6話 悲劇のヒロインに救いの手を
あぁ。神は、この美しい人にどこまで試練を与え給うたのだ。
「――戯言はよさぬか!国璽だぞ!?命よりも重い、国を国たらしめる証が……消えただと!?……あーー!……記録官!去ね。記録は燃やせ。すぐにだ!」
(父上がこんなに焦っているところを初めて見た)
「ロンディネは一体どうなっておる!?意味がわからぬ!そのようなバカげた……バカ……まさか」
ギギギと音が鳴りそうな程ぎこちなくディア陛下に顔を向ける。
彼女は膝をついたまま、静かに俯いた。すなわち、国璽は……。
「――併せて紛失した国宝も探しております」
(なんだって!?)
「ディア女王陛下!それは、クーズイル様が略だ「パァズウェーール!頼む!黙ってくれ!!」……はい」
父の叫びに口をつぐむ。……『元国王が略奪』など自分が公式の場で許されぬ発言をしかけたことに気づき、ゾッとする。
少し距離を取らねば駄目だ。父の後ろに下がり、口元を引き締めた。彼は私が下がったのを確認してぼやいた。
「まったく……この子は誰に似たんだか」
(……あなたですよ)
父は頭を振ってから慎重に口を開いた。
「紛失したのだな?」
「はい。とても困っております。個人印ではどうしても限界がありますもの。……すぐに見つかれば良いのですけれど」
じわりとまた涙が浮かぶ……ああ、今すぐ優しく拭って差し上げたい。
「もし見つからなければ、諸外国にも協力を仰がねば。……ああ、自国の恥を公表するなんて、国民の皆様になんとお詫びをすればよいのでしょう……」
お可哀想に。針の筵ではないか。
はぁーーーーと天を仰ぎ、長い長い溜め息をついた父は「行くぞ、心当たりがある」と早口で呟いて臣下用の門へ足を向けた。
――
離宮に向かうべく、父の乗った馬車に同乗しようと踏み板に足をかけた瞬間。車内から出てきた手に頬を思い切り掴まれた。
「むぎっ!」
「パァズウェール?お前は留守番だ……わかるな?」
駄目だ。完全に、目が座っている。
私は足を踏み板から地に移した。
「……承知しました。度重なる失言、誠に申し訳ございませんでした」
深く、頭を下げる。
「…大変厚かましい願いですが、何卒、彼女を追い詰めないでください。おそらく、譲位宣言書を得るのにも厳しい試練があったはず……どうぞお願い申し上げます」
呆れきったようなため息が上から降り注ぐ。
「アレがそんなに弱いわけがなかろうが……クソ、完全に見誤った」
ぼそりと零れた言葉は、小さくて聞き取れなかった。思わず顔を上げた――瞬間に今度は鼻をつままれた。
「パズウェル、お前、10日間謹慎」
「えっ!?」
「ついでに担当大使は交代。反省せい」
「そ、そんな……」
「当然だ!ったく、誰に似たんだか――はぁ、俺か」
馬車は私を置き去りにして離宮に向かう。
――気づけば、私は自室のソファに倒れこんでいた。
お読みいただきありがとうございました!




