吸血鬼と傀儡
ギルドマスター直々の依頼、吸血鬼討伐。いつもよりだいぶ遅めのスピード───といっても時速八十キロ以上はでていた───だったため朝に都市を出発したはずなのに二時間は経過していて、昼と呼んでもいい時間帯になっている。
討伐対象のいる場所は、国境と国境を分ける山脈下の森の奥にある洞窟の中だ。その奥に吸血鬼の少女がいるらしい。洞窟の天井には吸血鬼の眷族であるジャイアントバッドがぶらさがっているらしい。
特に名前のない森。ここはハロルドと数回特訓に使った場所だ。ハロルドが悲鳴を上げていたのが随分前に感じられた。この森の魔物も基本的に弱く、抵ランク冒険者達の狩場となっている。
多元の森林のように陰鬱とした空気もなく、森全体が綺麗に手入れされている。見晴らしもいいため、木の上にさえ気を配れば奇襲の心配もなくなる。
着いて早々に音波魔法を発動させる。サクヤも気配感知のスキルレベルを上げるために発動中だ。
あまりに近い場所で同じスキル同士がぶつかると互いの働きを阻害してしまう。波長を合わせるとスキルの効果は上がるが、神経を磨り減らす、ある種の諸刃の剣だ。
洞窟に向かう途中に出た魔物を屠り、カイトはスキル収集に励む。犠牲となった魔物達はカイトのステータスに刻まれた槍術Lv3と怪力のスキルとして名を残した。大半はカイトの既に極めているスキルだったため有用なスキルも上記二つだった。
木の枝同士が邪魔しない場所を見つけ上を見ると、見上げてもてっぺんが見えない巨大な山がそびえ立っていた。そして目的の場所もすぐそばにあった。
音波魔法で中の様子を探ろうとしてもジャイアントバッドからも発せられている音波魔法で相殺されて中の様子を確認できない。
「行くか」
「そうですね」
灯りが届かない洞窟の奥は何も見えず、不気味だ。光源の魔法を使えば、闇を払うことが出来るが、敵に居場所を教えることになる。
サクヤの持つ気配感知Lv4ではあくまで地形を大雑把にしか把握できない。それにサクヤには夜目がないためカイトが先行する。
しばらく歩くとカイトの肌に細波のような魔力が当たる。サクヤも肌を刺激する魔力に気付いたのか臨戦態勢を取る。
それから数秒後にバサバサッと翼をはためかす音が洞窟に反響してカイトとサクヤの耳に届く。
夜目のあるカイトにははっきりと蝙蝠の群れが見えた。体長五十センチ程の蝙蝠がやってくるその姿は一匹の竜のようだ。
カイトが闇を体現したような漆黒の刀と闇を切り裂くような白く輝く刀を構える。ジャイアントバットがカイトの間合いに入ると二つの刀が意志を持ったように動き、ジャイアントバットの命とスキルを奪う。
洞窟内で使える魔法は限られてくる。火魔法では二酸化炭素が排出され中毒になる。水魔法と土魔法では地盤を削ってしまい不安定になり洞窟崩落の危険がある。使えるのは風魔法と光魔法、闇魔法だ。
サクヤは得意の風魔法でカイトの後ろからジャイアントバットを切り刻む。広範囲に撒かれた風の刃が次々と命を散らしていく。
アハトもジャイアントバッドに風魔法を使ってサクヤの補助をする。
地面が赤の絵の具をぶちまけたような赤色に染まっているが、ジャイアントバッドの数が一向に減ってないように感じる。
魔法の発動に気を取られていても周囲への警戒はしていたはずだが、サクヤの首にチクリとした痛みが走った。
「痛っ」
後ろからサクヤの声にカイト刀は動かしたままが振り向く。アハトも首をサクヤに向ける。声は突然の攻撃で思わず出てしまったようだが、カイトとサクヤ、アハトの攻撃の嵐をかいくぐり、さらに気配すら気付かせずにそれを行う。
