あらら……もう、降参されてしまうの?
ひいおばあちゃんの側には、ソフィアとスーザンもついているのよ。つのる不安を打ち消すように、私は前だけを見つめた。
前後を自警団の面々に挟まれて、私は修道院の中に踏み込む。王宮とは趣の違う白壁が、何となく不気味な雰囲気だけど。長い回廊を進んだ果てに、装飾の朽ちかけた扉が目に飛び込んだ。
石造りの重い扉が、軋みながら左右に別れる。その奥にあるパイプオルガンの下で、白く長い髪の神官さまが背を向けていた。
「連れて来たのか」
振り向きざまに見えた顔は、研ぎすまされた美しさをたたえている。余りにも人間ばなれした姿に、私の爪先がふるえ始めた。
「アナベルっ」
横にある小さな扉から、初老の女性に支えられた老人が現れる。足を引きずる彼の人は、ゆっくりとこちらにやって来た。
「大伯父さま?」
神官さまをにらみつけて、大伯父さまは黙ったまま。彼の代わりに女性の方が、私の問いに無言でうなずいた。
「どうやら、審判を受けるべき罪人がそろったようだ」
その言葉と同時に、神官杖の先を私の喉元に突きつける。
「よせ」
大伯父さまの説得も虚しく、
「山繭のサナギの不育の原因を答えるのだ。トーマス」
相手は私達に怒声を浴びせた。
「もう、この地で山繭は育たない」
「何」
大伯父さまは、参列席に腰を落とす。
絶え絶えの息をふり絞り、
「あれは、マテリア王国自生の桑の木でしか育たない」
真実を吐露した。
確か、先王陛下の側妃シャルロットさまの生国よね。彼の地の動植物の大半は、門外不出だったような。これって、外交問題もいいところだわ。
「ザビーネの後ろ盾だった商会も、あちらで起きた革命で瓦解した。あれがなければ、山繭の人工飼育は叶わない」
「教会の権力で、貴様を生かした意味がないではないか」
「そうだな。もう、終わりにしようユリウス」
くくく……、不気味な笑い声が木霊したかと思えば、
「みんな。道ずれにしてやる」
神官さまの詠唱が始まる。
「やめろっ!!」
大伯父さまの懇願を打ち消すように、白い光の弾丸が私の方へ。私、魔力をはじき返すなんて出来ない。
そう、思った時だった。
『もう、しっかりしてよ。アナベル』
いたずらっ子の声に呼ばれて、私はゆっくりと瞳をあけた。
うそ。真ん前にブラックホールがあるるるる。
病院の待合室で読んだ少年漫画に、こんなチートがあったような?
白い光の弾丸を、黒い渦がガッツリと飲み込む。渾身の魔法を放った神官さまですら、意味フなチートの発動に目がテン状態。
「そ……そんな。お前は魔女かーーっ」
定期オツな叫び声に、
「いいえ。私はレオナルド殿下の妃にございますわ」
ドヤ顔満点の私は、淑女の礼でもって応える。ハッタリを決めた途端、神官さまは杖を投げ出した。
あら嫌だわ。神官さまって、意外にも豆腐メンタルなのね。
膝を屈した神官さまを、私は得意満面の笑みで見下ろした。
「アナベル。無事なのか」
聞きしに覚えの声色に、私は反射的にふり返る。
「殿下」
「よかった」
愛しいお方が駆け寄る姿が、ストップモーションと化していた。
「君が無事で、本当によかった」
「レオナルドさま?」
不意に、私の肩に殿下の腕が回される。互いのぬくもりを分け合うように。
私達は抱き合った。




