ほのかな嫉妬心が疼く時。
どれくらいの間、私はその場で固まっていただろうか。
『社交界、屈指の名花』
そのように称された姉が、目の前に佇んでいる。
こちらがあれこれ考える合間に、地味なワンピースの裾裳が姉の手を離れ落ちる。その美しい所作に、私はうっとりと見とれてしまった。
「アナベル」
「お姉さま」
このタイミングで再会するなんて。心の準備だけど、何も出来ていないわ。
ステップも軽やかに、彼女は私の方へと迫り来る。何を着ていても、姉の生来の美しさは際立っていた。
何を着ても、地味で冴えない私とは大違い。殿下は何故に、姉の手を取らなかったのかしら。
嫉妬と不安が、私の中で交互に入り混じる。私の思いを知るよしもなく、姉は私の肩をそっと抱きしめた。
姉に握られた手から面を上げて、
「ご……婚約おめでとうございます」
私は渾身の笑みを作り出す。
嫉妬と無縁の姉は、
「ありがとう。芸術祭にはフィリップを紹介するからね」
息もつかずに言葉を発する。
姉のはしゃぎぶりに、私は呆気にとらわれた。
記憶にある姉とは、随分と性格が違うような。何だか身につまされるわ。
女二人の駆け引きなど、興味ナッシングといった風情で、ルイスはさっさと義母の隣にわり込む。
ルイスのそう言うところ、私も見習えたらいいな。
その後も姉は上機嫌で、義母とルイスの件で話し込む。そこに、私が入る余地はなかった。
黒歴史野郎と婚約中、いつも澄まし顔ばかりで、妹の私でさえ話しかけることすらはばかられて。
何だかビックリするくらい、拍子抜けしちゃうな。
モノローグから我に返ると、ソファに座る姉がコートの端をかいつまむ。うっ。私よりもずっと、手際のよい所作だなんてずるいわ。
諦めの境地で、私は姉の隣に座す。
やさぐれモードで、ふて腐れていると、
「ごめんなさいね」
「何?」
「貴女に面倒ごとを押しつけて」
姉の口から意外な言葉がもたされた。
王妃教育とか、お茶会の采配とか。あれとこれのことを言っているのかしら。
「殿下は初めから、貴女しか見えていなかったわ。ねえ、聞いている」
「ええ……え?」
いいえ、聞いていません。ごめんなさい。てへぺろ!
「貴女。どうしたのよ」
申し訳ないざんす。お姉さま。
「しっかりするのよ」
「はい、分かっていますわ」
こらっ、イタズラ小僧め。そこ、笑うんじゃなくてよ。
「本当に、そこだけは謝りたかったのよ」
表裏のない言葉に、私は嫉妬心から解き放たれる。もっと、広い心を持たなくては。
姉の口から持たされる近況に、私は時折笑い転げてしまう。扉を叩く音を失念するくらい、私達姉妹はおしゃべりに熱中した。