サクヤが首を噛み付いていた蝙蝠を払いのける。カイトは夜目で見て、サクヤは払いのけて違和感を覚えた。一様に視線を別の方向へ向けているが、ジャイアントバッドが攻撃を仕掛けてこないでその場でホバリングする。
違和感の招待はその体長だ。あまりにも小さすぎる。普通の蝙蝠と変わらない体長だ。
払いのけられてジャイアントバッドのすぐ近くの場所に落ちた蝙蝠から魔力の煙が出た。
「うむ。やはり龍人族の血は美味じゃのう」
その姿を視認できたのは夜目のあるカイトだけだが、アハトが本能的に危険だと判断して神経を尖らせている。
アハトが変身するときのような煙が晴れた先にいたのは新雪を思わせる真っ白な髪に吸血鬼にふさわしい鮮血のような真紅の瞳を持った美少女だった。
身長は百六十センチよりも少し低い程度だが、言葉遣いや纏う雰囲気には貫禄があり、カイトやもしかしたらサクヤよりも年上かもしれない。
口元についていた血を舌で舐める仕草は妙に艶めかしく、大人の色香が漂う。血が薄らと伸び、口紅のように唇を染める。
「なんの冗談だよ。これがSランク級?冗談だろ」
ここにいないレントに悪態を吐く。目の前の吸血鬼少女からは災厄の孤島で遭遇した何頭かの魔物と同じか、それ以上の気配を感じた。
まともにやり合えばカイトの圧勝だが、サクヤとアハトがいる状態では少なくとも誰かの四肢の欠損は覚悟しなければならない。それぐらいの激戦になるのは目に見えている。
カイトが思考している間に、吸血鬼少女がカイトの頭から爪先までを舐めるように見てから嘆息した。
「ほぅ。主か。待ちわびたぞ」
「そうか。じゃあな」
先手必勝とばかりにカイトが一瞬で近づいて大上段から刀を振り下ろした。自身の死が目の前に迫っているのに吸血鬼少女の顔にはなんら恐れも死に対する怯えはない。
あと一秒未満の時間で吸血鬼少女の脳天を刀が切り裂くというところで横を凄まじいスピードで追い抜く影が。完全な不意打ちのはずなのに、受け流され、さらには反撃までされた。
カイトの攻撃を凌いだ相手───胡乱な目をしたサクヤに対する驚きで反応が遅れ、下がりきる前に一筋の浅い切創が肌に刻まれた。
今のカイトはステータスの制限を取っ払った状態で攻撃を受け流そうとすれば、衝撃を流しきれずに身体の骨が何本か折れるだろうがサクヤにはそんな様子はない。安心した反面、驚きも大きい。そんなカイトの心を読んだようにソフィアが答えを言う。
「言い忘れておったが、妾は傀儡とした者の脳のリミッターを外せるのじゃ。わかりやすく言うと攻撃力と敏捷力が三倍になるのじゃ。状態異常も大半は無効化できるが、そのぶん身体への負担は尋常じゃないがのう。しかし、ふむ。さすが龍人族じゃのう。頑丈なだけあって身体への負担はそうでもなさそうじゃのう。それにしてももう少し会話を楽しもうとは思わぬのか?」
サクヤが吸血鬼少女の横で騎士のように刀を構えながらハイライトを失った無機質な目でカイトを見る。理性はなく、ただのガラス玉となった瞳を見つめ返す。
「毛ほども思わないね。それよりサクヤを返してもらおうか」
今のサクヤには感情が感じられなく、生きていないようにさえ見える。だらりと腕を垂らし、目からは生気が失われていて亡霊のようだ。
なら、さっきはなぜ動いたのか。それは主の命令だったから。つまりは操り人形。指示がなければ動けない傀儡に成り下がった。
「つれないのう。妾とこの人形は戻らせて貰おう。この先の部屋で待っておるぞ」
操り人形にされ、あまつさえ人形扱いされたことでカイトの目にかつてない憤怒の炎が強く灯る。
カイトが刀を戻しながら走り手を伸ばそうとするが、サクヤの振るった刀による牽制で届かない。
