ダンジョン攻略3
すいません。文がぐちゃぐちゃでした。誠に申し訳ありません。
カイトもサクヤも特に二日酔いなどなく、ダンジョン攻略に向かった。
さっきギルドへ行くと、二日酔い冒険者が倒れながらうめき声を上げ、バイオでハザードのような悲惨な光景と化していた。
ダンジョン攻略はいいのだろうか。
ダンジョン三十九階層。
流石はダンジョンというべきか。粉々だった氷は元通り復元されていた。魔物や枯れ木でさえも、だ。
冷えた空気を全身に感じながら、ふかふかの雪を踏む。
魔物の強さが跳ね上がる、なんてことはなく三十九階層も余裕でクリアした。
四十階層。つまりはボス戦だ。
四十階層をクリアしたパーティは一つしかなく、情報はあまり詳しくない。信憑性も微妙だ。
気を引き締めなければ、手痛い目にあうかもしれない。
いざとなれば、カイトがステータスの制限を解放すれば圧勝だが、それでは技術や連携、サクヤの戦闘力の向上を妨げる。
ステータスが全てではない。ステータス任せの戦い方を覚えてしまえばそれしかできなくなり、いざというとき戦えない。トウヤとの死闘でカイトが学んだことだ。
ボス部屋へと続く螺旋階段を下りる。下を覗けば、吞まれてしまいそうな黒ばっかりの世界だ。階段を下りながら、サクヤにボスの情報を伝える。
四十階層ボスは首なし騎士。武器はモーニングスター。鎖の先に鉄球が取り付けられているフレイル型で、大きなスパイクが何本も生えている。
ギルドの話を聞いた限り、厄介な点が四つある。
一つ目は、鎧と楯を装備しているため高い防御力を持つこと。
二つ目は、モーニングスターは鎖が魔力で伸び縮みし、間合いが常に変化する。
三つ目は、痛覚がないこと。
四つ目は、魔力で敵の位置を把握していること。
勝利条件は、首辺りに刻印された魔法陣に傷をつけるだけだ。これだけならば難易度はそう高くないが、生半可な攻撃は効かずに、近づくことすら困難を極める。
話し終えた時には黒い鉄の扉が道を阻むように立っていた。
「ギルドで聞いたのは以上だな。頑張っていくぞ」
「はい!」
サクヤの元気の良い返事を聞いてから扉を押す。
それを見たときの存在感が今までの比ではない。照らされているはずのボス部屋の真ん中に、そこだけ塗り潰したような影が佇んでいた。
見た目から七メートルぐらいだろうか。情報通りの装備だ。
カイトが観察するような視線を向けていると、デュラハンの腕が振られ、遅れてジャラジャラという鎖の音と、壁をガッガッと抉る音がする。
かわせる場所が上しかない。
カイトもサクヤもその場を跳んで、鉄球を見送る。
デュラハンから視線を外した一瞬、目の前まで迫っていた。モーニングスターがない。予測すらできない一手は完全な不意打ちと言って良いだろう。
カイトが壁と拳に挟まれる。無詠唱による結界を張り、ダメージはないが、結界ごと壁に押し込まれているため身動きが取れない。
サクヤではなく、カイトだったのが幸いだった。拳の威力が制限したカイトの三分のーはあるだろう。
爆発の一つでも起こして脱出しようと考えていたその時。
「土よ、穿て、アースランス」
即効性を重視して詠唱省略されたサクヤの魔法。地面から生えた杭のような槍がデュラハンの腕に突き刺さる。首のない場所からも分かるように鎧の中にはあるべき肉体がなかった。
魔法の衝撃で腕の力が緩む。その隙をついて、結界を前に押し出す。
デュラハンは体勢を立て直すために後ろに下がった。落ちていたモーニングスターも拾い直し、魔力で象った鎖で間合いを伸長する。今の間合いはボス部屋全体といったところか。
「ありがとな」
デュラハンから目を離さないようにしながら、横にいるサクヤに礼を言う。
「いえ。それよりも今のは縮地でしょうか」
「ああ、あいつの姿が消えたと思ったら全力で逃げろ。死ななければ、俺が治す」
「了解です」
言い終えると同時、鉄球が鎖を引き伸ばして二人に襲いかかる。
跳んではさっきの二の舞になると思い、前へ進み、鎖の下を通るようにかいくぐる。最短距離でデュラハンへ向かう。
デュラハンも予想通りなのか、鎖から魔力を吸い出し、鎖を急速に縮める。
後ろから迫る鉄球は二人を引き裂くようにデュラハンの手元に戻った。
今のうちに接近しようと、カイトが強く地面を蹴ろうとする。が、そこに鉄球を撃ち出されて方向を変えざるを得なかった。
追撃の手を弛めることなく、壁際に追いやるように攻撃をする。踏み込もうとすれば、邪魔するように鉄球のスパイクが爆発するように放たれる。無駄にすごい機能だ。
