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モンスタークラウド

「カイト、見えてきましたよ。アベイドです」


サクヤが遠くからでも分かる程巨大な壁に囲まれたアベイドを指を差す。


あれからしばらく歩いて会話しているうちに、サクヤは呼び捨ては出来たが、タメ口だけは出来なかった。呼び捨てが出来るのは夢で呼んでいるからだろうが。


近付く度にその巨大さがよく分かる。要塞と言うだけあり、その堅牢さに舌を巻くカイト。壁の上には大砲などの遠距離用の武器が等間隔に置かれ、騎士が常駐しているようだ。 


「サクヤ、魔物の素材ってどこかで売れるのか?」


カイトは指輪に入っている硬貨を数えるが、王都でそこそこ使ってしまった為にその額は心許ない。


「はい。冒険者ギルドで売れます」


「冒険者ギルドって何だ?」


「依頼人から依頼を受けて、達成することでお金を稼げる職業です。実績を出せばより稼ぐことができます」


「なるほどな。じゃあ素材を売ってから宿を探してぶらつくか」


以前の失敗を踏まえ、学習したカイト。サクヤも頷いて、同意する。


「決定だな。なんか面白い物あるかな」




城塞都市アベイドの三つある門。門扉は鉄で縁取られた木が填め込まれ閂が付けられている。


門のそれぞれには常に三人の騎士が犯罪者に入られないように目を光らせている。カイトは自分達に向けられる敵意に眉をひそめながら、目の前の男を見上げる。


「身分を証明出来るものはあるか?」


威圧するような野太い声が目の前の男の兜から聞こえる。鎧の上からでも分かる筋肉質な大男に普通の人なら怯えてしまう様相だ。


「いやないな」


「私もありません」


「ならこの水晶に触れて質問に答えろ」


大男の横の男が手に収まる程度の大きさの水晶玉を取り出す。何の変哲もないただの水晶玉にしか見えない。


「この町に来た理由は何だ?」


「旅に必要な物の補充だ」


「過去に犯罪を犯したことは?」


「ない」


「最後だ。この町で犯罪を犯す気はあるか?」


「ないな」


「終わりだ。入って良いぞ。通行料は大銅貨一枚だ。次にそこの女、さっきの男と答えは一緒か?」


「はい」


サクヤが触る水晶玉に変化はない。


「二人とも入って良いぞ」


「どうも。ほい、大銅貨二枚」


カイトはポケットから大銅貨二枚を取り出し、大男に渡す。「確かに」と受け取ると、閂が開かれ、扉が開けられた。


門から通路が伸び、脇には屋台や服屋、宝石店が並んでいる。通路は噴水まで伸びると道が三つに別れている。


左の道には冒険者区。冒険者が武器屋や防具屋、鍛冶屋などが多く存在する。


右の道には観光区。恋人や夫婦が寛げるような自然に囲まれた公園やカフェのような洒落た店が多い。


真っ直ぐ行くと貴族街。貴族や金持ちが住む豪邸が立ち並んでいる。その先には西洋風の城が建っている。


カイトとサクヤは適当に食料を買い込むと冒険者区にあるギルドへと向かった。


冒険者ギルドは簡単に見つかった。その建物は一際大きく、目立っていたからだ。


ギィ~と重苦しい音を立てながら、扉を開けると冒険者の視線がカイトとサクヤに向けられる。その視線を煩わしく思いながら辺りを見回す。受け付けのカウンター、依頼の張ってある木の板、朝から酒盛りしているだろう冒険者があふれている酒場。


問題を極力起こしたくないカイトは酒場の冒険者を無視してスタスタと歩き、受け付けの女性に話を聞く。


「ここで魔物の素材は売れるのか?」


「はい。冒険者登録はしているでしょうか?」


「いや、してない」


「でしたら、登録いたしましょうか?冒険者登録なさっているのでしたらギルドポイントが送られますが」


「登録に必要なこととかあるのか?」


「はい。ステータスの測定と戦闘力測定です」


カイトはそれを聞いて露骨に嫌そうな顔をするとキッパリ断った。


「そうですか。分かりました。それでは素材の方見せて貰ってもよろしいでしょうか?」


「あぁ」


するとカイトが指輪から魔物の素材をいくつか取り出した。受け付けの女性は驚いていたが空間魔法のサブスペースかと思い、完璧に解体された魔物の素材に目を向ける。


「えっ!?これは‥‥クロウグリズリーにリガードビートル、フラッドスネーク!しかも傷が全くないなんて!」


驚きの余り、バンと机を叩いて立ち上がる。受け付けの女性の声にとなりのカウンターの受付嬢や酒場で騒いでいた冒険者の時が凍り付いた。今、女性が言った言葉の魔物は全てAランク上位の魔物だからだ。


