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決闘の決着

決闘が行われるのは貴族達が遊びで作ったコロシアムのような場所だ。古ぼけて見えるが、造りはしっかりしている。


娯楽のないこの世界にとって決闘というのは飢えている大衆にとっては最高のイベントだった。


コロシアムの入り口では入場料を取り、すぐ近くにはどちらが勝つかを賭ける店のようなものがあった。倍率はハロルドが4.2倍、相手の貴族キース・アイザックは1.2倍。基本小遣い稼ぎ程度の少額を賭けるのだが、そこに金貨一枚賭ける馬鹿が現れる。勿論カイトだ。


「本当にいいんですか?」


「いいよ。稼ごうと思えば、稼げるからな」


カイトは自信満々にそう言い放つと、金貨をテーブルに置き、ハロルドに賭けると胴元に伝えた時周りからは、信じられないという声が上がったが、意見を変えることなくハロルドに賭けた。


賭けた証明として札が渡される。赤の札に賭け金、金貨一枚と書かれている。カイトはそれをしまうとコロシアムの観客席、ではなくハロルドの控室に向かった。サクヤには席を取っていて貰っている。


扉を開けると、椅子に座り貧乏ゆすりしているハロルドがいた。カイトが入ってきたのにも気付いていない。気付かない程に緊張しているのか、集中しているのか。


「おい、ハロルド」


「カイトさん!」


訓練の疲れから最近は聞くことがなかったハロルドの大声に懐かしいとすら思えてくる。ガバッと顔を上げたハロルドの目を見据えてカイトが言う。


「やれることはやったんだ。あとは八割の力を出せ」


「八割?全力じゃなくてですか?」


不思議そうに聞き返すハロルドにカイトがうんうんと頷く。


「余計に力んでも動きが硬くなるだけだからな。八割ぐらいが丁度良い」


「肝に銘じます」


堅苦しい物言いのハロルドにカイトはわざと態度を崩しておどけるように言った。


「まぁがんばれ。お前が勝って正しいと証明してやれよ」


「はい!」


気合の入った返事に満足げな表情をすると、カイトは控室を後にした。


コロシアムの観客席は客で埋め尽くされていた。その中から人を探し出すのは本来は骨の折れる作業だが、カイトには気配感知がある。特定の生物を探せる便利機能を使いながら、真ん中より少し後ろに座っているサクヤの隣に座る。


席が埋まり、後ろに立ち見の観客が増えてきた頃に、コロシアムの観客が一斉に声を上げる。男達が立ち上がり、吠える。


コロシアムの両端から二人の戦士が出てきた。二人の恰好は軽鎧に刃を潰した剣と全く同じだ。


この装備はコロシアムが貸し出しているものだ。剣の方には刃を潰して殺傷カを下げただけだが、鎧には一つ特殊な効果がある。それは一度だけ鎧のある場所に攻撃が当たった場合に鎧が砕け散る代わりに装備者の身体へのダメージを無くす。砕け散った鎧の破片は場外の魔法陣に転送されて、錬金術で直される。


ハロルドの許嫁を奪おうとしたキース・アイザックという貴族の見た目は優男だ。金の短髪に微笑を浮かべながら、観客に手を振ると、女性から黄色い声援が送られる。


互いに近づき握手を交わすと、十歩程後退する。


「試合開始ッ!!」


審判の合図と共にキースが詠唱を開始し、ハロルドは走り出す。


「土よ、我が魔力を糧に敵を穿て、アースランス」


ハロルドが勘に従い横に跳ぶと、さっきまでいた空間を地面から生えた槍が貫いていた。


「火よ、我が魔力を糧に敵を撃て、ファイアバレット」


火の弾丸がハロルドに襲いかかる。ハロルドも躱せないと予想していたので、紡いでいた詠唱を完成させ魔法を発動させる。


「火よ、我が魔力を糧に敵を撃て、ファイアバレット」


撃ったのはキースと同じ魔法であった。二人の中間地点で火の弾丸がぶつかり合い、爆風を引き起こす。


ハロルドは気配感知を使い、キースの位置を探る。ハロルドの気配感知は、カイトとの訓練で身につけた付け焼き刃の武器だ。キースの方がレベルも高い。


それを分かっているハロルドはその場で黙って剣を構えて、キースが動くのを待つ。五感全てを研ぎ澄ます。


ガキンと剣と剣がぶつかり合う。キースが振るった剣の速度はハロルドよりも高いが、体と剣の間に剣を割り込ませることに成功した。衝撃を受け流し、後ろに跳ぶ威力へと変換する。


「見違える程強くなったね」


砂煙が晴れ、キースが姿を現す。決闘の最中に笑顔で話すあたり、まだまだ余裕があるのがうかがえる。


「そいつはどうも」


簡素な答えに会話の意志がないと分かると、キースは地面を強く蹴り、ハロルドに剣を振り下ろす。


ハロルドは助走により威力の上がった剣を受け止めて、受けた衝撃を地面に流す。ハロルドとキースの剣がギリギリと押し合う。鍔迫り合いになれば、攻撃カが低いハロルドのほうが不利になる。


