表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/69

怒濤の展開に、私は唖然とするしかないわ。

 一体、何時、何分、何秒。

 先代陛下とトレーシーの婚約って決まったのかしら。


 おっと、いけないわ。そんな不毛な妄想よりも、お二人への祝福を真っ先に考えるべきよね。

 そう、納得すると同時に、私は羊皮紙をスーザンに手渡した。


「それでは妃殿下。私はこれにて」

「貴女も息災でね」


 切れのある礼の後、スーザンが馬車へと向う。騎士団の本営に赴かんと、彼女を乗せた馬車が走り去った。

 

 柔らかな陽差しに背を向けて、私はくるりと身を翻す。あらら? 見上げた先の正門前に、若い男女の姿があるわね。


「お荷物を運びます」

「お願いするわね」


 書生とメイドに手荷物をゆだねて、私は向かい風の中を歩き出す。背後から届くいななきも、木々のざわめきのため、いつの間にかかき消されてしまった。


「おいでなさいませ。妃殿下」


 エントランスに立つハンスの挨拶に、

「ありがとう」

 私は謝意を述べる。


 かすかに笑みを称えたハンスに促されて、荷物係の二人は荷物を二階へ駆け上がる。結構、重いのに二人ともごくろうさま。


「参りましょう」

「ええ」


 勝手知ったる間取りなれども、私はハンスの後に続いた。


「これって……」


 どこからともなく、たどたどしいヴァイオリンの響きが。

 私の声に反応して、

「如何されましたかな」

 先を行くハンスが立ち止まった。


「ひょっとして、あれはルイスの手によるのかしら?」

「はい。先週より音楽の家庭教師の方を雇われました」

「そうなの」


 芸術音痴系の父が、よくぞお雇いなさったわね。私の不埒なボヤキに構うことなく、ハンスは早足で前に進む。

 そんなに大股で歩かれたら、差が開く一方じゃないの。ここが、生まれ育った館でなかったら、私、迷子になってしまうわ。


「アナベルさまのご到着です」

「お入りになって」


 義母の声がするタイミングで、私はどうにかハンスの真後ろにつく。


「お帰りなさい。アナベル」


 応接間に踏み入った先では、義母とメイド達が裁縫に勤しむ姿が。

「そのまま続けなさって」

 成り行き任せに、私は女性達の輪に入る。そんな風に緊張しなくても、取って食べたりはしないわ。

 私は昔取った杵柄とばかり、縫いかけの衣の先をかいつまんだ。


「ルイスもまた大きくなった?」

「そうなのよ。あの子ったら、将来はジョージと同じ背丈になりそうよ」


 それを聞いたら、ちょっとだけ恥ずかしいかな。だって、父と同じ髪と瞳の色なのに、背丈だけは全く似なかったから。


「あら、そろそろ授業が終わるわ。先生にお出しするお茶を用意しないと」


 メイドが一人二人と、その場から去って行く。それと入れ替わって、ルイスと一緒に現われた人物を見て、私は思わず言葉を失った。


「お久しぶりねアナベル」

「ロクサーヌお姉さま?」


 誰よりも完璧な淑女の礼に、私は呆然と眺めるばかり。怒濤の急展開に、私の思考は完全に沈黙した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