそっと耳打した。
うんうん。饒舌なロブソン伯夫人に場を持たせる。オーケー何とかよ。早速、お花畑ちゃんのふりして、私は夫人の自慢話に相槌を打つ。
うわわ、案の定と言うべきか。あのオバサンの顔。絶対に何かを企んでいるわ。
ようやく、ロブソン伯夫人らの輪から解放されて、私達は特待生達の集う場所へと歩き出した。
「お気づきになりましたか」
「大蔵卿を勤めるサイラス伯爵のご夫人よね」
「はい」
私の記憶が確かならば、サイラス伯爵家には妙齢の令嬢がいたような。ひょっとして、私の失脚を望んでいるの?
今まではフロワサール絡みで、狸ヅラの宰相を疑っていた。でも、本当は違っていたりして。
『新たなる陰謀の幕開け』
とてつもないパワーワードが、私の脳裏を過ぎる。そんなはずないわ。
「妃殿下」
横一線に並ぶ特待生達に対して、トレーシーが祝辞を述べる。迫り来る不安を抱いたまま、私は彼らの挨拶を受け留めた。