キースはハロルドの剣を弾く。ハロルドの重心が後ろに寄る。態勢を崩したそこには決定的な隙が生まれる。キースは何も考えずに一歩踏み込もうとする。踏み込んだ勢いそのままハロルドの頭に剣を落とせば、キースの勝利は確定する。


引っ掛かったな。ハロルドは顔に出さないが、内心ほくそ笑む。ハロルドは後ろの地面に剣を突き刺し、態勢を整える。そのまま全力でキースの腹に蹴りを見舞う。


不安定ながらも繰り出された蹴りは地に足がついていないキースを吹き飛ばすのには十分だった。


キースは後ろに下がる。キースの身を包んでいた鎧がボロボロと砕け散る。キースは何もない地面を眺めたまま固まる。そして、不気味な笑い声が漏れ出る。


「ククク、アハハハ。まさか、この僕が君如きの攻撃を喰らうなんて。アハハハ」


壊れたようにしか見えない。キースはニヤニヤと笑った顔をハロルドに向け、自身の懐をまさぐる。


「君如きに使うことになるとはね」


取り出されたのは、妖しく光る長方形の結晶。それを力一杯握ると、ガラスのような破砕音を響かせながら、砂のような破片がキースの手から零れる。


観客席にいるカイトは左目に魔力を込める。途端、カイトの視界には魔力の流れがより鮮明に視ることが出来る。


「……なぁサクヤ。魔力を増幅させる消費アイテムってあるか?」


今のカイトの視界には結晶から出た魔力がキースを覆っているのが視えた。その魔力量は子供が持つには身の丈に合わなさすぎる。


「はい。ダンジョンで採れる魔力結晶です。魔力結晶を砕くと、砕いた人の魔力を上げます。魔法の威力は一階級上になります」


カイトのスキル:限界突破は常時魔力を消費して全ステータスに補正をかける。今のキースがまさにその状態だ。ただ、限界突破を使った後には酷い脱力感が起こる。身体も、魔力の扱いも出来ていないキースにかかる負担は尋常ではない。その相手であるハロルドも。


「カイト、ハロルド君は大丈夫ですかね?」


「なるようになるさ」


薄情な台詞だが、カイトらしい。


カイトとサクヤの視線の先、ハロルドとキースの決闘は白熱している。キースは力任せに剣を振り、ハロルドは防戦一方。ハロルドは紙一重で躱し、受け流す。だが、受け流すたびに逃がしきれない衝撃が体に襲いかかる。


「本当に強くなったね」


さっきとは違い、キースにも余裕がない状態だ。


「…………」


キースと相対するハロルドには話す余裕もない。


キースが強く踏み込み、剣を振り下ろす。躱すことは出来ない。迫り来る剣に反応できたのは無意識的にだろう。力をこめ、踏ん張るために前に重心を移す。


剣と剣が交わるが、ハロルドの予期していた衝撃が来ない。キースは剣に力を入れてなかった。衝撃に備えたことが裏目に出た。ハロルドの体が前に傾く。


それは意趣返しのつもりなのか、ハロルドの腹に蹴りが突き刺さった。鎧が砕け散り、くの字になって吹き飛ばされる。


「火よ、我が魔力を糧に敵を貫け、フレアランス」


キースが放ったのは、中級火魔法のファイアランスよりも上、上級火魔法フレアランス。大きさも込められた魔力も桁違いだ。


「死ね」


シンプルな殺意の言葉が魔法を撃ちだす。


撃ち出された炎の槍はハロルドに着弾した。煙に包まれ、ハロルドの姿は見えない。


カイトの横ではサクヤが青い顔をしている。対照的にカイトの顔は笑顔だ。それは魔力の流れが視えるカイトだからこそできる顔だ。


煙が晴れた先、ハロルドは立っていた。その様子は満身創痍だ。口の端からは血が垂れている。


立っていたハロルドの体が前に傾(かし)いだ。それを見ていたキースの口元が醜悪に歪み、笑みを形作った。誰がどう見てもキースの勝ちだった。


審判も勝利の宣言を行おうとしたその時。


ハロルドの足が地面を踏み締める。


ハロルドの頭にはカイトの言葉が再生される。


「身体全体を使って戦え。常に考えろ。虚を突け。騙せ」


騙せ。虚を突け。観客すらも欺け。


一瞬の溜めの後にハロルドはキース目掛け走る。今のハロルドは限界突破していたキースですら超えているかもしれない。


「はぁああああ!!」


金縛りにあったかのように動けないキースの腹に裂帛の気合とともに突きを放つ。キースの体が宙を浮き、地面に叩きつけられる。


「勝者ッ、ハロルドーーーッ!!!!」


観客席からは溢れんばかりの歓声が響き渡った。


「カイト、何が起こったんですか」


観客達が立ち上がり、ハロルドに賞賛の声を浴びせる中、サクヤはカイトに尋ねた。


「フレアランスを魔斬の出来損ないみたいなもので魔法の威力を弱めたんだよ。その後にウィンドブーツを発動させて敏捷カを上げてキースに突きを喰らわした」


コロシアムの中心ではハロルドが倒れ込んだ。気力、魔力、体力の全てを使い、観客すらも騙し、欺き、敵を倒したハロルドをカイトは素直に凄いと思った。





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