8話 鉄パイプ令嬢は逃走王子を尻バットする
「おい、いくらなんでも冗談だろ?……なぁ?」
「ご実家のお隣さんだったんですね!」
グリースは地面に両手をつき、ミュウはのんきに笑う。
彼が頭を抱えるのも仕方がないわ。
そう。ゴーミルの潜伏先は貴族街の奥地、ヴィルシュ家の隣にある、カクマーウ子爵家のタウンハウスだったのだから。
「お父様の報告書ですもの。まず間違いないわ。ゴーミルが移動したらすぐに連絡すると書いてあったし」
「……連絡は?」
「ないわね」
「バカなのか!!??」
だから、バカなんですってば。
どうせここにいる理由だって移動が『面倒だから』とかしょうもないものでしょう。
わたくしは鉄パイプを振り上げた。
ガァン!ガァアン!!
「また壊錠かよ!?」
あら何かしら?鉄柵を叩く音で聞こえないわね!
ガンガンガンガンガンガンガンガン!!!
「るっせぇ!!俺は眠いんだ!!静かにしやがれ……え?は?ディア?メイド?夢?」
「おはようございます。ゴーミル卿。もう11時過ぎですわよ?」
正面扉から金色のパジャマで飛び出したお寝坊さんに、わたくしは丁重に挨拶をする。
ゴーミルは、パクパクと口を開け閉めし――光の速さで屋敷に逃げ込んだ。
おもいきり声を張り上げて命ずる。
「――ボケッダ・カクマーウ子爵家一同!!即刻門を開き、ゴーミル・ガ・センパーンダをお連れなさい!|これは、国王ディア・ヴィルシュの命である!!」
駆け寄った下働きが慌てて開門し、わたくし達は堂々と応接室に乗り込んだ。
程なくして。
縄で簀巻きにされた顔だけ極上男を引きずる、カクマーウ一家が現れた。……脂汗で顔が溶けそうね。
「わ、私共は、その、ゴーミル殿下いや、ゴーミル殿に脅されており「ふざけるな!俺の金で毎日娼婦呼んでたじゃねぇか!」あーあー!!聞こえません聞こえません!エミリーちゃんなんて呼んでません!」
墓穴を掘るのが早い!!
わたくしは相棒で床をカァン!と叩く。
「家宅捜索、させていただくわね?」
――
家宅捜索は一瞬で終わった。
すべての持ち物が来賓室のクロゼットに放り込まれていたからだ。せめて隠しなさいよ。
国宝残り7点無事確保。……デリバリー娼婦のために売られていなくてよかったわ。
簀巻きは5つに増えた。ゴーミルとカクマーウ一家だ。
横領と横領犯匿いの罪で現行犯。
余罪は後日検めるとして、ひとまず鉱山に押し込んでおきましょう。
……クーズイルもだけれど、このタイミングで元王族を処刑するとあまりにも外聞が悪いのよ。
まぁ、鉱山ならいつどんな『事故』があっても不思議じゃないもの。後々ゆっくり、ね。
さて。気を取り直して、ここからが本番。サクサクいきましょう。
わたくしは、転がるゴーミルの前に立つ。
「デ、ディア!貴様!ロンディネの王子に対し簀巻きなど!!死刑だ!死刑にしてやる!!」
「ふふ、死刑?王子?わたくし、こんな愚かな子供を産んだ記憶は無くてよ?……王冠をわたくしに押し付けたその時から、あなたはただのヒト。おわかりかしら?」
「な、ななな!それは!だってどうせすぐ殺されると思ったからぁ!なんで生きてるんだよ!!ふざけんな!!死ね!!」
「目論見が外れて、残念ね?」
「~~ッ!」
ギリギリと悔しそうに歯を食いしばるゴーミル。
あぁ……!これまでの苦痛が浄化されていくのを感じるわ!
「ハッ……!そうだ!お前と結婚してやる!婚約者だもんな!ルンルンたんは諦める!世界一美しいこの俺が夫になってやるよ!はは、可愛がってやるぞ。デ・ィ・アたん♡」
まさかのキメ顔ウインク。――一瞬で心が濁った。
そういえば元婚約者だった。酷い闇歴史だわ。というかルンルンたんって誰!?
今さら登場人物を増やさないで!!
バカの頬に鉄パイプの先をぐりっと押し付ける。
「……今すぐ、消されたい?」
「ヒェッ!!……あ!そうだ!!王は父上だ!父上に言いつけてやる!!本物の王だからな!お前なんて即断罪だ!」
次から次へと喧しい!!
鉄パイプをおもいきりぐりぐりする。
「……クーズイル上王のこと?彼はね、心を入れ替えて生涯、鉱山で働くのよ。愛するロンディネ王国の礎になるのですって。……大丈夫、あなたもすぐに会えるわよ」
「あばばばば……」
ぶるぶると震えて泡を吹き始めたゴーミル。
あースッキリしたわ!でも……やっぱりシメはアレじゃなければ、ね?
「グリース!」
「はいはい……ったく、ディア・ヴィルシュ女王陛下。『宣誓』達成、オメデトウゴザイマスっと」
呆れ顔の熊が芋虫ゴーミルを抱え起こして後ろ向きに立たせた。
「へ?!何?何が起きるんだ?おい!なあ!お前!教えろ!?ぶつのか!?顔はやめろよ!?俺の顔は国宝だぞ!!」
安心なさい。顔は狙わないわ。
わたくしは右足を高く上げて片足立ちになり、尻に向かって鉄パイプを振りかぶる!
「喰らうがいい……これが、悪政に苦しんだ民の分!」
バコーーン!
「そしてこれが、支援を受け取れず命を脅かされた東部民の分!!」
バキィーーーン!!
ミュウがピョコンと顔を出す。
「お嬢様~!あんまりぶつと『ツカイモノ?』にならなくなっちゃいますよ!」
「そうだぁ!もう止めろ!俺の美しい尻が4つに割れた!!」
「若いから大丈夫よ」
「なるほど~さすがお嬢様!」
「俺を無視するな!!」
さて、改めて構え直して、と。
「これが、わたくしを冤罪で牢に入れた分!」
バキャーン!
「これが、わたくしにボロカス状態の国を押し付けて逃走した分!」
メッキーーン!!
「……そしてこれが……」
一度止まって、全身全霊で鉄パイプを振り下ろす!
「この!わたくしに!!下品なメイド服を!!!着させた分の怒りよ!!!」
バッギィーーーーーン!!!!
「俺の尻ーーーーー!!!!」
渾身のフルスイングでシバいた瞬間。
……カラー……ン
限界を迎えた鉄パイプは真っ二つに折れ、先が地面へ吸い込まれていった。
わたくしは割れた棒を拾い、抱きしめる。
――有難う、我が友よ。
わたくしは、支え続けてくれた友に静かに感謝を捧げた。
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本日20時に終章を更新予定です。
最後までお付き合いいただけると幸いです。
お読みいただきありがとうございました!
20時30分におまけの終章を投稿しますので、そちらもぜひお付き合いください!!




