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御用列車が駆けて行く。

 天気の移ろいが激しい季節にも関わらず、馬車から降りても空は晴れたまま。私達は静まり返る地下道の入り口に佇んだ。

 かさばらない手荷物だけ携えて、急こう配の階段を慎重に下り続ける。平坦な地下道を抜けた先にある昇り坂を前に、私はへこたれそうになった。


 重い足取りで階段を登った私の前に、護衛の一団が現れる。

「妃殿下。こちらにございます」

「ご苦労様ですわ」

 細マッチョなイケメンに怖気づくことなく、スーザンは彼らに労いをかける。その一方で、私は気恥ずかしさのあまり首を垂れてしまった。


 しかし、それもほんの一瞬だけ。気を取り直して、私は前を見て歩き出した。


 中央駅のゼロ番線ホームでは、漆黒の『御用列車』が停車中だわ。煙突から沸き立つ蒸気が、遥か上空へと舞い上がる。トリスタニア王国自慢の錬金動力を前に、その場にいる誰もが気圧された。


 車掌の案内で踏み込んだ車内は、案の定と言うべきだろうか。海外ミステリードラマ張りの寝台特急風だから、思わず『メルシーボークー』って口ずさみそうになる。


 あらあら、はしたないマネは出来ないわ。

 広めの個室車に二人きり、ベルベット張りの座席についてすぐ、汽笛とともに車窓が流れ始めた。



 外はレンガ造りの街並みがなりをひそめて、麦畑と点在する農家だけが過ぎ去る。

「昔は馬車で五日以上、だったかしら」

 車窓を眺める私の独り言に、

「錬金動力の汽車だと、一日半で済むそうです」

 スーザンが合の手を入れた。


 五日はあくまでも目安に過ぎず、天候不順に見舞われたりすれば、十日を下ることはなかった。車を曳く馬も生きものだから、餌づけと休養を与えたりしながらだと、二週間くらい見積もる必要はあるかしら。


 エヴァンジェリン殿下の随行員として、キンバリエ大公国を目指した時を思い出す。鉄道網のない街道を、ひたすら馬車で乗り継いだ日々。


 あの穏やかな日常に、もう二度と戻ることはない。


「中間地点に到着するまで、こちらをお読みくださいませ」


 正面に向き直る私に対して、スーザンが真新しい本を差し出す。

 タイトルから察して、詩集ではないみたいね。受け取った本をめくれば、前世で読んだヒストリカルロマンスと内容が似ているかな。


 のめり込むように読みふけりつつ、

「中間地点は、どなたの領地かしら」

 脳裏に浮かんだ疑問を口にした。


「殿下の采配により、ミッドヒルでの一泊となります」

「ミッドヒルは教会領よね」

「左様にございます」


 錬金動力も有限だから、メンテナンスを怠る訳にはいかない。てっきり友好貴族の領地での停泊だと思ったけど、教会支配下の領府を選ぶとは想像すらしなかった。


「尚、逗留先は聖ヨハンナ修道院と承っております」

「ウソ。女子修道院なの」

「何か不都合でも」

「そうではありませんけど……」


 私の思い込みでなければ、殿下は嫉妬深いお方なのだろうか。どう考えても、嫌がらせで戒律の厳しい修道院に放り込んだりしないわよね。


「妃殿下」

「何でもないですわ」


 ああ、『私は愛されている』って、勘違いしちゃうじゃない。スーザンったら、そんな目で私を見ないで。

 気を紛らわそうと、手にした本のページをめくる。私達はのんびりと、これからの旅路に思いをはせた。

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