のどかな田園のど真ん中にて。
つい、さっきまでのオラオラな展開と違い、見渡す限りメルヘンチックな光景が広がっている。私ったら、ポカンと見とれている場合ではなかった。
でも、さっきのあれって十中八九、『転移魔法』の類いよね。
「これから。貴女。大丈夫なの」
「あの」
人様の往来の邪魔になったら一大事。今にも地面にへばりつきそうなスーザンを支えて、私達は牧柵に寄りかかった。
「申し訳ございません」
何度も謝る彼女を横目に、
「いいのよ。貴女の機転がなかったなら、私はあいつらに何をされたか分かりませんからね」
私は手提げバックの中身を改める。
あからさまな貧血状態の彼女に目を配りつつ、
「トレーシーから渡されたポーションよ。これを飲みなさい」
取り出した小瓶を目の前に掲げた。
遠慮がちなスーザンに対して、私は有無を言わさず瓶を渡す。
「すみません」
その言葉と同時に、彼女は中身を飲み干した。
回復まで時間はかかりそうだけど、今のうちに休んだ方がいいわよね。真上から降りそそぐ陽射しに反して、私達を取り囲む風は少し冷たい。
「ここは、フロワサールの領府の手前にある農村です。あの楡の木を越えた辺りに、知人の家がございます」
「そうなの」
日暮れ前までにスーザンが回復してくれたら、女二人の足でも歩けそうな距離だわ。
ふらつきながらも、歩き出そうとする彼女を見て、
「大丈夫なの?」
私は不安を口にする。
「お気遣いありがとうございます」
ゆるやかな登り坂を前に、気が遠くなりそうになる。それでも前を見据えながら、私達は登り口に足をかけた。
何度か後ろを振り返ってみたけれど、怪しい連中が迫り来る気配はないみたい。小石混じりの地面に伸びる二つの影が、ノスタルジックな雰囲気をかもし出している。
そんなおセンチ気分をふり切って、私は隣にいるスーザンに目を向けた。
あれれ……この子ったら、歩きづらそうにしているじゃないの。
再度、足元の覚束ないスーザンを目の当たりにして、
「休まなくても大丈夫なの?」
体の具合をたずねる。
彼女の額に手を当てれば、予想以上の熱だった。
「申し訳ありません」
「そんなこと、言わなくてもいいのよ。ポーションの副作用だなんて」
発熱に加えて貧血状態にも関わらず、スーザンは一向に歩みを止めようとしない。
「ダメよ。それでは」
「でも。早くしないと……」
スーザンの言葉が、それ以上続かない。彼女を休ませたくて、私は周囲をぐるりと見渡す。
困ったわ。小さな木陰すら見当たらないなんて。
「妃殿下」
「いいのよ。貴女は命の恩人ですもの」
脇の下から自分の腕を差し込んで、彼女の体を支えてあげる。見上げた先に映る家に向けて、私達はゆっくりと登り始めた。




