010話 エリとの再会
数日後、俺は父さんから引き続きルプトについて教わっていた。父さんが最初からルプトを教えなかったのは、まずセドの状態を保ちながら身体のバランスを取れるようになり、それに慣れる必要があったからだ。
ルプトでは、身体の中にあるセドを一定量、外へ放出する。けれど、エネルギーを外へ出すのは、思っていた以上に難しかった。身体の中のセドを維持しながら、外へ放出するエネルギーも同時に調整しなければならないからだ。ルプトを出しすぎてセドが追いつかなくなれば、身体のバランスが崩れてしまう。そのまま続ければ、自分自身が危険な状態になることもある。
だから俺は、何度も繰り返し練習した。ほんの少しルプトの量がずれるだけでも、身体がすぐに苦しくなることがある。胸が重くなり、呼吸も荒くなる。そんなときは、身体が落ち着くまで練習を止めるしかなかった。
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「ライアーーーン!!!!」
また、聞き慣れた声が聞こえてきた。エリだ。エリと会うのは、何日ぶりだっただろう。
「よう、エリ。久しぶりだな」
「うん、久しぶり。えへへ」
エリが明るい性格なのは、前から知っている。でも今日は、いつも以上に機嫌がよさそうだった。
「ねえねえ、ライアン。私、すっごく強くなったんだよ!」
「え?」
数日前、俺はアルヴィンに会っていた。そのときのアルヴィンは、いつもよりずっとやつれていた。それどころか、かなり泣いていた。自分は父親なのに無力すぎる。もうエリに教えられることが何もない。そんなことを何度も嘆いていたのだ。自分の特殊な能力もあって、エリは父親から教わった剣術を、たった数日ですべて身につけてしまったらしい。
「これで、ちゃんと守れるようになったよ。えへへ」
俺はエリを見て、思わず笑った。
「そうか。じゃあ、久しぶりに手合わせしよう。ついてこい」
まあ、こうなるとは思っていた。
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俺たちは、いつも二人で使っている訓練場へ向かった。向かい合って立ち、二人とも相手から目を離さない。俺は身体の中を巡るエネルギーに意識を集中させる。
一方のエリは、まったく動かなかった。ただ俺を見ながら、笑っているだけだ。
「へえ、ライアンもヴァルを使えるんだ?」
その言葉を聞いて、エリもヴァルを使えるのだと分かった。それも、かなり慣れているようだった。俺は何も答えず、そのまま準備を続ける。
まずは危険を避けるため、少量のセドを足のつま先へ流した。それを踏み込む力に使ってエリとの距離を詰め、近づいたところでセドを腕へ流す。そして、その力を剣を振るために使う。
俺は前へ踏み込んだ。十分に距離が縮まったところで、腕へセドを集め、そのまま剣を振り抜く。エリは片手であっさりと受け止め、そのまま俺を弾き飛ばした。
俺は体勢を立て直し、すぐにまたエリへ向かう。今度は攻め方を変え、正面からではなく横から狙った。それでもエリは簡単に受け止める。何度も試してみた。正面から斬り込んだり、横へ回り込んだり、ときにはわざと背後から近づいてみたりもする。少しずつ速度も上げていった。
それでも、エリはすべて簡単に防いでしまった。何より腹が立つのは、エリがほとんど動いていないことだ。
「ライアン、今度は私を見ててね」
俺はすぐにエリへ目を向ける。エリは訓練場の中央で立ち止まり、ゆっくりと目を閉じた。何をするつもりなのか分からない。俺はそのままエリを見ていた。
しばらく経っても、何も起こらない。エリは目を閉じたまま、じっと立っている。俺にも何も感じられなかった。
そして、エリが目を開いた。
その瞬間だった。
エリの身体から、今までとは比べものにならないほどのエネルギーが一気に広がった。周囲の空気が揺れ、風が急に強くなる。足元の土や砂まで巻き上げられ、俺はとっさに腕を上げて顔をかばった。
風は一度強くなっただけでは終わらなかった。何度も訓練場を吹き抜け、身体まで押されるような感覚が続いている。さっきまで静かだった場所が、エリを境にしてまったく違ってしまったようだった。
俺は腕を下ろし、エリを見る。エリは何もせず、さっきと同じ場所に立っている。けれど、その周りには大量のエネルギーが流れ続けていた。
そして、俺はそこで初めて気づいた。
エリが放出しているヴァルの量が、あまりにも多い。
今まで感じたことのないほどのヴァルが、エリの身体から次々と流れ出している。それなのに、エリは苦しそうな様子をまったく見せていない。
むしろ、いつもと変わらない顔で俺を見ている。
こんな量を、普通の子供が出せるとは思えなかった。
「これは……?」
俺はエリを見ながら、何が起きているのか聞いた。
エリは少し嬉しそうに笑って答えた。
「私、魔力とヴァルを一つにしたの」
「一つに?」
「うん。最初はちょっと難しかったけど、なんとなく慣れちゃった」
「でも、苦しくなったりしないのか? これだけエネルギーを出してるのに」
「それどころか、身体がすごく軽くなったよ」
俺には、まったく理解できなかった。これだけの力を出しているのに、本人は苦しくなるどころか、身体が軽いと言っている。
こいつ、いったいどこまで強くなるんだ?
