表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/69

父来る……とは聞いていない。

 食後の紅茶だけど、少し苦味が強かったかな。前世でも寝込んだりした後は、お茶の味が濃く感じたりしたから、その名残なのかもしれない。

 現実世界の緑茶と比べれば、こちらの紅茶の方が私の好みに合うかな。


「美味しかったわ」


 お礼を言いつつ、飲み終えたカップをテーブルに置く。

 それを受け取ったメイドが、私に向けて頭を下げる。片づけも一段落すると、彼女は静かにワゴンを押して立ち去った。


 食後はまったりと、一人で過ごしたいけど、壁時計の針は無情にも、午後の講義に差しかろうとしていた。

「失礼致します」

 挨拶とともに、入れ替わりでメイドが現れる。


「こちらへどうぞ」


 鏡台の前で待機する彼女に促されて、私は静々と前に進む。簡単な身づくろいなら自分でも出来るけど、彼女の仕事を横取りしてはいけない。


「頼むわよ」


 最もらしい言葉をつむいで、私は椅子に腰かけた。


 メイドの手を借りて、地味な黒髪に花飾りを添えてもらう。

 身づくろいを終えた背後から、

「妃殿下」

 トレーシーが血相を変えてやって来た。


 普段、沈着冷静な彼女があわてるなんて。明日の天気が心配になるのだけど。


 彼女がようやく、息を整えた頃合いを見計らい、

「どうかしました? 貴女らしくないわよ」

 妃らしい口調で話しかける。


「法務……が」


 ホーム? あらいけないわ。私ったら聞き間違いするところだったわ。


「そのように息を切らさずとも……」


 したり顔で余裕ぶる私に向かい、

「法務卿自ら、お出でになりました」

 トレーシーは一息で言い放つ。


「法務卿……。冗談よね」


 つい、うっかり普段使いで聞き返したけど、トレーシーのジト目光線が真実を物語っている。

 午後は国法の講義のため、法務省から講師が派遣される予定だけど、そのトップ自らお出でになるとは聞いていないよ。


 足がもつれそうになりながらも、

「とにかく、挨拶には私から」

 椅子から立ち上がる。


 ほぼ、同時に扉を叩く音がするや否や、家令が開けた扉の先から当人が姿を現した。

 『元祖塩対応』の威圧感により、誰もが硬直する中で、

「法務卿自らお越しいただき、かたじけなく存知上げます」

 私は必死に挨拶を述べる。


 多分、自分史上で最も顔が、への字に引きつっているはず。

 作り笑いすら叶わない私に対して、

「顔色がよくないな。だが、思ったより元気そうで安心したぞ」

 父の口から予想外の言葉がついて出る。


「かたじけなく存知上げます」


 美しく。とは言い切れないけれども、私は父に対して礼をしめす。


「さまになったな」


 今のって、ほめてくれたの? 目を見開くばかりの私に構わず、父は定位置へと向う。


 明日の天気だけど、空前絶後の大嵐にならないわよね。毅然とした態度で臨みながらも、私は不安を隠しきれなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