修道院へ向う途上で。
早起きは正直に言えば苦手だけど、私はベッドから身を起こす。
「うそ……」
私以外、ベッドは蛻の空だ。やっぱり、私が一番のお寝坊さんなんだね。
気を取り直して、自らの手で毛布をはねのける。ベッドから離れた私は、自力で身支度を整えた。
勇んで土間に行くと、みんなが待ちくたびれたように立っている。
「それじゃあ。行くとするかい」
ひいばあちゃんの号令に合わせて、私達は外に飛び出した。
ギギギィと開けた扉の一歩外は見渡す限り、白いもやの真っ只中にある。住み込みの職人さんが、内側から扉を閉ざした。
――グルルルル……ポッカ、ポッカ、ポッカ。
もやの湿り気が私達の頬をぬらす最中、年季の入った荷馬車が目の前で停車する。
車を曳く騾馬が、とてもかわいらしいわね。
「アナベルさまは……」
ソフィアが後方にいざなおうと、腕をかざした直前で私の足が前方の乗り口にかかる。
唖然とした表情の二人を尻目に、私はしれっと御者の隣に座った。
「そっちの二人も、早く後ろから乗るんだよ」
ひいおばあちゃんの大声を他所に、ソフィアとスーザンが呆然と立ち尽くす。彼女達のジト目光線に臆することなく、私はポーカーフェイスをつらぬいた。
前回と違い、今日の手綱の担い手は私の実のひいおばあちゃん。御者の席の隣に、ひ孫の私が座っていけない法律はないわ。
「二人とも、後ろの席についたみたいね」
「そうかい。ほらっ」
掛け声に応じて騾馬が、もやの深層部へと歩み出す。湿った風だけど、ものすごく心地よかった。
薄雲の引いた晴れ間から、柔らかい陽射しが大地を照らす。のどかな田園風景に、私は心を躍らせた。
「そんなに、ここからの眺めが嬉しいのかい」
「そうよ。だって、前は危険だから乗ってはいけないって……」
「ハハハ。パメラも小さい時は、こっちに乗るって泣いたことがあったよ」
あの、お母さまが? おしとやかな方なのに、ちょっとだけ意外かな。
はるか先まで、麦畑が連なっている。その少し手前の丘には、とんがり屋根の建物が見えた。
「あれが修道院」
「そうだね」
私の慰問に合わせて、僻地の砦からここの修道院に移すなんて。本当にこれは、単なる偶然なのかしら。
修道院への供物を運ぶ騾馬が、だらりと続く登り坂を駆け上がる。頂上まであと一歩と言うところで、荷馬車を数頭の騎馬が追い抜いた。
「あれは何?」
「この辺りの自警団だろうかね」
「そう」
ロマンス小説で『自警団』とは? ネットのQ&Aでは『民間の消防団』っぽい組織と、説明されていた記憶しかない。
あれれ。馬から降りた人達がこぞって、こっちに向かって来るけど?
「どうしたのかね」
ひいおばあちゃんが、手綱を引く手をゆるめる。次の瞬間、彼らはこちらに向けて抜き身を突きつけた。
「そこの若い女。降りるんだ」
怒声の主が剣先を、ひいばあちゃんの喉元に押し当てる。
「その手を放しなさい」
「先にアンタがこっちへ来い」
「やめるんだー」
異様な緊張感に、心がじわじわと絞めつけられる。ゆっくりと固唾を飲むと、私は地上に両足を落とした。




