03話 芽生え始めた夫婦ごっこ
2年が過ぎた。正直、この場所で暮らしていると、時間なんてあまり気にしなくなっていた。何かを気に留めなくなれば、時間はいつの間にか静かに過ぎていくものだ。
その間に、俺とエリは村でかなり多くの新しい友達を作った。もっとも、そのほとんどはエリの英雄ごっこに無理やり付き合わされる仲間で、気づけばみんなまとめてエリにこてんぱんにされている。
エリと遊びに行かないとき、俺はほとんどの時間を母さんの図書室で本を読んで過ごしていた。一冊読み終えては、また別の本を手に取る。それを何度も繰り返しているうちに、もうすぐこの図書室にある本を全部暗記してしまうんじゃないかと思うほどだった。
もともとの目的は、どうして俺だけが他の人たちのように魔法を使えないのか、その原因を調べることだった。けれど、いくら時間をかけて探しても、そのことについて書かれた本は一冊も見つからなかった。
それに、俺がよく家にいる理由には、もう一つかなり現実的なものがある。
それは、しばらくエリから逃げるためだ。
毎日のようにあいつに連れ出されて、遊び道具にされた挙げ句、こてんぱんにされるのは、本当に勘弁してほしかった。
ほとんど家の中で本ばかり読んでいるせいで、外の世界についての俺の知識も大したものではない。村の中にいる人たちでさえ、顔見知りなのはほんの数人くらいだった。
「ライアン」
母さんの声が部屋の中から聞こえてきた。
母さんは二人の小さな子供を腕に抱え、その背中には、細く割った竹を編んで作った籠まで背負っている。
「ライアン、この二人の弟たちの面倒を見ててくれる? 母さん、少し薬草を摘んですぐ戻ってくるから。ダコルさんから聞いたんだけど、顔の肌にすごくいい薬草があるらしいの。だから、今のうちに摘みに行かなくちゃ。えへへ」
母さんは、まるで今から万能薬でも見つけに行くかのような、期待に満ちた顔をしていた。
考えてみれば、不思議なものだ。母さんはもともと十分すぎるほど綺麗なのに、そこへさらに薬草まで使ったら、これからどれだけ綺麗になるのか分かったものじゃない。
そう言って、母さんは二人の子供を、俺が座っているすぐ隣のベッドに寝かせた。
「はい!」
「あ、そうそう。あなた、いつも本ばかり読んでないで、たまには外に遊びに行きなさいね。あなたが勉強熱心なのは母さんも嬉しいけど、たまには外で遊ぶのも大事よ。エリちゃんが毎日のようにあなたを探してるんだから」
母さんが出ていったあと、部屋には俺と二人の小さな子供だけが残った。
この二人は俺の弟妹だ。
まあ、この二年間、両親も俺に負けないくらい、せっせと「弟妹作り」に励んでいた。そして去年、その成果として双子が生まれた。男の子と女の子、一人ずつだ。
妹の名前はアンメイ。俺の名前の最後の音から取った名前だ。そして弟はリュースイで、俺の名前の最初の音から取られている。
自分の弟妹なのだから、本来なら二人のことをよく知っていて、世話の仕方も分かっていて当然なのだろう。
けれど、現実はそう簡単なものではなかった。
俺は一日中部屋にこもっているから、二人と接する時間を一年分まとめて数えたとしても、大した時間にはならない。多くても三回くらいだ。二人はほとんどの時間を両親と一緒に過ごしている。
それに、前世の俺には小さな子供と遊んだ経験なんてまったくなかった。そのせいで、二人のそばにいると、何をすればいいのか分からなくなることが多い。
まあ、母さんに言われたことだ。
今日はこの二人の弟妹と、少しでも仲良くなるために時間を使ってみよう。
俺は、みんなが子供をからかうときによくやっている遊びを思い出しながら、さっそく試してみることにした。
俺は二人の顔にぐっと近づき、大きく口を開けて舌を出す。それを左右に動かしながら、目も舌の動きに合わせて左右に動かした。
「ははは、どうだ? 兄ちゃんの子供を落とす必殺技は!」
結果は、二人の子供の泣き声が家中に響き渡るというものだった。
えっ……そんなに怖かったのか?