吸血鬼少女はサクヤの手を引き一歩後ろに下がり、とぷんと血飛沫を上げながら血だまりの中に沈み込んだ。
ジャイアントバッドの壁が迫り来る。牙をむき、噛み付こうとしてくる蝙蝠共に殺意を滾らせた二匹の獣がぎらりと眼を光らせ、立ち向かう。数が多くても雑魚には変わりない。これから始まるのは戦闘とすら呼べない一方的な蹂躙だ。
光源が見当たらないが、昼のように明るいドーム型の大広間。湿った土が地面にしかれ、壁には凹凸一つ無い綺麗な形をしている。
そこには真っ赤な玉座に座りながら血を吸う吸血鬼少女と血を吸われながら顔色一つ変えない、一方的に来る質問に機械のように淡々と答えるサクヤ。
サクヤの首に牙を突き立て、口を離さずに血を吸う。吸血鬼の行う血を介する行為は三つあり、それぞれ意味がある。
血を与える行為には与えた相手を意のままに操る効果がある。ソフィアの言ったような脳のリミッターを外したり、身体への干渉もある程度可能となる。
血を吸う行為には栄養の補給と、あともう一つ記憶の表層を読み取ることが出来る。感情や感覚の断片も僅かに共有することもできる。断片的なことは分かっても、あまり関係のないことが多い。
もう一つ血を介する行為はあるが、吸血鬼少女には縁が無く、本人でさえ使い方もろくに覚えていない。
これら全てが血液魔法に分類されている。血液魔法は他人の体内以外なら血の干渉できる魔法だ。
「して、彼奴の名は何という?」
「カイトです」
「カイトは何者じゃ」
「異世界から来た勇者です」
「ふむ。あの気配と殺気なら納得じゃ」
さらにそこから質問は続く。吸血鬼少女の知識欲を満たすためにとことん掘り下げていく。
カイトから聞かされたことのほとんどを話し終えた頃に大広間に客人が訪れた。既にサクヤ達と別れてから数時間は経つというのにその殺意は衰えることを知らず。濃密な殺気を隠しもせずに、目に宿る殺意は隙あらば殺そうと画策しているというのが丸わかりだ。
「さて、自己紹介でもさせてもらおうかのう。異世界の勇者よ。妾の名はソフィア。吸血鬼の真祖じゃ」
吸血鬼少女───ソフィアが玉座から降りて、名を名乗る。
「どうせ知ってるんだろ?なら俺の自己紹介は不要だな」
「つまらぬ男じゃのう、カイトは」
おどけて言った時には眼前に無表情のカイトが刀を振り下ろしていて、またしてもサクヤが邪魔をする。
カイトの全力はリミッターを解除したサクヤをして受け止められない。間違いなくサクヤが潰れる。上手く加減しなければいけない。
「アハト、今回は俺一人でやる」
「グルゥ」
今回ばかりはどうしてもアハトを戦いに出すわけにはいかない。アハトがソフィアの相手を務めれば、殺されるか、傀儡にされるかの二択。なれば、サクヤと戦わせればいいとも思ったが、十中八九アハトの負けだろうと確信していた。アハトはサクヤに懐いているから、無意識的に攻撃を抑えようとして、躊躇のないサクヤに殺されるのは必然的に明らかだ。
不満げに鳴くアハトだが、渋々カイトの懐に潜り込んだ。
互いに睨み合い、摺り足で間合いを詰める。カイトは真正面に刀を構え、サクヤは刀を鞘へ収め、右手を柄に置いて居合いの構えを取っている。
───どうすれば、助けられる?
脳のリソースを戦闘ではなく、サクヤを助ける方へと割く。
互いに強く踏み込めば刀が届く距離に入ったところで先に動いたのはサクヤだった。
地を這うように進み、鞘走りさせて加速された居合い切りは斜め上へと斬り上げられる。
斬撃速度は比べようもないほど速いが、カイトからしたらまだまだ遅い。
刀を引き戻せずにがら空きになっているサクヤの左側へと踏み込み刀の峰で首を叩こうとして───土?
