ティータイムで、まさかの都市伝説を聞く。
家族の団らんを兼ねた、午後のティータイムの始まり始まり。
ほんわりと立つ湯気と、甘く香ばしいお菓子の香り。何とも言えない多幸感が、私の心に満ちあふれた。
義母も姉も満足そうに微笑む一方で、ルイスだけがしょぼくれる。
我が弟よ。一体、何が不満なのだ。
ふて腐れたまま、ルイスは投げやり気味に、
「あーあ、ボク。コークがいいな」
ぽつんと言い放った。
弟のつまらなそうな言い分に、私は思わず目を見張る。ええと。『コーク』って言ったわよね。
確か、コーラの別称だったような。
「コークって、黒砂糖色の炭酸水? だったかしら」
固唾をのみながら、私は姉に話題をふると、
「そうそう。最近、市井で流行っているの。でもね、あれは骨が溶けるって話よ」
懐かしい答えが返って来た。
姉の忠告が気に食わないのか、ルイスが頬をふくらませてそっぽを向く。そんなにいじけてどうする。
男として、情けないだろうに。
小学校の時に散々聞かされた都市伝説を、ここで聞かされるとは……。うん。やっぱり私の他にも、転生者がいるとしか思えないよね。
私の疑念など、家族達は気づこうともしない中で、給仕役とメイドがいそいそと立ち回る。
おのおのが、テーブルの前に落ちついた時だ。
「神々に、感謝を捧げます」
義母の厳かな祈りの声が木霊した。
「さあ……アナベルっ」
おっとはしたない。私ったらルイスよりも真っ先に、シフォンケーキをついばんでいたわ。でも、こんな現金な態度、今に始まったことではなくてよ。
義母のため息と姉の苦笑いが混じり合う。ルイスと顔を見合わせると、私はひたすらケーキを堪能した。
「そう言えば、来年は幼年校に入る頃合いよね」
「この子ったら。騎士団の志望なのよ」
「あらそうなの」
シフォンケーキの最後の残骸に、私がフォークを刺す側で、
「アナベル姉さまを守りたいからだよ」
ルイスが堂々と宣言する。
ククク……、そこかしこからこぼれる声に、私の手が止まってしまう。
「そこはきちんと、侯爵さまと話合うべきね」
つかさず入る姉からのツッコミに、
「やっぱりそうか」
ルイスがしょんぼりと肩を落とす。
父にとって跡取りは、ルイス一人だけ。騎士団は次男以下を受け入れる場所だから、嫡出の長男が目指すべき場所ではない。
「アナベルを守りたいのなら、何も騎士だけにしか出来なくないのよ」
「先生」
「法律を悪用する輩が現われないように、『法の番人』となる手もあるのだから」
姉のなめらかな物言いに、私は何も答えようがない。相手が年幅のいかない坊やだとしても、そこはしっかりと説明するべきよね。
家族だけの楽しい一時。それは、あっという間に過ぎ去った。




