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ダンジョン攻略

ガルドフィルにあるダンジョンの最高到達階層は現在四十二層。これは数年前のあるパーティの記録で、今現在でも破られていない。


かつて四十二層まで行ったパーティのリーダー曰く、四十層以降は地獄らしい。ボスモンスター級の魔物が闊歩していて、罠や武器を使用する狡猾さもある。


それがカイトがギルド職員から聞いた情報だ。ダンジョン攻略を生業とする冒険者にとって最終階層到達は永遠の目標である。だが、並みの冒険者では三十階層あたりで止まる。長らく足踏み状態が続いている。


それが打ち破られるかどうかは、まさに神のみぞ知る。


カイトとサクヤは少し早めの昼食を済ませると、ダンジョンへ向かう。


ガルドフィルの広場にある階段を下った先、そこにはダンジョンが口を開いて待っている。十階層ごとに造りが変わっていく。十階層までは洞窟のような造りになっている。


ダンジョンには必需品が一つだけある。それは転移結晶だ。かなり値が張る物だが、持ってない冒険者はいない。これは自身が行った階層を自由に転移できるようになるというものだ。だが、ボスモンスターのいる部屋では使えない。


「行くか」


「はい」


カイトとサクヤはダンジョンに足を踏み入れる。カイトは常時、スキル:手加減を発動中での攻略という縛りプレイだ。


浅い階層で狩りをしているのはせいぜいが駆け出しの冒険者ぐらいで獲物の取り合いはない。出てくる魔物は初見のもの以外はサクヤが一刀のもと斬り捨てる。


ダンジョンの魔物は倒した瞬間に魔石と呼ばれる魔力が込められた石を残してダンジョンの魔力へ還元される。これが魔道具や魔法陣の補助に役立ち、冒険者の主な収入源だ。四十層以降の魔石を売れば、それこそ貴族にでもなれるだろう。


このダンジョンの大きさはカイトの気配感知で把握できる範囲よりも広い。カイトは地図を広げながら、二階層へと続く階段を探す。


今の測量技術だと仕方ないが、縮小が上手く示されていない地図の解読に難航しながらも二階層へと続く階段を見つけることができた。


カイトは学があるので早い方であるが、無学な初心者冒険者は地図も読めないため迷うことも少なくない。


だがそれも、二階層、三階層と進んでいく内に地図の見方にも慣れて、一層を三十分ペースで攻略出来るようになってきた。


カイトもサクヤも必要ないが、一応の小休憩を取るために腰を下ろす。カイトは自身のステータスを確認する。


カイトが初見の魔物は二体。一体は犬頭と人間の胴を持つコボルト、もう一体は五、六体で群れを作っている大型の蟻、ビッグアントだ。


得られたスキルは短剣術、棒術、弓術、噛み付き、酸攻撃、酸耐性であった。棒術は一度も使うことなく、Lv5を迎えた。


入手したスキルの内、カイトが使わないと判断した噛み付きと酸攻撃はアハトへ譲渡した。


ダンジョンの魔物相手に酸攻撃を使わせてみると、思いの外グロいことが分かった。酸を浴びた魔物が溶けていく様は精神衛生上よろしくなかった。ダンジョンでは魔物は死んだ瞬間に魔力へ還るから良いものの、外であったなら見るに堪えない絵面になること請け合いだ。


