あこがれのディアンドルよ。
各話。サブタイトルを付けました。
私は硬いベッドの上で、のん気に寝返りを打つ。ちょっと、節々が痛いわね。
外では雄鶏が、勇ましい鳴き声を張り上げている。王宮って、こんなに騒がしい場所だったかしら。
意識の浮上とともに、まぶたの裏がとてもまぶしいわ。ゆっくりと瞳を開くと、見覚えのない天窓に白い雲が映えていた。
「あ……私ったら」
上体を起こして、部屋をじっくりと見渡す。隣で寝ていたはずのスーザンだけど、影も形もなくなっている。つまり、私だけ寝坊しちゃったってこと。
「ええと。着替えはどこなのよーー」
一人、あわてふためく私の元に、
「おはようございます。妃殿下」
ディアンドルをまとうスーザンが現れた。
「こちらにお着替え下さいませ」
彼女が手にするのも。当然ながら、色違いのオソロイのディアンドル。
やったー! 憧れのディアンドルだわ。
私は場所柄もわきまえずに、心の中でガッツポーズした。
「お気に召さりませんか」
「いいえ。ありがたく受け取りますわ」
私は本性をひた隠ししながら、受け取ったディアンドルに袖を通した。
みんなとお揃いの格好で、私は暖炉に近い席につく。
「積もる話は後ほど。食事に致しましょう」
準備に動き回る二人の邪魔にならないように、私は黙って見守るしかない。
「あら。これって」
目の前には、あの読みかけのロマンス小説がある。ここは一まず、本を手に時間をやりすごすしかないわ。
本当はお手伝いしたいけど、食器を落としたら、殿下の名誉を傷つけかねない。
そう、自分に言い聞かせて、手にした本の続きを追いかけた。
「そう言えば、護衛の方々は大丈夫だったのかしら」
私の問いに対して、席についた二人は言葉をつまらせる。
「奇襲を防げなかったお詫びとか。変なことをしでかさないといいのですが」
「妃殿下」
「さあ。早く食事をすませましょう」
お祈りを手短に終えて、私は好物の『ゆで卵のピクルス』にフォークをつけた。
食器類を片づけたテーブルの上に、つなぎ合わせの羊皮紙が広がる。手書きの地図を前に、私の目が釘づけとなった。
「私達のいる場所は、おおよそここになります」
「領府まで、どれくらいかかるのかしら」
ソフィアの長い指が、
「荷馬車を使い、順調ならば二時間ほどにございます」
道のりに沿ってインクをなぞった。
「この森の中を抜けるとなると、それ以上かかることもあるわよね」
「左様にございます」
少し休みを挟んで、昼前に出発する。それでも、日暮れ前には辿りつけるかな。
ええと。『コケツに何とか』ってことわざを思い出す。
「いざ、領府へ向いますわよ」
ソフィアの目を見て、私はのっそりとつぶやいた。
彼女はほんの少しだけ、驚いたような表情を覗かせる。それでも、私の決意を理解してくれたのだろう。
「お心のままに」
その言葉と同時に、彼女は両目を伏せた。