サクヤとカイトはデュラハンを挟んで結構な距離を離されていた。サクヤはデュラハンへ何度も攻撃しているが、楯で弾かれ、いなされ、受け流され、通じていない。
顔がないデュラハンだが、今、顔があるならば優越感を隠しきれない醜悪な表情をしているに違いない。
的確なタイミングや緩急のついた鉄球攻撃に慣れてきた時、急激に魔力の流れが変わった。デュラハンが何の動作も起こさずに魔法を発動させた。上級闇魔法、ブラックランス。ありえない数がそこにあり、槍の先がカイトではなく、全てサクヤに向かっている。
射出された大量のブラックランスだが、その半分は幻覚魔法による幻覚だ。だがそれらは、サクヤが本物だと認識すれば、幻覚は本当の物へと置き換わる。
カイトがサクヤの前に移動し、次々に殺到する魔法を二本の刀をもって切りはらう。逆手に持ち替え、殺到する魔法を着弾が早い順番に切り裂く。
デュラハンにとってはカイトの介入が予想外だったが、より強い敵が釣れたと喜ぶべきか。
槍の一本一本に神経を尖らせながら、デュラハンからも目を逸らせない。時々上げるサクヤの悲鳴など聞こえないのも同然だった。
全て無効化して安堵したのも束の間、鉄球が迫っていた。
その場を横に跳んだ後に気づいた。サクヤが虚ろな瞳で虚空を見つめ、立ち尽くしている。動く気配がない。
考えるのは後回しだ。瞬きの間にも鉄球が刻一刻と迫っている。やわな魔法など、意味をなさない。出すだけ無駄だ。
大質量かつ相当な速度の鉄球でも一瞬だけなら固定できる。今は、その一瞬の時間でもプラス要素が欲しい。
カイトが鉄球の前に躍り出る。サクヤに手を伸ばすよりも鉄球がカイト達に当たる方が速い。
カイトがトウヤの刀を両手で構える。
鉄球の凹凸のない表面をなぞり書くように刃を当てて逸らす。黒板に爪を立てたような不愉快極まりない音がボス部屋に反響する。腕が痺れて取り落としそうになる刀を握りしめ、地面にめり込むほど踏ん張る。
ほんの数秒がやけに長く感じられた。軌道が曲がった鉄球がカイトの横の地面を抉り飛ばしていた。
鉄球が再び動き出す前にサクヤの手を掴み、その場から脱する。あと一秒遅ければ、槍に貫かれて、地面に空いた穴がカイトにも、幾つかが移っていたかもしれない。
「浄天」
超級の光魔法、浄天。以前唱えたリカバーの上、状態異常回復系最高位の魔法が二文字で唱えられた。
サクヤの頭上だけ日光がさしたように明るく照らされる。それはさながら太陽の女神のようだ。状況が状況でなければ、見惚れていたところだが。
流れるような魔法の雨に、もう一本刀を取り出して魔力で刀身を覆う。若干の焦燥感を露わにしながら、魔法を斬っていると、ついに復活した。
「土よ、堅固なる壁をなせ、グランドウォール」
凛とした声が魔法を創り出す。硬く、厚い壁は攻撃の全てを止める。縮地も見えない場所は移動できない。
「大丈夫か?」
「はい。まだ気持ち悪いですが」
サクヤの今の顔色は真っ青でお世辞にも良いとは言えない。気休め程度に回復魔法をかけながら、サクヤの言いたくないであろう領域に踏み込む。
「何を見た?」
「………カイトが串刺しになる……幻覚魔法です」
話を聞き終えると、サクヤの手をグイッと引っ張り手繰り寄せ、奥に移動する。カイトの咄嗟の行動に驚きはしたが、次に起こった爆音がカイトの行動を説明していた。
壁の一部が決壊して、サクヤがいた場所に槍が突き刺さっていた。
狙って一カ所に魔法を当てるのは簡単だが、それはあくまで一つの場合だ。複数の魔法を制御するのはなかなか厳しい。これを当たり前にできるのが、魔物の驚異的なところだ。
一カ所が崩れれば、あとは容易に瓦解する。槍が壁を突き破ってドドドッと地面に着弾する。それを見越していたカイトが後方へと移動する。
砂煙が晴れた先には集中砲火をうけたことにより、深いクレーターが出来上がっていた。
煙が晴れて、ボス部屋全体を見渡すことができた。そこには、デュラハンがいなかった。隠れられる場所はどこにもない。
ジャラジャラ。死角から鎖の音と、そして一瞬前まで何もなかった地面が何の前触れもなく音を立てながら削られる。
カイトもサクヤも考えるよりも先にその場を跳ぶ。見れば、孤を描いたように削られた地面が残っている。
「透明化か。幻覚魔法か闇魔法。あるいはその両方か」
考えている間にも攻撃は続く。音による場所の特定も厳しい。
ならばと、二人が上に向けて魔法を行使する。
「「ウォーターボール」」
カイトとサクヤの頭上には、直径二十センチにも満たない水の球が構成される。
それらは弾け飛ぶように真上に飛び、天井に当たり、細かい雫となって地面を打つ。
