3話 情報が、情報が多い!!
ロンディネ王国、駐在大使のジルビア。
その子息から届いた手紙曰く。
かの国は想像以上に恐ろしいカオス状態であることが判明した。
暴動に参加した子息は、冤罪で投獄されていたヴィルシュ令嬢が、バカから一方的に王位を譲位された場面を目撃したという。
……逆境に負けず民の為に立ち上がるディア・ヴィルシュの姿に皆感動し、その場は収まった。
しかしその後、彼女は暴動参加者に対して譲位宣言書をぬけさくが持ち出したと報告し、王位を返上。さらに東部で起きた災害を、王家が放置していたことを告白した。
待て。
婚約者を冤罪で投獄?その相手に王位を押し付けた?譲位宣言書がない?王位を返上?王家が災害を放置!?
(……情報が、情報が多い!!)
おいロンディネ大丈夫か?!
洪水はまだ続く。
ヴィルシュ嬢は暴動のリーダーと和解し、暫定措置として食糧庫を王都の民に解放。
さらに被災者救援のために、単身実父……あのヴィルシュ侯爵の下へ向かい、涙の説得で150億もの支援を得た。
(なるほど、父の話していた『金と美談』がこれか。……しかし、これは本当に『仕込み』なのか?)
ミルクを入れた茶をゆるゆるとかき混ぜる。
(父は傀儡と言っていたが、それならば譲位宣言書の不在を公表する必要はあるまい。いや、それすら演出か?)
――待て。そもそも、彼女はなぜ冤罪で投獄された?
ディア・ヴィルシュは父親に『冤罪』だと、『見捨てないで』と必死に訴えたという。
(彼女も、捨て駒にされたのか?)
ロンディネでは普通なのだろうか。親が、己の保身のために子を贄にすることが。
(クーズイル・ガ・センパーンダも、アシュレイ・ヴィルシュも人間の所業とは思えぬ!)
「……パズウェル殿下?」
思考の海に沈んでいた私を、大使が覗き込んだ。しまった。なんとか言葉を探して捻り出す。
「……きっと、陛下もお辛かったでしょう」
ヴィルシュ家の国内支持は絶大だ。下手なことを口にして、レオパトの印象を悪くするわけにはいかない。
アシュレイ・ヴィルシュの狡猾さに歯噛みする。
そんな私の葛藤など気付く様子もなく、彼は大きく頷いた。
「ええ!ええ!理不尽に負けず、慈愛の心を貫く素晴らしい女性です。ついにゴーミル卿も改心して、譲位宣言書を送ってくださったそうです。……本当によかった。我が国はきっと安泰でしょう!」
馬鹿な。
あの愚劣が改心なぞするはずがない。
思考停止もいいところだ。
偽物か、あるいは拷問でもして宣言書を書かせたか……碌でもない手段を用いて手に入れたのだろう。
しかし。
(……自ら冠を返上するような誠実な人間が、今更簒奪を行うのか?)
混乱を表に出さぬよう、ジルビアの話を適当に返しながら焼菓子を咀嚼する。
香りが、足りぬ。
聞けば聞くほど、地位を望むような人物には思えず混乱する。
――災害支援を盾にアシュレイ・ヴィルシュが娘を王座に縛り付けた……?
最悪の想像に、怖気が走った。
(もしそうならば……ディア・ヴィルシュは)
親に捨てられ、民という重圧に耐え、野望の操り人形に甘んじる。
眼前がじわりと滲み、握りしめた拳に爪が食い込む。
(きっと、自らを犠牲にしてでも民を選ぶ高潔な方なのだろう。……いつか、お救いできれば……)
清らかで、優しくて、全てを民に捧げてしまう悲しき女性、ディア・ヴィルシュ。
私の下衆な野望は打ち砕かれ、残ったのは純粋な敬意のみだった。