急に物音がなくなり、不思議そうにカイトとサクヤが顔を見合わせる。受け付けの女性は心を落ち着かせるように深呼吸すると、椅子に座り直し、目の前の男女に質問する。


「お二人は多元の森林に入りましたか?」


「多元の森林ってあれだよな?」


「あれですね」


心当たりしかない二人は“あれ”だけで会話が成立してしまう。受け付けの女性は軽く頬を引きつらせながら説明する。


「お二人が行った多元の森林とはAランク上位の魔物が闊歩している森で数も多いため、Aランク冒険者が六人パーティーで抜けられるような危険な場所なんですよ」


「確かに強かったですね」


カイトは余りピンと来ていなかったが、サクヤは納得して、頷く。


「それでこちらの素材はお売りになりますか?鍛冶屋に持っていけば武器や防具を作って貰えますけど」


「いや、いいよ。全部売却で」


「分かりました。査定に少々お時間の方、掛かってしまいますがよろしいですか?」


カイトがサクヤに目配せして、サクヤは意図が伝わったのか頷く。


「それじゃあ、しばらく暇つぶししてから受け取りに来るわ」


「分かりました」


カイト達が出て行って少ししてからギルド職員や冒険者が意識を取り戻して、仕事を再開したり、酒を飲み直した。




「サクヤもたまには着物じゃなくて別の服着てみれば?」


服屋に飾られている服をガラス越しに見ながら、隣を歩くサクヤに聞く。するとサクヤは静かに首を振った。


「私は背も高いですし、似合わないと思います」


カイトは身長170cm前半。サクヤはカイトと同じくらいの身長だ。女性にしては背が高く、サクヤも心の底では意外と気にしていた。


「でも町中で着物は目立つし服買わないと」


「でしたら、安物の服でいいですよ?」


「そうか。なら、入ってみよう」


そう言ってカイトはサクヤの腕を笑顔で掴んだ。サクヤのLv0の危険察知スキルが働く。向かう先は、高級そうな服屋だ。


「えっ!ちょっと、カイト!?」


カイトはタメ口で抵抗しているサクヤをお構いなしにズルズル引っ張って服屋に入っていった。注射を嫌がる子供を引きずる親のような心境になったカイトだった。


「いらっしゃいませ」


「こいつに似合う服を頼む」


カイトが背中に引っ付いているサクヤを店員の前に押し出す。店員はわたわたしているサクヤの手を取ると店の奥へ消えていった。




それから十分後、店員に案内されたのは試着室だった。試着室は五つあり、一室だけカーテンが閉まっている。


カーテンが開けられると、白いワンピースに黒のボレロを纏ったサクヤが立っていた。ワンピースから伸びるしなやかな足は見る人の目を吸い寄せるような魅力を持っている。最もサクヤは恥ずかしいのかワンピースの裾を引っ張って顔を赤くしている。


「どうでしょうか?」


横からにこやかに微笑みながら尋ねる店員にカイトは即答する。


「買いで」


そう言うと、サクヤの足元にある着物を指輪に収納する。サクヤはカイトをキッと睨むがカイトは柳に風といった様子でサクヤの手を取る。


「いくらだ?」


「銀貨三枚と大銅貨八枚になります」


「ほい丁度」


「またのお越しをお待ちしています」


頭を下げる店員を背にカイトとサクヤが店を出て行った。


その後も、二人は商業区を見て回ったり、観光区のカフェで軽食を取ったりとゆったりとした時間を過ごした。


「そろそろギルドに行くか」


「そうですね」


あのむさ苦しい冒険者区に行くのは遠慮したいが、魔物の素材の売価を受け取るために我慢して足を運ぶカイトとサクヤ。



「お売りしていただいた素材は全て状態もよいため、金貨ー枚、大銀貨九枚、銀貨二枚、大銅貨九枚、銅貨三枚になります。お確かめ下さい」


渡された革袋の中を確認して、指輪に収納する。宿に戻ろうと踵を返し、出口に向かおうとすると猛スピードでこちらに近付いてくる三人の反応を感知したカイト。


バンと勢いよく扉が開け放たれると同時、三人の中の一人が場を凍りつかせる一言を叫ぶ。


「モンスタークラウドだ!」


ギルド職員が慌てた様子で尋ねる。


「それは本当ですか?」


「あぁ本当だ。観光区の方から魔物の大群が迫ってきている」


「アルハ!急いで騎士舎に報告を。キール!住民を城へ避難させて。イルミ!冒険者をかき集めて観光区へ集合させて」


「「「了解」」」


「皆さん、聞いていた通りモンスタークラウドが発生しました。Eランク以下の冒険者は避難の補助を、Dランク以上の冒険者は魔物の討伐をお願いします」


ギルド内の冒険者は指示に従い、次々に外へ行き、ギルド職員は避難の手伝いや状況を理解していない冒険者への説明など大忙しだ。


ギルドの人の出入りが激しくなるなか、カイトは酒場の空いている席に座り、俺等は冒険者じゃないからと呑気にモンスタークラウドについて聞いていた。ギルド職員はこんな大変な時に、と二人を睨んでいるが、冒険者じゃないので強く言えない。


