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幕間 英雄殿下は、事件の黒幕あぶり出しに動き始めました。

 お待たせいたしました。

 再び、よろしくお願いします。

 文官達との公聴会だが、無駄話の多さに困ったものだ。少しは義父どのを、見習えないのだろうか。

 私は苦笑いを抑えつつ、エントランスホールから外へと踏み出す。


 その直後のこと。叙任を受けて間もない騎士が、青ざめた顔で私の元に駆けつけた。悪い予感しかしないが、気のせいだと己に言い聞かせる。

 待機させた馬車の扉口前で、若人は片膝をつけた。


「何ごとだ」


 あどけなさの残る面を上げて、

「妃殿下の身に由々しきことが」

 恭しく円筒状の紙を差し出す。


 無言でそれを受け取り、私は待機させた馬車に乗り込む。手にした書状の中身が、人目にさらされることを考慮したまで。


 でも、本音は……。動揺しきりの無様な姿を、誰にも見せたくないからだ。


 特殊ルーペを取り出し、私は暗号文を追いかける。アナベル達を乗せた御用列車が、正体不明の敵の襲撃を受けたとある。彼女の身辺警護に騎士団の精鋭をつけたのに、彼らが役に立たなかったのだろうか。

 それ以上に不思議なのは、襲われたはずの当人が詳細を伝えていること。


「どうなっているのだ」


 私は、無意識のうちに疑問を口にした。

 暗号文を追うルーペの手が、

「ポーションのすり替え……」

 その箇所でとどまる。


「もしも、これが本当ならば」


 こちらの予想以上に、事態はややこしいと判断せざるを得ない。

 ジョナサンの進言で、毒物に特異な耐性を持つ女性騎士を侍女とさせたが。まさか、これが吉と出るとは。

 書状を元通りに戻すと、

「誰か」

「ここに」

 私の声に件の騎士が応じた。


「当直の女性騎士を連れて来るのだ」

「ハッ」


 帳の開いた車窓から、彼の背中が遠ざかる。一日が終わろうと言うのに、さらなる厄介ごとが待ち受けるとは。ため息とともに、私は天を仰ぐほかない。

「如何ともしがたいか」

 無機質な言葉だけが、私の口からこぼれた。


 藍色に覆われた上空に、小さな星々が浮かんでいる。私は一人の女官を伴い、騎士団の本営に戻った。



 トレーシー・ハンプトンコート。エヴァンジェリンとアナベルの学友にして、次期王妃つき女官長になった才女だ。

 女性騎士に取り囲まれながらも、気の強い彼女は凛とした眼差しで前だけを見ている。彼女達の列が小さくなりかけた頃、私は無言で馬車から降り立った。


「殿下」


 詰問所の扉口に立ちはだかる騎士に向けて、

「無体な真似はしていないな」

 中での様子を伺った。

「はい」

 ありきたりな答えに、私はどう判断するべきか迷う。


「先ほどから申し上げておりますが……」


 冷静な物言いを常とする才女の抗議に、

「分かっている。君は無実だ」

 私はさらりと答えた。

 にわかに、彼女の瞳が怒りの炎を宿す。『王太子妃毒殺未遂』の犯人に仕立てられたのだから、致し方あるまい。


「アナベルは黒幕のあぶり出しのため、君の身柄拘束を私に依頼したのだよ」

「妃殿下が」

「何もしなければ、君を危険にさらすことになりかねない」


 ようやく納得したのか、彼女は不安そうな眼差しで空を見つめる。別人を彼女に仕立てて、独房に待機させるとしても、当人をどこにかくまうべきか。


「そうかあそこか」

「殿下?」

「嫌。何でもない」


 とにかく、事後を女性達に任せるべく、私は詰問所を後にする。夜目に不自由しないとは言え、狭く長い廊下は存外に暗かった。


 まだ、問題は解決していない。騎士団の護衛も乗り込む汽車を、いとも簡単に襲撃も出来る存在。


「教会?」


 思い当たる節となると、そこしか浮かばなかった。古来より、教会領支配下の都市とのつながりが強いフロワサールの気風を鑑みれば、王族を敵に回すことも厭わないだろう。


「よくも、ナメた真似をしてくれたものだ」


 私はアナベルの無事を祈る一方で、黒幕どもへの報復に動いた。

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