「分かった、分かったから。泣くなよ、二人とも。別のことをするから。別のことをしてやるからな」
俺は二本の箸を取り出し、口から目のほうへ向けて真っ直ぐに突き立て、それから眉毛を接着剤でくっつけた。
「今度はどうだ?」
アンメイとリュースイは、しばらく俺をじっと見つめていた。
すると、なぜなのか、二人とも同時に、さっきよりさらに大きな声で泣き始めた。
もういいって……本当にどうすればいいのか分からなくなってきた。
そのとき、家の扉が勢いよく開いた。
外から差し込んできた光が、そのまま部屋の中へ流れ込んでくる。俺は反射的に扉のほうへ振り向いた。
聞き慣れた声が響いた。
「ライアン?」
エリだった。
「ライアン? お前だったのか?」
そう言いながら、エリは腹を抱えている。口元をひくひくさせながら、必死に笑いをこらえているようにしか見えない。
待て。
俺は、エリのほうを振り向く前に顔を元に戻すのを忘れていたことに気づいた。
エリはその場で崩れ落ちるように地面に倒れ、そのまま何度も転がり始めた。
「ははははは! その顔は何なんだよ、ライアン! お前にもそんな顔があったなんて知らなかった! ははは、面白すぎる! 何やってるんだよ?」
エリの笑い声はますます大きくなっていく。
「悪かったな。これでいいだろ。弟たちを楽しませようとしてただけだ」
「楽しませる? でも弟たち、全然笑ってないじゃん。はははは!」
「なあ、もう笑うのやめてくれないか?」
「ああ、だってお前がこんな顔してるの、初めて見たからさ。ちょっとからかってみようと思っただけだよ。へへ」
「それで、今日は何しに俺の家へ来たんだ?」
「ああ、遊びに行こうと思って誘いに来たんだ。最近暇すぎるんだよ。あの子たち、みんな私のことを化け物って呼ぶし、誰も一緒に遊んでくれないんだ」
そりゃそうだろ。
あれだけ相手をボコボコにして、青あざだらけにしておいて。
「そうだな。じゃあ今日は俺も一緒に二人の面倒を見ることにするか。もう外には遊びに行かない」
「お断りします!」
俺の言葉なんて聞こえなかったかのように、エリはすぐにベッドへ飛び乗り、そのまま俺の弟妹のところへ駆け寄った。
「わあ、かわいい! ライアンにそっくりじゃん。私もこんな弟妹が欲しいな。そうだ、一人さらって帰っちゃおうかな?」
「はあ?!」
「はは、冗談だよ、冗談」
エリは相変わらず二人の弟妹に夢中になっていた。
柔らかな頬にそっと指を触れ、何度も楽しそうに撫でている。そして唇をきゅっと結ぶと、優しい笑みを浮かべた。
そんな笑顔をエリの顔に見るのは、これが初めてだった。
「かわいいな……」
「ん? 今、何か言ったか、ライアン?」
「ああ……何でもない」
「そう?」
エリはそれ以上聞かなかった。
彼女は身をかがめると、アンメイをそっと抱き上げ、そのまま胸に抱いた。
驚いたことに、アンメイは嫌がる様子をまったく見せなかった。
大人しくエリの腕の中に収まり、それどころか嬉しそうにしている。
しばらくして、エリが顔を上げて俺を見た。
「なあ、ライアン。私たちって夫婦みたいに見えないか? 今、私たちの子供を抱いてるんだぞ」
「何を言ってるんだ?」
「へへ……」
エリは俺の困惑した顔を見て、ただ笑った。
けれど、なぜかその笑顔からは、どこかとても楽しそうなものが伝わってきた。
夫婦、か……。
それも悪くない気がする。
俺は今まで、こんなことを経験する機会なんて一度もなかった。
俺はもうしばらくエリを見つめ、それからふと思いついた。