「モンスタークラウドってなんだ?」


「魔物が大量に発生し、住処を得るために人里を襲うことです」


「何で大量に発生するか分かっているのか?」


「魔力が異常な量、同じ場所に溜まることにより魔物が大量に発生することが原因とされています」


「なるほど。さてと宿に戻るか」


「いいんですか?モンスタークラウドならたくさん魔力を集められますよ?」


「いいよ。人前で戦うと目立つし、ステータス奪えるのは黙っといた方がいいからな」 


「そうですね。では戻りましょうか」


カイトとサクヤが席を立って帰ろうとしたところに背後から声がかかる。


「待ってください」


カイトの相手をした受け付けの女性だった。


「お二人は多元の森林を通ってこれる程お強いんですよね?お願いします。力を貸してください」


頭を下げて必死にお願いするその姿に普通の人なら断れないだろうが、そこはカイトクオリティー。


「冒険者じゃないんで断る」


キッパリと断る。ギルド職員の視線がなお一層厳しいものに変わる。非難するような視線など気にも止めず出て行こうとする。


「私からもお願いできないだろうか」


そう言って薄い緑色の髪の毛をたなびかせながら現れたのは妙齢のエルフの女性だった。彼女に視線を向け、目を合わせた瞬間、何かを弾くような妙な感覚がカイトの体に迸った。


「「「ギルドマスターも!!!」」」

「セシル様もいかれるんですか!?」


彼女の背中には魔力を発している弓が背負われている。


「戦うよ。私もこの町が好きだからな。それより力を貸していただけないだろうか」


「なんでそこまで俺達にこだわる」


「‥‥‥あなたに鑑定をかけたのだけど、ステータスを見ることが出来なかった。あなたは私よりも五十以上レベルが高いからだ」


その言葉に周囲のギルド職員の間にざわめきが走る。


「貴方、何勝手にステータスを見てるんですか!」


カイトに及ばないにしても十分強大な殺気がサクヤから放たれる。ギルド職員が水を打ったように静まり返る、否、喋れなくなった。


「すまない」


「謝って済む問題じゃありません!」


「怒りを静めろサクヤ。何でそこまで怒ってる」


カイトの言葉に平静を取り戻したサクヤがカイトに説明する。


「ステータスを覗き見ることは御法度とされています。バレた場合には、最悪極刑ということもあります」


そこまで聞くと、カイトはセシルに剣呑な視線を向ける。セシルは蛇に睨まれた蛙のように身動きが取れない。


「そうか」


カイトは指を真一文字に移動させた。


「ひっ」


セシルが変な声を上げたかと思うとその場にへたり込んだ。続いて自分の首に触れ、何かを調べるような行動を取った。


「今回は不問とする。次同じことをしたら分かってるな?」


首を指で突きながら尋ねる。


カイトが使ったのは超級の幻覚魔法、幻死だ。自分が想像した対象の死の瞬間を強制的に相手に見せる魔法だ。痛みを送ることもできる。使用条件は目を合わせること。


カイトがセシルに見せたのは首を飛ばす幻覚だ。


カイトがコートを翻して扉から出ようとするが、コートの裾を掴まれ、阻まれる。


「まだ何か用か?」


「どんなことでもする。助けてくれないだろうか」


必死に懇願するセシルに苦虫をかみつぶしたような顔をして押し黙る。ギルド内の視線の全てがカイトに注がれる。何分経っただろうか。カイトが重たい口を開く。


「‥‥‥サクヤ」


「私はカイトの決断に従います」


「ありがとな。おい、モンスタークラウドが迫ってきている場所まで連れて行け」


セシルが立ち上がり、礼を言うとモンスタークラウドの場所へと走り出す。後を追うようにカイトとサクヤが走り出す。


「おいセシル。魔物の数と等級を教えろ」


「魔物の数はおよそ二千。確認できる範囲ではSランク一体、Aランク五体、Bランク約五十体、それ以下は多すぎて把握出来なかった」


「俺はSランクを殺る。サクヤはAランク五体を殺れ。危なくなったら他人を見捨てでも生き残れ」


「分かりました」





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