1話 ゴーミルとの最悪な出会い
「おお!お前がパズウェル・ナーシェイ第8王子か?出迎えご苦労」
(死ね)
「……お初にお目にかかります。ゴーミル・ガ・センパーンダ王子殿下。大変恐縮ではございますが、大使としての公務中ですので、アラスンとお呼びください」
(事前通達しているだろうが、死ね)
私は身につけたロンディネ語を操り、丁重に頭を下げる。髪で隠れた顔が歪んだ。
「変わっているな。まぁいい、アラスン。案内しろ」
笑顔のまま、ぴくりと額に青筋が走る。
(こいつが次の王だと?馬鹿にしているのか)
レオパトの鮮やかな港町に下り立ったゴーミルは、張り合うかのような毒々しい衣を纏っている。
なまじ顔が美しいだけに似合っているのがまた腹立たしい。
海を挟んだ隣にある我が国の言葉を話す気すら見せぬ王子は、ニヤニヤと嗤っていた。
私と同い年の17歳。もし、私が王になっていれば生涯の付き合いになっていたであろう。
……第8王子でラッキーだと思ったのは、物心がついてから初めてのことだった。
それほどまでに、最低を超えた最悪の出会いだったのだ。
――
「父上!アレはなんなのですか?」
ふらりと私室に入ってきた父上に苦情を申し立てる。目をそらしつつも笑って長椅子にかけるところをみると、あえて今、ここに来たのだろう。
(ならば、遠慮はすまい!)
「貴賓室に着いて早々、女を呼べとほざく奴など見たことがない!断れば商人を呼べと!彼奴は大使を通訳か小間使いとでも勘違いしているのですか!!」
「パズウェル。落ち着け」
「アレが国を背負うのか!?女と贅沢にしか興味のない張りぼてですよ!ロンディネは何を考えている!」
「パァズウェーール。そこまでだ」
むぎゅりとサリストが私の頬を掴んだ。
睨みつける。ここは私の部屋なのだから、何を言おうが私の自由だ。父上とて止める権利はないだろう。
「……すまなかった。アレの相手はお前には少しばかり酷だったな。――しかし、官吏に下ればああいう輩と必ず関わることになる。それがお前の選んだ道だ」
手を離した父上に諭される。もうすぐ成人なのに、末子だからといつまでも『ややこ』の様な扱いをしないでくれ。
そう思う反面、少し熱くなりすぎたことに内省する。
年齢の割に落ち着いた性格だと自認していたが……アレに関わるとどうも箍が外れてしまうようだ。
「……失礼いたしました、陛下。当然、外では出しませぬ」
「ならば良し。……まったく、誰に似たんだか」
(あなたにですよ!)
母上がしょっちゅう『あなた達は気が短くて困るわ』と零しているのを、知らないのだろうな。……母上は父上に甘すぎる。
私は頭に乗った手を払って、侍女に茶を命じた。
アレが帰るまで、あと5日。
「じきに、お前の不満はなくなるだろう。わずかな辛抱」
父上は目を細めて長椅子に身を預けた。
一体、何を考えているのやら。
(忍耐が試されるな……)
カップの水面に視線を落とし、ため息をついた。
――
私は、奴をひとつだけ誤解していた。
アレはレオパト王国を侮って自国語を話していたのではない。
全く、他国の言葉を話せなかったのだ。
その恐ろしい事実に気づいた時、私が思わず頭を抱え込んだことは想像に難くないだろう。
――知識も、儀礼も、何一つ要らない。
――王になるために必要なのは、長子であることだけ。
残酷な真理が、美しく嗤っていた。
――
5年後。
ロンディネからクーズイル国王が我が国に『静養』に来られた。
――「まもなく暴動が起きるから息子のゴーミルに王位を譲った」と汗だくで説明する賓客を見下して、レオパト国王は口の端を歪めた。
下座で膝を付き、子を生贄に捧げる愚かな親の背を冷ややかに見つめる。
(わずかな辛抱か。陛下は、一体どこまで考えておられたのだろうか)
粟立つ肌を抑え、頭を垂れる。
――転がり落ちるかの国は、果たしてどこへ辿り着くのだろうか。
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