ちらりと見ればサクヤの手は土で汚れ、地面にはサクヤが抉った痕跡がしっかり残っていた。地を這う姿勢はこのためだった。
目の前いっぱいに広がる土に思考を引っ張られ、横から引き戻された刀への対応に遅れる。
首を狩らんとする刀をすんでのところで刀で受け、その勢いを殺さずに横に跳ぶ。二、三回ステップを踏み、適度に距離を取り、サクヤも自分の居場所はここだと主張するようにソフィアの傍に立つ。
「さすが龍人族じゃのう。さて妾もそろそろ参戦するかのう」
今まで傍観を決め込んでいたソフィアが玉座から勢いをつけて跳び上がり、地面に足をつける。
パチンと指を鳴らすと玉座の形を保っていた血がどろりと崩れ、地面に吸われることなく赤いシミが広がった。
ソフィアが真後ろに手を突き出すと、広がる血の中から真っ赤な剣が創造された。丁度手の位置にあった剣の柄を握りしめて具合を確かめるために振るう。
カイトが刀を真っ直ぐ構え、殺意を滾らせた目でソフィアを捉え、ソフィアは腕を下げて血の剣の切っ先を地面に向けている。サクヤはまたしても居合いの構えだ。
一触即発の空気の中、やはり先に動くのはカイトだ。スキルを使ってすらいないのに誰の目にも止まらぬ速さで首を狩ろうと肉薄する。
ソフィアはそれを目で追いながらも何もせずに血の剣を薙いだ。このままいけば、カイトの刀が先に届くのは明白。だったはずだが、カイトの一閃はサクヤの見事な居合い切りで跳ね上げられ、空を切る。
ソフィアがあらかじめこうなると分かっていたから既に剣を薙いでいたわけで。喉仏すれすれを通過した刀に気を取られ、斜め下から迫る死角からの一撃への対処が遅れた。
地面を蹴り後退したが、浅くは無い傷を脛に負った。
着地でガクリと体勢を後ろへ崩した隙に真一文字に振られていた剣を、間に刀を割り込ませることで完璧に対処した──はずだった。
刀と剣が交差するその瞬間に刃に当たった部分だけが液状化、カイトの刀を通過し、刀をやり過ごした直後に再び固体へと戻り、カイトの首を切り裂かんと迫る。
視界の隅には理性無くカイトを殺そうとするサクヤが映っている。
あと一秒未満でカイトの首と胴は別離する。移動では座標指定で間に合うかどうかは五分と五分。
カイトが覚悟を決め、歯を食いしばる。そして、自らを重力魔法で後ろに吹き飛ばした。
咄嗟のことで制御が上手くいかず、星にかかっていた重力がベクトルを変えてカイトに襲ってくる感覚に襲われる。
轟音とともに壁に叩き付けられた。ガハッと口から酸素と赤い液体が吐き出されたが、死ななきゃ安いと地に足つけ踏ん張る。
「ほぉ。今のを耐えるか」
感心したように、だが少し残念そうに言う。
「そりゃサクヤを残して死ねないからな」
一度剣を合わせただけでサクヤとソフィアの連携についてはカイトは理解していた。
サクヤがソフィアに合わせているのではなく、むしろその逆。ソフィアがサクヤに合わせている。サクヤの攻撃を予測して、ソフィアが最適な動きをする。伊達に長生きしているわけではない。
口の端についた血を指で払う。
脛に負った傷は超速再生で治ったが、内臓へのダメージはそこそこ深刻なようで魔力が常に治癒力へ変換されていく。
そんなことお構いなしに猛攻は続く。
剣戟の応酬が続き、カイトの身体には少なくない傷跡が刻まれていた。そんな痛々しい姿を見てもサクヤの双眸に感情は伺えない。
そうして今まで動かなかった戦況が動いた。
カイトの身体が僅かに左にいたソフィアの方に傾いだ。
これを好機と捉え、ソフィアが血の剣を振るった。首を取った、という確信して、その未来が否定された。カイトの口が孤を描いていた。
焦ることなく、迫る剣をカイトの手が捉えた次の瞬間、血の剣は跡形もなくドロリとただの血となり、地面に垂れ落ちた。
血液魔法は吸血鬼とその眷族たる魔物が使える固有魔法。ならば、ジャイアントバッドが使えない道理はない。道中遭遇してスキルを根こそぎ奪っただけでLv5に到達したことから、数が予想できる。
好機と思っていたら、それが罠だった。カイトの演技もなかなかなもので、ソフィアは見事に虚を突かれた。流石はサクヤとハロルドの師匠。
「なっ!?」
ソフィアも驚いたようで戦闘において致命的な隙を見せた。カイトが震脚を使い、強化された拳をソフィアの腹へ突き刺す。
だが、前もって張られていた障壁と自ら後ろへ跳んだがために衝撃を殺され、あまりダメージとならなかった。
それでもソフィアがサクヤから離れたなら御の字だった。ソフィアの眼前に移動する。
ソフィアへ刀を振り下ろした。
───ガキンッ!!
