悪人どもを成敗いたすって、私に出来るかな。
ようやく、坂道をのぼり切った私達は一息つく。結構、きつそうな下りね。
熱にうなされるスーザンが腕を伸ばして、
「あのオレンジの屋根が」
必死に訴える。
「今夜の宿ですわね」
私の答えに安堵したのか、コクリとうなずいた。
下りの半ばに差しかかってから、ようやく私達の歩調が速まる。雄鶏の鳴き声も、徐々に大きさを増す頃、一人の女性がこちらへとやって来た。
「スーザン」
装いは農婦そのままだけど、身のこなしが只者ではない。
己を呼ぶ声に合わせて面を上げた途端、
「ソフィア副長」
スーザンが小声で相手の名前を呼んだ。
それっきり、気を失った彼女を私はどうにかして支える。
がんばれ! アタクシっ。
彼女の重さに耐えきれなくなる直前、
「妃殿下。ご無礼のほど、申し訳ありません」
私は相手から労いを受け取った。
「貴女は……」
「私は『聖ベネディクト騎士団』の支部組織『ヘルヴォルの盾』の副長にございます」
「つまり、スーザンも軍属なのですか」
「はい」
非力な私に代わり、ソフィアがスーザンを抱き上げる。その後を追って、私は農家の敷地内に入った。
土間を通り抜けて、私は奥にある小部屋に案内される。窓縁に寄せたベッドに、スーザンは横たわった。
彼女を看病するべく、近くにある椅子に座れば、
「妃殿下。お聞きしてもよろしいでしょうか」
ソフィアの声が響く。
「何でしょう」
「もしや、この子にポーションを飲ませたりしませんでしたか」
「ええ。女官長から手渡された物を勧めましたが」
手提げバックを開けて、私は空の瓶を取り出す。それを受け取るや否や、ソフィアは瓶の口先に鼻を近づけた。
「恐れ入りますが、これには、毒が入っております」
今、この人ったら毒って言ったわよね。
私の眼下で膝を折るソフィアに向けて、何も答えることが出来ない。
「うそ。トレーシーはそんなことしないわ」
私の怒声で目が覚めたのか、
「女官長を失脚させるための罠にございます」
スーザンがふり絞るような声を放つ。
「スーザン?」
「妃殿下を亡き者とし、女官長を排したい者の仕業かと」
そんな風に発したかと思えば、彼女は再び意識を失った。
長年、苦楽をともにしたトレーシーの信頼が失われずにすんで、私は少しばかり安堵の息をつく。
おもむろに立ち上がったソフィアが、
「スーザンの見識は、的を射ていると思われます」
私に意見を述べた。
彼女らの言葉の意味を理解すると同時に、私の中で再び動揺が広がる。スーザンの静かな寝息とともに、私は徐々に落ち着きを取り戻した。
私を害するよりも、トレーシーを貶めるなんて許せない。
必ず裁きの門に引きずり出してあげるわ。私は心の奥底から、悪人どもへの必罰を誓った。
ううっ。ガラにもないこと。心の中で叫んでしまったわ。