「よし、エリ。今日はもう英雄ごっこはやめよう」
「じゃあ、何して遊ぶ?」
「夫婦ごっこだ」
エリの目がすぐに輝いた。
「本当か? 本当に言ってるんだよな、ライアン?」
「ああ」
「へへ! やった! じゃあ今日は私、立派なお母さんになる!」
こうして俺たちは、昼過ぎまでずっと夫婦ごっこをして遊んだ。
その頃になって、俺はようやく母さんが「少し薬草を摘んですぐ戻ってくる」と言っていたことを思い出した。
ところが、今になっても母さんの姿はどこにも見えない。
そう考えたとき、窓の外に人影がちらりと見えた。
俺は目を細めて、その人影をよく見た。
「母さん?」
人影がびくっと跳ねた。
直後、外から何かにぶつかったような「ゴン!」という音が聞こえてきた。
「母さんって何だよ、ライアン! 私は今、お前の妻なんだからな!」
「お前じゃない。俺の母さんだ」
「え?」
「もういいから、母さん、出てきて。見えてるから」
外の人影はしばらく黙っていたが、その後、正面の入口へ回り込んで家の中へ入ってきた。
やっぱり母さんだった。
俺は母さんを見ながら、思わず少し責めるような声を出した。
「母さん、いつからそこにいたの?」
母さんは天井を見上げ、それから別の方向へ視線を逸らした。
どう見ても、俺の質問から逃げようとしている。
「何を言ってるの? 母さん、今帰ってきたばかりよ」
俺は目を細めて、母さんを真っ直ぐ見つめた。
「母さん」
「……」
母さんは数秒黙り込んだあと、頭を掻きながら苦笑した。
「へへ……分かったわ。ごめんなさい。実はね、家を出たときからずっとそこに立ってたの」
その言葉を聞いた瞬間、エリの顔が一気に真っ赤になった。
何度も口を開きかけて、ようやく言葉を絞り出す。
「ち……ちょっと待って……最初から……ってことは……」
母さんは口元を手で隠して笑いをこらえながら、エリのほうへ視線を向けた。
「そうよ。全部聞いてたわ。この生まれたばかりの夫婦の話もね」
「うぅ……」
エリは今にも湯気が出そうなくらい真っ赤になった。
そしてすぐにベッドから飛び降りると、勢いよく扉にぶつかり、そのまま外へ走っていった。
「ああああ! 恥ずかしすぎるーーー!!!」
俺は反射的にエリへ手を伸ばし、それから母さんのほうへ振り返った。
「どうして母さん、外に隠れてたの?」
母さんは俺の質問を聞くと、ただ笑った。
「あなたがいつも本ばかり読んでいないようにしたかったのよ。本を読むのはとてもいいことだし、母さんも分かってる。でも、外にはまだあなたが経験するべきことがたくさんあるでしょう?」
母さんは俺のところまで歩いてくると、そっと俺を抱きしめた。
「あなたはまだ小さいんだから。今は遊んだり、友達を作ったり、自分の毎日を楽しんだりする時間よ。だから、いつも何かをしなきゃいけないって、自分を追い込まなくてもいいの」
そう言って、母さんは俺を胸に抱き寄せた。
「どう? 今日は楽しかった?」
今日という日は、本当にめちゃくちゃだった。
二人の子供と仲良くなったのも俺ではなく、エリのほうだった。
それでも、胸の奥から湧き上がってくるこの感覚を、俺は否定できなかった。
「はい……すごく楽しかったです」
「それならよかったわ」
母さんは微笑み、俺を抱く腕にさらに力を込めた。
「これからも、今日みたいに楽しく過ごしてね」
俺は少しも息苦しくなかった。
それどころか、その腕の中にいると、とても温かい気持ちになった。




