表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/69

消えた山繭の手がかりだけど。

 漂う蒸気にあてられて、目がしょぼしょぼするけど気のせいよね。今にも泣き出しそうなお婆さんが、ゆっくりと私の側に近づいた。


「髪と瞳の色を除けば、お前さんは私の娘に。ミーシャとそっくりだよ」


 お婆さんの台詞に、私は何も答えようがない。おどおどするだけの私に、婆さんは手を差し伸べた。

 その手を取る前に私は、

「あの、フロワサール伯爵家を恨んだりしていませんか?」

 しどろもどろに問いかける。


 感動のご対面をつぶしてごめんなさい。

 私の態度に困り顔のおばあさんに代って、

「それは、先代の話だろ? 元来は、善良な領主さまだったさ」

 さっきのご婦人が答えてくれた。


 何だか、話に聞いたことと違う。ちらりと横を見れば、ソフィアも驚きの表情を見せている。


「つもる話は、あっちでいいかい」


 そそくさと歩くお婆さんの後を、私達はなれない間取りをかき分ける。土間から奥に続く細い廊下を、必死に追いかけた。


 暗がりを抜けた先は、大きな竈が目につく台所。長い一枚板のテーブルを囲んで、みんなが腰を下ろした。


「あの絵は」


 正面のすすけた壁に、粗末な木枠にはめられた一枚の絵。市井の台所の壁に飾るには、もったいないような蒼い薔薇が鎮座する。

 色褪せた絵具が、過ぎ去った月日を物語っている。一体、何の意味があるのだろうか。


「あれは、先代が描いた絵だよ」

「アコギな方の」


 私の率直な表現に、お婆さんが首をふる。

「トーマス坊ちゃん……パメラの伯父上だね。若い時分は、絵描きを目指していてね」

 話の流れから察しをつけたのか、

「ご家族に反対されたのですね」

 ソフィアは合の手を入れた。


「そうではなかった」

「えっ」

「先々代のご当主と奥方さまは、トーマス坊ちゃんにはまるで感心がなかった」

「というと……」


 悲し気な面持ちで、視線をさまよわせた後、

「三人兄弟の次男故に」

 お婆さんはそれだけ言ってうつむいた。 


 しんみりとした答え方に、私は身につまされる思いだった。三人兄弟の真ん中だけが置き去りに。

 それって、よくある話だから分かるの。


「あの絵を描いていた頃は、心根の優しい坊ちゃんだった」


 だからと言って、悪行三昧が許されてもいい訳ではない。過去の思い出にひたるよりも、目の前の問題を解決するべきだわ。


 一呼吸置いて、お婆さんを見据える。

「山繭の飼育場は今、どうなっていますの」

「そっちは、教会の領分だ。うちらには分からない。ただ……」

「ただ?」


 一瞬、お婆さんが目を伏せる。


「あんたらをだまし通すのは無理だね。実はトーマス坊ちゃんを生かすためにね」

 

 あれ、アコギな伯爵さんは、この世にいないって聞いているけど。違うのかしら。

 

「あの……」


 視線を私達から背けると、

「山繭の権利を手土産にして、坊ちゃんの助命を嘆願したのさ」

 ひいおばあちゃんの口から予想外の答えがもたらされる。


「そ……」


 衝撃の事実を前に、私はつむぐべき言葉が見つからなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