大広間に硬質な金属同士がぶつかった音が反響した。
「マジかよ」
ポツリとカイトが零した。ソフィアも驚きで固まっている。
刀を止めたのは、サクヤ。身体からは銀色の魔力光が漏れ出ている。それは紛れもなく“限界突破”。
サクヤは“限界突破”を習得していなかった。皮肉なことにカイトが敵に回ったことで目覚めたスキルということだ。
驚愕で目を見開き、このままではサクヤの身体が壊れると力を抜く。そんなカイトの肩口にサクヤが強烈なストレートを叩き込む。ゴキリという鈍い音と気味の悪い感触が拳から伝わる。
左腕から力が抜け、ダラリと腕が下がる。肩が脱臼したのだ。これは“超速再生”でも回復魔法では治らない。
「今のはちと焦ったのう」
額に浮かんでいた玉のような汗を払い、指を鳴らす。その行為がトリガーとなり、血の池が蠢く。ソフィアの両手に集まり、剣を象った。
二人の間合いの外に出てからカイトが苦笑いしてから口を開いた。
「こっちは腕一本使えないっていうのに手数で攻めるか?」
「こうでもしないと主には勝てないじゃろうて」
限界突破でさらにステータスが上がり、剣技が冴え渡るサクヤと二刀流となり、手数が増えたソフィア。均衡が崩れ、カイトの肌に傷が増えていく。
さらに面倒なことにソフィアに斬られた箇所からは血が止まらない。“超速再生”の効果も薄い。
攻撃を捌きながら、カイトの目はどこか虚ろで、ブツブツと呪詛のように意味が分からないほど早口で唱えている。
気でも狂ったのかと訝しみながら、攻撃の手を弛めない。
カイトの刀がサクヤによって大きくはじかれ、ソフィアが振り下ろした剣でカイトの左腕を断つ。
腕を斬られた。なのにカイトの顔は晴れやかだ。
カイトは手に持っていた唯一の武器である刀を投げ出して、指揮棒でも振るような滑らかな手つきで真横に指を向けた。
突如、重力の向きがかわり、ソフィアが真横に吹き飛ばされる。
身体が真横へ流されながらもソフィアはしかと見た。サクヤの刀がカイトの腹部を貫いているのを。そして、重力魔法を構築していた魔力が霧散してソフィアがふわりと地面に降り立った。
「心縛」
その聞いたことのない魔法名がやけに明瞭にソフィアの耳に届いた。
カイトは腹に刀が刺さっているとは思えない程穏やかな笑みでサクヤに手を伸ばし、サクヤの額を指で突いて魔法名を唱えた。その直後に、サクヤを覆っていた銀の光がパシュンと音を立て消え去った。
身体の負担が大きかったせいか、グラリと前に倒れた。それを抱きとめる。その際に刀が少しだけ押し込まれてしまい、いらぬ怪我を負ったのは蛇足である。
ソフィアを風魔法で牽制しながら、落ちていた腕を拾い上げる。切断面が綺麗なおかげで傷口に腕を押し当てると、“超速再生”が効果を現し、腕を繋げる。手をグーパーしながら異常がないかを確かめる。
腕に異常も無く、サクヤも鼓動はしっかりとしている。
サクヤを助けた魔法はレックスが研究していた闇魔法の一つである心壊をアレンジしたものだ。脳に過負荷を与え、心を壊すのが心壊。
ならば、その逆も可能ではないかとカイトが脳の大半を使って構成していた魔法───心縛は脳の負担を取り除き、理性を取り戻させる魔法。
系統は闇。それも超級。失敗すれば、記憶を失うかもしれない。最悪廃人になることもありえる。カイトが安全に安全を重ねたとはいえ、成功確率が九割。不安を拭えなかったが、その必要はなかった。
「カイ………ト………あり……が……とう………」
随分久しぶりに聞いたサクヤの声。サクヤが言い残して、本当に意識を闇に落とした。
サクヤを壁によりかからせ、懐のアハトをサクヤの足元に移動させる。
「アハト、サクヤを頼む」
「クルゥ」
カイトの背中に一つ鳴き、結界を張る。
血が抜けた分軽いはずなのに身体は重い。重たい身体を引きずりながら、さっき以上の殺意を漲らせ、ギラリと獰猛に眼を輝かせる。
風魔法が止む。龍が暴れた跡のようにボロボロとなった大広間に静寂が下りる。
ソフィアが妖艶な笑みを浮かべ、自慢の牙を覗かせる。
カイトは全身血まみれで、満身創痍。魔力が枯渇気味で、“超速再生”に回している余裕がないから身体からは血が滴り落ち、地面に不揃いな赤いシミを残している。
カイトの圧倒的不利な状態から第二ラウンドの幕が開ける。
戦闘シーンが適当になってしまい申し訳なく思います。




