表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/69

修道院へ向う途上で。

 早起きは正直に言えば苦手だけど、私はベッドから身を起こす。


「うそ……」


 私以外、ベッドは蛻の空だ。やっぱり、私が一番のお寝坊さんなんだね。

 気を取り直して、自らの手で毛布をはねのける。ベッドから離れた私は、自力で身支度を整えた。


 勇んで土間に行くと、みんなが待ちくたびれたように立っている。

「それじゃあ。行くとするかい」

 ひいばあちゃんの号令に合わせて、私達は外に飛び出した。


 ギギギィと開けた扉の一歩外は見渡す限り、白いもやの真っ只中にある。住み込みの職人さんが、内側から扉を閉ざした。


 ――グルルルル……ポッカ、ポッカ、ポッカ。


 もやの湿り気が私達の頬をぬらす最中、年季の入った荷馬車が目の前で停車する。

 車を曳く騾馬が、とてもかわいらしいわね。


「アナベルさまは……」


 ソフィアが後方にいざなおうと、腕をかざした直前で私の足が前方の乗り口にかかる。

 唖然とした表情の二人を尻目に、私はしれっと御者の隣に座った。


「そっちの二人も、早く後ろから乗るんだよ」


 ひいおばあちゃんの大声を他所に、ソフィアとスーザンが呆然と立ち尽くす。彼女達のジト目光線に臆することなく、私はポーカーフェイスをつらぬいた。


 前回と違い、今日の手綱の担い手は私の実のひいおばあちゃん。御者の席の隣に、ひ孫の私が座っていけない法律はないわ。


「二人とも、後ろの席についたみたいね」

「そうかい。ほらっ」


 掛け声に応じて騾馬が、もやの深層部へと歩み出す。湿った風だけど、ものすごく心地よかった。

 薄雲の引いた晴れ間から、柔らかい陽射しが大地を照らす。のどかな田園風景に、私は心を躍らせた。


「そんなに、ここからの眺めが嬉しいのかい」

「そうよ。だって、前は危険だから乗ってはいけないって……」

「ハハハ。パメラも小さい時は、こっちに乗るって泣いたことがあったよ」


 あの、お母さまが? おしとやかな方なのに、ちょっとだけ意外かな。

 はるか先まで、麦畑が連なっている。その少し手前の丘には、とんがり屋根の建物が見えた。


「あれが修道院」

「そうだね」


 私の慰問に合わせて、僻地の砦からここの修道院に移すなんて。本当にこれは、単なる偶然なのかしら。

 修道院への供物を運ぶ騾馬が、だらりと続く登り坂を駆け上がる。頂上まであと一歩と言うところで、荷馬車を数頭の騎馬が追い抜いた。


「あれは何?」

「この辺りの自警団だろうかね」

「そう」


 ロマンス小説で『自警団』とは? ネットのQ&Aでは『民間の消防団』っぽい組織と、説明されていた記憶しかない。

 あれれ。馬から降りた人達がこぞって、こっちに向かって来るけど?


「どうしたのかね」


 ひいおばあちゃんが、手綱を引く手をゆるめる。次の瞬間、彼らはこちらに向けて抜き身を突きつけた。


「そこの若い女。降りるんだ」

 

 怒声の主が剣先を、ひいばあちゃんの喉元に押し当てる。


「その手を放しなさい」

「先にアンタがこっちへ来い」

「やめるんだー」


 異様な緊張感に、心がじわじわと絞めつけられる。ゆっくりと固唾を飲むと、私は地上に両足を落とした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