暗闇の先で見た者とは?
まばたきを二度、三度と繰り返すたび、私の口から盛大なため息がこぼれる。まさか、亜空間の彼方に飛ばされるなんて聞いていないわ。
暗闇の中をあてもなく、さまよいながら浮遊する。
――キキキーン……。
突然の耳鳴りに、私はこめかみに手を添える。まぶたの裏に光が射し込む。
徐々に開く視界の先に、夜会らしき光景が現われた。
「誰も私に気がついていない」
挙動不審極まりなく周囲を見渡すうち、とんでもない人物を見つけてしまったの。
それは、誰にも相手にされることなく、ひたすら『壁の花』と化す私自身が……。
ああ、また頭が痛い。周囲の悪意に虚しく耐える私の目の前で、他の女性の手を取る婚約者のジュリオがいた。
これは『前田 さつき』以前の私の人生ね。
『どう、それでも彼を愛する』
あのイタズラっ子の声が、からかうようにささやく。
ワルツの調べに合わせて、別の女性と踊る彼を追いつつも、
「分からない……」
私は他人事のようにつぶやいた。
『いいものを見せてあげるよ』
私の顔を覗き込みながら、キューピッドさんが指先がパチンと鳴らす。
目の前の場面が変わったけど、記憶にない部屋で一人きり。
ベッドで死人のように眠るのは、
「私よね?」
側にいるだろう相手に同意を求めた。
重い音を立てて開いた扉から、一人の男性がやって来る。宙に浮いた私に気がつくことなく、彼は足早に通り過ぎた。
頭からすべり落ちた黒髪の残骸が、床の上に落とされる。男性の後ろ姿に見覚えが。と言うよりも、蝋燭にきらめくブロンドに私は驚いた。
「レオナルドさま……」
一瞬だけど、彼の人がこちらに顔を向ける。
間違いないわ。この人は、レオナルドさまだ。
「廃絶したロングウッド伯爵家」
ふと、お妃教育でつちかった記憶がよみがえる。
あの頃の私と婚約していた『ジュリオ・ロングウッド』は、レオナルドさまの前身だったのね。
「ああ、だから今世では……」
前々世、眠りにつく私の額に、彼が口づけを落とす。こんな風に愛されていたなんて。
『アナベル。すまない』
ウソ。全く知らなかったわ。でも、次の場面へ移る直前だったわ。
私の意識が唐突に、現実へと引きずられて行った。
「妃殿下」
「お目覚め下さいませ」
トレーシーとスーザンの悲痛な呼びかけに、
「はひ?」
私は驚いてしまう。
次代王妃の自覚も何もありやしない。
「ようございました。本当に……」
二人だけではない。視界の範疇に映る面々が、安堵と感嘆の声が混じり合う。
近くにいるメイドの手を借りて、私はゆっくりと身を起こした。




