かつての咎人に、安らかなる余生を。
人目もはばからず、ナチュラルな形で抱き合う私と殿下。多分、ギャラリーのみなさま方からすると、長身のテライケメンにじゃれている仔猫風情にしか見えないだろう。
そっと、見上げた先に映える殿下の微笑み。ああ、時間の許す限りこうしていたい。
「両殿下」
ゴホ……、殿下の肩越しから、野太い男性の咳払いが。羞恥心もあって、のっそりっと。殿下のお側から、一歩だけ身を引いた。
「相手は神官どのだ」
「御意に」
殿下の下知を受けた面々が、祭壇へどっとなだれ込む。うっほ、あらいけないわ。
ガチマッチョな騎士二人が、私達の横をすり抜ける。
「くれぐれも、扱いを間違えるな」
彼らは有無を言わさず、項垂れた神官さまを脇から持ち上げる。さながら、『ロズウェルの宇宙人』をほうふつさせるシチュエーション。これを目の当たりにしたら、笑っていけないなんてムリな話よ。
「アナベル」
耳元でささやく声とともに、私は殿下の腕にくるまれる。視界から遠ざかる一行を、私は最後まで見届けた。
「あの……ひいおばあちゃんは?」
「ソフィア達が保護している。自警団の方は、あの男の魔力に脅されていただけだ。今回は不問としたよ」
ひいおばあちゃんの無事を知って、私はほっとため息をこぼす。やっぱり、あの人達も脅しを受けていただけなのね。
それなら、殿下の采配に異議はないわ。
「ところで、この男は」
うっ。冷血モード全開の殿下が、床に座り込んだ大伯父さまを睨んでいる。
「あ……の」
互いに火花を散らす二人を前に、私は何をなすべきなのか。
答えあぐねている合間に、
「申し上げます」
大伯父さまを庇うように、あの女性が立ちはだかった。
「よしなさい。ステラ……」
覚悟を決めた大伯父さまを遮って、
「この人は今、私の夫に過ぎません。どうか、安らかな一時を与えて下さいませ」
彼女は必死に訴える。
大伯父さまの顔が見る見るうちに、薄青からほんのりと赤味を増す。どうやら、大伯父さまもまんざらではないみたい。
「もう、長くないのです。最後は、私と二人で静かに……」
女性の哀願に、大伯父さまは一言も発せずにいる。
しばしの沈黙が続いたけど、
「どうしたい。アナベル」
殿下は私に決裁をゆだねた。
「私は……」
見下ろした先で咳き込むばかりの大伯父さまに、策略をめぐらせる気力はないはず。そう、信じていいわよね。
「このお二人がともに過ごせるように、療養に適した病院を探して下さいませ」
私は素直な意見を、殿下に伝える。『生殺与奪』って、むやみに使っていい訳ではないもの。
少しだけ驚いた表情を見せながらも、
「そうだな。そうしよう」
殿下はあっさりと了承する。
成り行きを見守っていた騎士達が、二人を連れて去って行く。これからの二人の余生が、心安らかであるように。祈りを込めて見送った。
――ディンゴーンディーン。
時を告げる鐘の音に、私は天窓を仰ぎ見る。過去の罪を消さんとして、厳かな音色が木霊した。