しばらく進み、六階層まで降りた時、カイトが魔物を倒すサクヤを見て呟いた。


「スキルのレベル上げるかな」


「何を上げるんですか?」


「そうだな。投擲術、弓術あたりかな」


「弓はあるんですか?」


「確かルミネから貰った指輪に入っていた気がするな」


カイトが指輪の中にあった弓を取り出す。取り出した弓は武骨で無駄な機能の一切合切を切り離したようなフォルムでカイトの好むものだ。


試しに矢を番えて、キリキリと弦を引く。カイトが何もない方向に弓を射る。風を切って進む矢は、不幸にも曲がり角から出てきたゴブリンの頭蓋をあっさりと食い破った。


「意外といけるな」


「……弓術スキルのレベルはいくつですか?」


「Lv2だな」


レベルが高い程、武器の扱いにも補正がかかる。Lv2でかかる補正はあまり高くない。これは正真正銘カイトの実力だ。


「次は」


カイトが通路の端に落ちている野球ボール程度の大きさの石を拾うと、振りかぶる。綺麗な投球フォームから放たれた剛球はダンジョンの壁に跳弾する。


「ワォン!?」


奥から狼の魔物、ウルフの悲鳴が聞こえたかと思うと、ドタドタとこちらに向かう足音が響く。足音からして五体。


カイトは無言で五本の矢を番える。狙いを定め、弦から手を離す。ピンと張られていた弦から手を離すと、楽器のような甲高く独特な音の後に三体の悲鳴が響く。


「二体逃したか」


ゲームスコアでも落としたかのような言葉を呟くカイト。


跳びかかってきた二体のウルフ。カイトは弓をしまうと、手に魔力の刃を形成する。格闘技の一つ、無刀による刃はウルフの首に添えるだけで毛を斬り、肉に沈み込み、胴と首を切り離す。


弓術の面白さに目覚めたカイトは出てくる魔物をひたすらに狩り続けた。風魔法の補助もつけて威力が増した矢は魔物の肉を抉り飛ばす。殺しを楽しんでいない分、まだマシなのだが。カイトが故郷に戻ってからを心配するサクヤ。


「楽しそうですね」


「ああ。面白いな」


魔石を拾い上げると目の前にある十階層へと続く階段を下りる。階段を降りた先には威圧感を感じさせる鉄製の扉がある。その先にはボスモンスターが待ち構えている。


「行くぞ」


「はい」


サクヤの返事を聞き、カイトが扉に手をかける。金属特有のひんやりとした感触のする扉を押し開けると、キキィと耳障りな音が響く。。


扉の先には、茶色の肌と分厚い脂肪、巨大な棍棒を持つ魔物、巨人、トロールがいた。トロールは醜悪な面をさらに醜く歪めて襲いかかる。


豪腕から振るわれた棍棒はカイト目掛けて振り下ろされる。


「軽ッ!?」


トロールの棍棒を軽々受け止めているカイトの顔は驚愕の表情を浮かべている。その後に、それはそうかと落胆の表情をする。


トロールはカイトの舐めるような発言を知ってか知らずか、ギリギリと棍棒に力を乗せ、カイトを圧殺せんと押し込もうとする。


カイトは一瞬だけ力を抜き、前へバランスを崩したトロールとの距離を一足で詰めると、腕の骨を容赦なくへし折る。汚い悲鳴を上げながらトロールは棍棒を離して後退る。


カイトは地に落ちる前に棍棒を拾い上げ、トロールの腹部に叩きつける。棒術Lv5は伊達ではない。脂肪のおかげでダメージが吸収されているとはいえ、カイトの化け物級の攻撃力から繰り出された棍棒の殴打はトロールを吹き飛ばす。


放物線状に跳んでいったトロール。予測落下地点にはサクヤが刀を大上段に構えている。


「はぁあ!」


振り下ろされた刀はトロールの巨体を軽々切り裂いた。残ったのは少し大きめの魔石と棍棒だけだった。


「さて、今日はもう戻るか」


「そうですね」


転移結晶を使い、ダンジョンの入口前まで来ると、続々と冒険者が出てきた。表情は一喜一憂だ。


階段を上り、広場に出ると日が傾いていた。ダンジョンから出てきた冒険者は皆一様にギルドに向かっている。カイト達もギルドに行くつもりでいたが、見るからに混みそうなので宿屋に帰った。


宿に戻り、夕食を食べ終えた部屋で椅子にもたれかかり、今日入手した魔石を月にかざしていた。微量の魔力しか込められていない魔石。


カイトは書き慣れた手つきで光源(ライト)の魔法陣を書き出す。魔石を使えば、少しだが魔法陣を省略出来るらしく、カイトは魔法陣の一部を改変し、真ん中に魔石を置いて魔法の発動を促すように魔力を流す。


魔力を流すと、光の球が浮かび上がる。普通の魔法陣と同等の光量を持つ魔力球に満足して、魔力を散らすと、サクヤが淹れてくれたハーブティーを飲んでベッドへ入った。


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