雨が降る中、一カ所だけ空白が生じていた。そこだけ空間から遮断されたような、明らかに不自然な場所。そこからデュラハンが姿を出す。
「はぁ!」
サクヤが飛び出し、斬りつける。すかっと擬音が鳴った気がした。違和感に気がついたサクヤが後方に大きく跳び去る。
サクヤが切り裂いたデュラハンが空気に溶け込むように姿を消して、一斉にカイト達を囲むように現れる。
都合、六体のデュラハン。一体一体のステータスは落ちているが、それでも厄介だ。
「アクアランス」
人数分の水の槍がそれぞれに襲いかかる。それをかわさずに楯を構えて真正面から受け止める。
衝撃で中身が何も詰まってない鎧がふわりと浮かんだ。パラパラと飛び散った水が、この階層全体を覆う巨大な水溜まりに波紋を広げる。
その後も幾つか水の魔弾を撃つ。その全てを楯で受け止め、陰から攻撃を放つ。
今のステータスなら魔法は防がざるを得ない。その特性をカイトは少し考えてから三つ、魔法を構築する。
サクヤは時間差で襲い来る鉄球の対応に追われ、神経を磨り減らされている。荒くなった呼吸からも疲労が見て取れる。幻覚魔法の影響も相まって、相当辛そうだ。
一方、カイトは飛んでくる鉄球など意にも介さずに、使う魔法のイメージとそれを構成するための魔力を練り上げる。
その余裕そうな様子に何となくムッとするサクヤだが、次に来た鉄球により意識を引き戻された。
十分、どころか十二分に溜まった魔力が刀に纏わされ、振り抜かれる。
「朧斬雨」
刀の一振りで大小さまざまな斬撃が三百六十度、雨のように降り注ぐ。
一斉に向かっていく幻影の斬撃。
威力はないただの虚仮威しだが、カイトの魔力が限界までこめられたものだ。それでも威力は初級魔法の域を出ないが。
数え切れない程の魔法量に当然、デュラハンは反応せざるを得ない。
魔力感知が裏目に出た。………そもそも人族は使えないので想定されていないのは当然だが。
デュラハンが腰を深くまで落とし、一斉に楯を前に押し出し、身を隠すように楯の影に入る。
「潰崩」
膝立ちだったために足が地面に食い込む。立とうとして足を抜こうとしていたところに、さらに加重され、デュラハンのもう片方の足も地面にめり込み始め、地面が陥没する。動こうと必死に足を持ち上げようとするが、押さえ込まれ動けない。
徐々に増える重力に立つことすらできずに膝をつく。一体、また一体と膝を折ってひざまずく。そこにさらなる追い討ちがかける。
「氷炎」
六体のデュラハンの足元から炎のような氷が上へ上へと浸食していく。階層全体を覆う巨大な水たまりが氷炎の効果を手助けして、急速に鎧の表面を覆っていく。
モーニングスターも楯も持ち主の手から離れ、氷像の一つとなっている。
カイト達の場所まで氷が伸びきった時、声の出ていない悲鳴が聞こえたような気がした。
腕を持ち上げ、遠くにいるカイトとサクヤに縋るように腕を伸ばす。最早、魔法を行使するだけの魔力もないようで助けを求めるだけのようだ。
サクヤはカイトの横から動き出し、刀に手をかけた。鞘から解き放たれた刀が自身の存在理由を示すように、伸ばされた腕を切り刻む。
サクヤはそのまま歩を進める。その風貌、というか雰囲気がカイトにそっくりだ。
デュラハンの前まで来ると、小さく呼気をもらし、抜刀して真上に振り抜く。
不快な金属音も一瞬で終わる。次に刻印された魔法陣を中心に一本の線が入り、続いて無数の罅が体全体に広がり、音を立てて砕け散った。
氷の彫像と化していた五体のデュラハンも、それに合わせて粉々となって魔力に還っていった。
サクヤは刀を真横に薙いでから刀を鞘に収める。
「四十層クリアだな」
「レベル上がりすぎてませんでした?」
「確かにな。ここをクリアしたパーティってどんだけ強かったんだろうな」
バシャバシャと水を蹴り上げながら、ドロップアイテムを拾い上げる。直径六十センチ以上の魔石と漆黒と表現するにふさわしい鎧、同じく黒のマントだった。
「へぇ。このマント、撥水性が備わってんのか」
水から取り出したマントには水滴がついていなかった。
「まあ、多分他にも機能付いてるだろうし、セシルに鑑定でもして貰おうか」
セシルにあまり会いたくないのか、注意して見なければ分からないほど僅かに眉が上がった。
「ギルドで鑑定して貰えばいいんじゃないんですか?」
「金取られるし、四十層まで攻略したのをバレるのはなぁ」
「それもそうですね。いつ行くんですか?」
「明日にでも」
「分かりました」
「さて、今日はもう戻るか。結構疲れた」
「そうですね。カイトは余裕そうでしたが。」
棘のある言い回しに、カイトは逃げるように転移する。




