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【本編完結済み】鉄パイプ令嬢は逃走王子を尻バットする〜処刑直前に王冠を押し付けられたからハッタリだけで国を乗っ取りました〜  作者: 朱音ことは
番外編 パズウェルと聖女のおはなし

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7話 破れた恋、誓う友情

 10日後。


 楽しみにしていたディア陛下滞在期間は、己の暴走が原因で壁を見るだけで終わってしまった。


 自らの手で綿密にスケジュールを組んでいたが故に。


「あぁ、今頃動物園で目を輝かせている頃だろう」

「舞踏会で美しいドレスを纏い、優雅に誰かの手を取って踊っている頃だろう」


彼女の全てを克明に想像できてしまい、デスクで頭を抱える事になった。



 豹が彫られた柱時計が、2時を知らせる鐘を鳴らす。



 ――そして、今。

 彼女は我が王宮から馬車に乗り、港に向かっている。


(……悔いはない。あのままでは、大切に仕舞っていた譲位宣言書を出す事も出来ず父上に嬲られ隷属的な関係を結ばされていただろう)


 静かに目を閉じる。


(彼女の苦難を1つでも取り除くことができたのなら、私の苦しみなど些事に過ぎない)


「ちょっとぉ~!パズゥ?寝ているのかしらぁ?」


 人の感傷をぶち壊しにしないでくれ!


 間延びした声に苛立ちながら扉を開ける。


「突然なんだよ、フェルシュ姉様。また私をからかいにきたのか?」

「あら、さっきから呼んでいたわよ?本当に考え込むと周りが見えないのだから困るわぁ」

「……すみません」

「素直でよろしい。ともかく。パズゥは行かないの?」


 姉は、口元に扇子をあて上目遣いで私を見る。


「行くも何も。謹慎中の身です」

「お父様から許可が下りたわぁ。あなた、このままでは暫く仕事にならないでしょう?一目逢って話してきなさい」

「え……まさか、姉様が?」

「感謝なさいよ?」


 迷わず頭を下げた。胸が激しく鳴り、呼吸が苦しい。

 ひとときでもいい、逢いたい。


「……一生、恩に着ます」

「よろしい」



 急ぎ礼服に着替えようと背を向けると、釘をさされる。


()()()()()。わたくしはアラスンに許可した覚えはなくてよ?」

「……はい。承知しました」



 私服に着替え、姉のもとに戻る。


「一番似合う服を選んだのね?いいわねぇ~。よく似合っているわ。……ねぇ、パズゥ?」



 フェルシュが、私の額をちょんとつついた。



「聖女様が大好きなんでしょう?……追いかけてしまっても、いいのよ?」


 あなたの好きになさい。姉はそう言って背を向けた。



 ――好き?追いかける?


(なにを馬鹿なことを言うんだ。私は第8王子で、大使で……)


 悩むべきは今ではない。一刻も早く馬車で追いかけねば。

 私は急ぎ廊下を進んだ。



 ――



「……ディア女王陛下!」


 ギリギリ、間に合った!

 客船に乗り込もうとするディア陛下を呼びとめる。



「パズウェル殿下?」



 エスコートする大男から手を奪い、私はその小さな手を祈るように包んだ。


 ――きっと、白い服を選んだ時点で、私の心は決まっていたのだ。



 陛下に、ついていきたいと。



「私も連れて行ってくださいませ――ディア・ヴィルシュ様。海を越えて伝わる献身と慈愛、さらに謁見の間での清冽なお姿を拝見し、私が命を捧げるに相応しい素晴らしいお方だと確信いたしました」


 困ったように首を傾げる、その姿すら愛らしい。


「……あなたは、レオパトの王子でしょう。自国に尽くす義務がありますわ」


「庶子の第8王子です。冠は遠く、義務すら届かぬこともある。私ごときが抜けたところで、我が国は痛みすら感じないでしょう」



 ひと時の沈黙が落ちる。



 私なら役に立てる。外交で身につけた能力と、レオパトとの縁。

 愛してもらえなくてもいい。ただ、貴女の支えになりたい。


 澄んだ翡翠の瞳とぶつかり合う。――彼女は、眉を下げた。



()()()()。高貴なる者の義務を捨ててはなりません。……わたくしと共に歩むのではなく、この地に尽くしてくださいまし」



(……そんな)



 胸が痛くて、張り裂けそうだ。せめて情けない顔を見られたくなくて、俯いた。


 包んだ白い手を見つめる。……離したら、この方は去ってしまう。心の悲鳴を無視して、手をそっと離した。



 静かにレオパトの作法で一礼をする。



「甘えた考えをお叱りいただき誠に感謝いたします。――ディア・ヴィルシュ女王陛下。変わらぬ友情を。貴女がいつ、いかなる理由でこの地に降り立とうと、私は必ず貴女をお迎えいたします」


「……ありがとう、アラスン様。あなたの気持ちは受け取ったわ。……変わらぬ友情を」


その優しくも儚い微笑みに、息もできない。


 

彼女は背を向け、桟橋を渡っていった。



 しばらくすると汽笛が鳴り、船はゆっくりと岸から離れていった。


 美しい人が離れていくのを、ただ見送る。


頬を伝う熱い雫を拭うこともできず、船が見えなくなってもただ私は港に立ち尽くしていた。




 こうして。

――こうして、私の初恋は散っていったのだ。


明日、エピローグを追加します。

引き続き、よろしくお願いいたします!!

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