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いよいよ、芸術祭の開幕。

 王都中の教会から、一斉に鐘がとどろく。さわやかな水色の空には、モコモコの小さな雲が並んでいた。

 前世で過ごした世界風に表現すると、『天高く馬肥ゆる秋』そのものね。


 毎年恒例と言わんばかりに、『聖ベネディクト騎士団』の手で空砲が数発ほど打ち上がる。王家総がかりの一大イベントが、こうして幕を上げた。


 大小の貴族はもちろん、王国を支える主な商会の面々から芸術関係の巨匠にいたるまで。盛装をまとう人の列が、続々と王宮へと押し寄せた。


 私は当然ながら、彼らへの挨拶回りで精一杯。今のところ、顔と名前を間違えていないけど、エントランスは群衆で埋め尽くされている。

 ええ。絶対に、負けたりしませんわよ。


 ああん。少しだけでも、お休みが欲しいザンスね。


「え」

「妃殿下。横に移動して下さいませ」

 

 人の流れに押し出されるように、私は『なんちゃって鏡の間』へと足を踏み入れる。見渡す限り、右も左も種々の絵画が飾られていた。


「それにしても、見事な風景画だ」

「いかにも」

「これも、中々の出来映えですな」


 あら、いやだわ。隣のハゲデブのオッサン連中に、芸術云々が分かるのだろうか。

 かく申す私も正直言って、自信はナッシングですの。ハハハハ。余所さまのこと、全く言えやしないわ。

 立ち止まる暇もなく、カニ歩きで絵画を眺める。うんうん。高級花瓶に生けた花々に、神話のワンシーン。


「これは一体」

「初めて見る画風ですな」


 件のオッサン達が、一枚の絵の前で立ち止まる。奨励賞の二席なる作品を見た瞬間、私はドン引きしてしまった。


 これって、キュビスムで有名なスペイン巨匠のマルパクじゃないの。元ネタを知るトリスタニア人がいないとしても、盗作はダメダメじゃん。

 せめて、油絵で『ひまわり』を描こう……って。

 あれれ? こっちは、服の色違い版『モナリザ』だよね。


「今年の絵画科の特待生は逸材ぞろいと聞いていましたが」

「噂にのぼる価値はあるといったところですな」


 私ったら、どうツッコミ入れたらいいのか分からない。まさか、『絵画教室が丸ごと』異世界転移なんてしていないよね。教室転移の亜種として。


「妃殿下。お顔の色がすぐれませんが」


 小声で私を気遣うスーザンを見て、

「大丈夫ですわ」

 私は同じ塩梅で答えた。


「ほう、これが大賞作品ですか」


 その声につられるように、一際大きなリボンを添えた額縁に目を向けた。

「まあ、素敵なモチーフですわね」

 普段、沈着冷静な彼女が、簡単の声をもらす。漆黒の空に浮かぶ満月の下、白百合を抱く黒髪の騎士だった。


「この仮面どこかで」


 ランダムに脳裏を過ぎるワンシーン。仮面の男性が私の名前を呼んでいる。

「ウソ。どうして急に」

 頭がズキンと割れるような、激しい痛みに襲われた。


「妃殿下」


 背後から響くトレーシーの声と、私の体を支えるスーザンの細腕。全てを閉ざすように、私の視界は常闇に覆われた。

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