ほんの一瞬、エリから目を離した。次に見たときには、もう目の前まで来ていた。
俺は慌てて剣を上げて受け止める。両腕に衝撃が伝わり、腕が痺れた。それでもエリは止まらない。そのまま剣を振り続けてくる。あまりにも速くて、俺には考える暇すらほとんどなかった。
しかも、速くなっただけじゃない。振る力も、さっきまでとは比べものにならないほど重くなっている。一撃受けるたびに、腕がもう限界なんじゃないかと思えてくる。まるで空から大きな岩が次々と落ちてきて、それをずっと受け止めているような感覚だった。
降参したい。でも、今のエリの顔を見る限り、簡単に降参させてもらえそうにはない。
仕方なく、俺は訓練場の中を走り回り、できるだけ正面からエリとぶつからないようにした。こっちへ逃げれば、エリがすぐに追ってくる。反対側へ逃げても、やっぱり後ろからついてくる。まるでエリがN極で、俺がS極の磁石みたいだった。どこへ逃げても、エリは俺についてくる。
結局、俺はまたエリの前まで追い込まれてしまった。
けれど、今度はいつもと違った。エリの身体を包んでいたエネルギーが、少しずつ一点へ集まっていく。そして、そのすべてのヴァルが、エリの持つ剣へ集まっていった。
俺はその剣を見て、嫌な予感がした。なぜかは分からない。ただ、死神がすぐ後ろに立ち、耳元で「この一撃を受けたら、もう立ち上がれないかもしれない」と囁いているような気がした。
「エリ……待て……待ってくれ」
俺はエリを止めようと声をかける。
でも、エリはそのまま剣を振り下ろした。
反射的に腕を上げて受けようとした。その瞬間、俺には分かった。まともに受けたら、大怪我をする。
そのとき、父さんとアルヴィンが飛び出してきた。
父さんは、剣が俺に振り下ろされる寸前でエリを止めた。二つのエネルギーがぶつかり合い、激しい衝撃波が広がる。風と土が左右へ吹き飛び、父さんの足元の地面まで衝撃で大きく変形していた。
一方、アルヴィンは娘を抱きかかえていた。
「父さん? アルヴィン?」
「二人とも、いつから来てたんですか?」
「父さんは最初からいたぞ。それに、二人の子供がこうして戦っているところを見られるなんて、これ以上面白いものはないだろ?」
俺はエリのほうを見る。
でも、さっきまで楽しそうだったエリの顔からは、もう笑顔が消えていた。目を大きく見開き、剣を握った手を震わせている。やがて力を抜くと、そのまま父親に強く抱きついた。
「もういい、エリ。落ち着け」
「でも……でも、二人が来てくれなかったら、私……私、ライアンを大怪我させてた」
エリの声が詰まる。心配そうな顔で、俺を見る。
「大丈夫、大丈夫だよ」
俺は本当に、エリを少しも責めていなかった。もし誰かを責めるなら、俺のほうだと思う。俺はまだ弱すぎる。エリが自分よりずっと強いと分かっていたのに、それでも戦い続けた。父さんとアルヴィンが間に合わなかったら、怪我をしていたのは間違いなく俺だった。
だから、エリの心配を少しでも減らすために、何かしてやろうと思った。俺がエリのところへ近づくと、エリは怒られると思ったのか、うつむいてしまった。
しばらくすると、エリは顔を上げ、目をぎゅっと閉じた。
「ごめん……ごめんね、ライアン……」
最後まで言わせる前に、俺は手を伸ばして、エリの顔についていた土を拭った。
「え?」
俺は土で汚れたエリの顔を見て、思わず笑った。
「ははは、見てみろよ、エリ。顔、すごくおかしいぞ」
「ええ!?」
「だろ? すごくおかしい」
「じゃあ、どうしたら俺、笑わなくて済むかな?」
エリはうつむき、服で顔を拭いてから俺を見る。すると、さっきまでの緊張が少しずつ消えていった。そして、いつもの笑顔に戻った。
「うん、もう笑わなくなった?」
「そう、それでいいんだよ」




